21 / 27
お見舞いに行こう
しおりを挟む
外の人のお見舞いの道すがら、完成したというオルニスの羽ペンを取りに行きました。
赤い絨毯の敷かれた高級感ある店舗で、さっき貰った茶色の羽根と同じ羽ペンを渡された。
羽根の先が削り取られて、万年筆みたいな三角になっている。
「お客様、試し書きにどうぞ」
お店の人が綺麗なカードとインクを、すすっとこちらに進めた。
さすが立派なお店の店員さん、僕らのような不細工でも驚かずに接客してくれる。
あっ!そういえば、外の人のお見舞い、これでメッセージカードを作って花でも持っていったらそれっぽいのでは!
むむむ、お見舞いのメッセージかぁ。
確か、一番悪いのは足だって聞いたなぁ。
「チーロ、外の人にお手紙する」
インクをペン先にちょんちょんしながら考える。
この世界の文字はなんとなく読めるけど、日本人だった千葉時代の英語レベルくらいだからなぁ。
サラサラ…とペンが走る
【貴方の足が速くなりますように】
あれ?なんか違うな。
ちらっと仮面教師アガメルを見る。
アガメルは、なんだか凄くニコニコと微笑んで僕を見ている。
隣のオルニスもだ。
バッと店員さんを見ると、彼は何かをこらえるように口元に手を当てて、微笑んでいる。
「まちがった?」
「いいえ、大変喜ぶと思います」
イマイチ信用無いけど、こういうのは形だから、まぁ良いかな。
羽ペンをアガメルが受け取ってくれたので、カードのインクが乾くように、フーフーと息を吹きかけた。
その間にアガメルが羽ペンを黒い鞄にしまい、支払いを始めた。
「ねぇ、オルニス。途中でお花屋さんはある?」
「花…あの盗賊が花か?花はチーロの方が似合うと思うぞ」
「お見舞いには花違うの?」
この世界ではお見舞いに花を贈ったりしないのだろうか?
「植物の場合、どちらかというと、ハーブなどを医者に渡して、世話をしてくれる方にお茶を入れてもらったり、薬に使ってもらったりしますよ人間の場合は」
支度を済ませたアガメルがやってきて言った。
「ハーブかぁ…」
それはどこで入手出来るのだろう。
そう考えていると、オルニスがガサゴソと懐を漁り出した。
「…これは、抗菌作用のある植物の種だ」
「ヨギーの種ですか!」
オルニスの手には、朝顔の種くらいの黒い粒が握られている。
「種…」
それって、鉢植えよりも根付いちゃって縁起が悪いのでは?!
「植えたらすぐに生える、おいでチーロ」
オルニスがスタスタと歩き出した。
「えっ…あ…ありがと、ございました」
店員さんにお礼を言って頭を下げて、慌ててオルニスを追いかけた。
ドアから出てショーウインドーから、ちらっと見えた店員さんが何故か崩れ落ちて土下座ポーズになっていたのは、我慢の限界だったのだろうか? ごめんね、ぶちゃいくで。
外に出たオルニスは、広場を抜けて、裏路地に入った。
地面が石畳から、むき出しの土になる。
いわゆる柄の悪そうな人たちすら、異様な集団である僕らを大げさな程避けて通る。
「わぁぁ」
粗末な家の木の扉から出てきた少年が僕らを見て驚いている。
茶色の目がまんまるになっている。5歳くらいかな。
「人間の子供よ、その枯れた草の鉢植えを借りても良いか」
口が開いたまま、呆然としている少年にオルニスが近づいた。
ドアの脇には小さい鉢植えが2つ並んでいた。
以前何か植えたであろう、枯れて藁のようになったものが一本刺さっていた。
「はっ…はい!」
少年が震える手で鉢植えを差し出した。
「ついでに、水を一杯貰えるか?」
「はい!」
少年が飛び上がるように返事をすると、家の中に走って行った。
「オルニス…どうするの?」
「まぁ、見ていろ」
オルニスが少年から受け取った鉢植えを地面に置いて、枯れた植物の横に種を押し込んだ。
「お待たせしました!」
少年が分厚いガラスのコップに、水を汲んできてくれた。
オルニスが受け取った水を鉢植えの上に注いだ。
コップを返すと、鉢植えの上に手をかざした。
みんながオルニスの一挙手一投足を見守る。
「……」
いつの間にかあちらこちらの窓が少しだけ開いて、中から住人たちが僕らを見ている。
完全に檻から抜け出した珍獣扱いだ。
「……オルニス?」
「チーロさま」
オルニスに話しかけた僕に、アガメルが唇に人差しを当てた。
しーっ。
「……」
もこっ
にょきにょき
「生えたぁぁ!」
定点観測カメラを早回しで見るように、種が発芽をして、芽を伸ばし始めた。
ぐんぐん伸びる茎。
枝分かれし、葉が茂る。
「すごぉぉい!」
僕は興奮が抑えきれずに、オルニスの周りを飛び跳ねた。
羽根がパタパタ動く。
あっという間に、種が1メートルくらいの観葉植物みたいになった。
「これ以上大きくしたら、鉢植えが、割れるな…」
そう言ってオルニスが手をかざすのをやめた。
「少し摘み取って持っていけば良い」
オルニスって…やっぱりチートだったのか!
植物生やすなんて、あれじゃん!まさにあれじゃん!
斜め向かいのトロロじゃん!姉妹の感動ストーリーの!
あぁ今度、黒い傘買って貰わないと!
ブワってやらないと!
「オルニスすごぉぉい!」
オルニスの胸にガバッと飛びついた。
オルニスがぎゅーと抱きしめ返してくれる。
「飛んで!ぐるんって回って飛ぶの!」
「ん?あ…あぁ…」
オルニスが茶色の翼を広げた。
右の羽根の包帯が破れた。
「あれ?!オルニス怪我!」
オルニスの肩に乗り上げて覗き込むと、右の包帯の下は、すっかり綺麗に治っていた。
「……」
オルニスが沈黙する。
あれ?もしかして、日本名作劇場の、北アルプスの少女、花子のお金持ちの友人と一緒で、本当は歩けるのに歩けない……みたいなヤツ?!
抱きあげられたままで、オルニスを見下ろす。
オルニスは明後日の方向を見ている。
「……そろそろ参りましょうか?」
いつの間にか、半分程度葉っぱを摘み取ったアガメルが言った。
「…うん、行く」
とりあえず、この問題には蓋をしておこう。
オルニスの上からおりて、その大きな手を握った。
「あっ…あの天人さま…この残りは…」
少年が鉢植えを指差して聞くと、アガメルが振り返って答えた。
「最高級のヨギーの葉です。みなさんでどうぞ……どうか、くれぐれも争いにならないように…」
アガメルの周囲の気温が5度は下がった。
こっ…こわっ!
赤い絨毯の敷かれた高級感ある店舗で、さっき貰った茶色の羽根と同じ羽ペンを渡された。
羽根の先が削り取られて、万年筆みたいな三角になっている。
「お客様、試し書きにどうぞ」
お店の人が綺麗なカードとインクを、すすっとこちらに進めた。
さすが立派なお店の店員さん、僕らのような不細工でも驚かずに接客してくれる。
あっ!そういえば、外の人のお見舞い、これでメッセージカードを作って花でも持っていったらそれっぽいのでは!
むむむ、お見舞いのメッセージかぁ。
確か、一番悪いのは足だって聞いたなぁ。
「チーロ、外の人にお手紙する」
インクをペン先にちょんちょんしながら考える。
この世界の文字はなんとなく読めるけど、日本人だった千葉時代の英語レベルくらいだからなぁ。
サラサラ…とペンが走る
【貴方の足が速くなりますように】
あれ?なんか違うな。
ちらっと仮面教師アガメルを見る。
アガメルは、なんだか凄くニコニコと微笑んで僕を見ている。
隣のオルニスもだ。
バッと店員さんを見ると、彼は何かをこらえるように口元に手を当てて、微笑んでいる。
「まちがった?」
「いいえ、大変喜ぶと思います」
イマイチ信用無いけど、こういうのは形だから、まぁ良いかな。
羽ペンをアガメルが受け取ってくれたので、カードのインクが乾くように、フーフーと息を吹きかけた。
その間にアガメルが羽ペンを黒い鞄にしまい、支払いを始めた。
「ねぇ、オルニス。途中でお花屋さんはある?」
「花…あの盗賊が花か?花はチーロの方が似合うと思うぞ」
「お見舞いには花違うの?」
この世界ではお見舞いに花を贈ったりしないのだろうか?
「植物の場合、どちらかというと、ハーブなどを医者に渡して、世話をしてくれる方にお茶を入れてもらったり、薬に使ってもらったりしますよ人間の場合は」
支度を済ませたアガメルがやってきて言った。
「ハーブかぁ…」
それはどこで入手出来るのだろう。
そう考えていると、オルニスがガサゴソと懐を漁り出した。
「…これは、抗菌作用のある植物の種だ」
「ヨギーの種ですか!」
オルニスの手には、朝顔の種くらいの黒い粒が握られている。
「種…」
それって、鉢植えよりも根付いちゃって縁起が悪いのでは?!
「植えたらすぐに生える、おいでチーロ」
オルニスがスタスタと歩き出した。
「えっ…あ…ありがと、ございました」
店員さんにお礼を言って頭を下げて、慌ててオルニスを追いかけた。
ドアから出てショーウインドーから、ちらっと見えた店員さんが何故か崩れ落ちて土下座ポーズになっていたのは、我慢の限界だったのだろうか? ごめんね、ぶちゃいくで。
外に出たオルニスは、広場を抜けて、裏路地に入った。
地面が石畳から、むき出しの土になる。
いわゆる柄の悪そうな人たちすら、異様な集団である僕らを大げさな程避けて通る。
「わぁぁ」
粗末な家の木の扉から出てきた少年が僕らを見て驚いている。
茶色の目がまんまるになっている。5歳くらいかな。
「人間の子供よ、その枯れた草の鉢植えを借りても良いか」
口が開いたまま、呆然としている少年にオルニスが近づいた。
ドアの脇には小さい鉢植えが2つ並んでいた。
以前何か植えたであろう、枯れて藁のようになったものが一本刺さっていた。
「はっ…はい!」
少年が震える手で鉢植えを差し出した。
「ついでに、水を一杯貰えるか?」
「はい!」
少年が飛び上がるように返事をすると、家の中に走って行った。
「オルニス…どうするの?」
「まぁ、見ていろ」
オルニスが少年から受け取った鉢植えを地面に置いて、枯れた植物の横に種を押し込んだ。
「お待たせしました!」
少年が分厚いガラスのコップに、水を汲んできてくれた。
オルニスが受け取った水を鉢植えの上に注いだ。
コップを返すと、鉢植えの上に手をかざした。
みんながオルニスの一挙手一投足を見守る。
「……」
いつの間にかあちらこちらの窓が少しだけ開いて、中から住人たちが僕らを見ている。
完全に檻から抜け出した珍獣扱いだ。
「……オルニス?」
「チーロさま」
オルニスに話しかけた僕に、アガメルが唇に人差しを当てた。
しーっ。
「……」
もこっ
にょきにょき
「生えたぁぁ!」
定点観測カメラを早回しで見るように、種が発芽をして、芽を伸ばし始めた。
ぐんぐん伸びる茎。
枝分かれし、葉が茂る。
「すごぉぉい!」
僕は興奮が抑えきれずに、オルニスの周りを飛び跳ねた。
羽根がパタパタ動く。
あっという間に、種が1メートルくらいの観葉植物みたいになった。
「これ以上大きくしたら、鉢植えが、割れるな…」
そう言ってオルニスが手をかざすのをやめた。
「少し摘み取って持っていけば良い」
オルニスって…やっぱりチートだったのか!
植物生やすなんて、あれじゃん!まさにあれじゃん!
斜め向かいのトロロじゃん!姉妹の感動ストーリーの!
あぁ今度、黒い傘買って貰わないと!
ブワってやらないと!
「オルニスすごぉぉい!」
オルニスの胸にガバッと飛びついた。
オルニスがぎゅーと抱きしめ返してくれる。
「飛んで!ぐるんって回って飛ぶの!」
「ん?あ…あぁ…」
オルニスが茶色の翼を広げた。
右の羽根の包帯が破れた。
「あれ?!オルニス怪我!」
オルニスの肩に乗り上げて覗き込むと、右の包帯の下は、すっかり綺麗に治っていた。
「……」
オルニスが沈黙する。
あれ?もしかして、日本名作劇場の、北アルプスの少女、花子のお金持ちの友人と一緒で、本当は歩けるのに歩けない……みたいなヤツ?!
抱きあげられたままで、オルニスを見下ろす。
オルニスは明後日の方向を見ている。
「……そろそろ参りましょうか?」
いつの間にか、半分程度葉っぱを摘み取ったアガメルが言った。
「…うん、行く」
とりあえず、この問題には蓋をしておこう。
オルニスの上からおりて、その大きな手を握った。
「あっ…あの天人さま…この残りは…」
少年が鉢植えを指差して聞くと、アガメルが振り返って答えた。
「最高級のヨギーの葉です。みなさんでどうぞ……どうか、くれぐれも争いにならないように…」
アガメルの周囲の気温が5度は下がった。
こっ…こわっ!
53
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる