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オルニスのお話

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俺は生まれた時から、何かと周りが騒がしかった。
それは、天人としては異例の一卵性の双子だったからだ。

オーキス山の天人の卵が出現する神殿に、現れた一際大きい卵に皆は騒然とした。

さぞ、偉大な天人の子が生まれるのだろうと大騒ぎになり、誰がこの卵の育て親になるのか、慎重な話し合いが持たれたらしい。


そして、卵の孵化の予兆を感じた天人達は神殿に集まり、生まれた俺たちを見て驚いた。

大きな卵だったのは、二人だったからなのか、と。

周りに奇異の目を向けられていたが、俺とエドガーは順調に育ち、その能力が、他の天人達よりも遥かに優れていると知ると、周囲の評価は一変し、羨望の眼差しを受けるようになった。

「おい、エドガーまたそんな所で一人で居るのか」

俺たちは、姿形はそっくり同じなはずなのに、性格も雰囲気も全く違った。
俺は、体を動かす事が好きで、魔獣を狩る遊びをしては、大人達を驚かせ、子供達からはボスとして慕われた。

「うるさいのは嫌いだ…」

エドガーは、遥か昔からある広大な天人の蔵書室に入り浸り、いつも本を読んでいた。

「オルニス…海獣を狩りに行ったんだって……世話役が君に無謀な事をするなって言っておけって……」

エドガーが本を閉じて、俺を見上げた。
エドガーの周囲には本の山が積まれている。この何十冊もの本を数時間で読んで、一字一句記憶してるのだから、この天高く広がる本たちも、あとどれ位で読み尽くされるのだろうか。

「なんだよ…うるさいジジィ達だな…何か文句があるなら直接言えよ」

「…まぁ一応、私が兄って事だし…」

「何が兄だ…先に羽根を広げただけだろ…」

エドガーが苦笑いをしながら本を片付け始めた。

「なぁ、それ片付けたら競走しようぜ!」

蔵書室の床に座り込んで、飛んで本をしまうエドガーを眺めた。

「他の奴らとやれば良いだろ…」

「やだよ、あいつら全然相手になんねー!ヒヨコみたいに、ふわふわ飛んでるんだぜ」

「君と付き合うと疲れる…」

エドガーが俺をちらりと見て、ため息をついた。

「なぁ、一度だけ!向かいの山行って戻るヤツ。だって誰より早く飛べなきゃ、番が遠くに現れたら直ぐに守ってやれないだろ」

早ければ子供の時に現れる、番の卵。俺たちは、どちらもまだ現れていない。

「文献によると、多くはこのオーキス山の付近に現れるけれど…遠い場所の場合もあるみたいだな…」

興味ないフリをしてるけれど、エドガーが番関連の本を多く読んでいる事は知っていた。
エドガーの番なら、きっと物静かで賢いタイプだろうなと思う。

「なっ、早く飛べるようになっておいた方が良いだろ!行こうぜ!」

俺が翼を広げると、本がバサバサと開いた。

「おい、本を粗末にするな……分かった…行くから、外で待っていろ」

「早くしろよ」




少年期を終えて、成体になっても俺たちの番は現れなかった。
周囲の者たちが、次々に番の卵を手にし、仲睦まじく過ごす姿を見て、俺の中で焦りが生まれた。

「なぁ、エドガー。俺たちには番は現れないのか?」

「……わからない…一卵性の天人なんて、文献には一例も載っていなかった…」

蔵書室の本を読み尽くしてしまったエドガーは、今度は人間やオークの書物を買い付けたり、薬学や、武器などの研究を始めた。

「…このまま現れないなんて事は無いよな……あぁ!!くそぉ…もうどんな邪悪な番だっていい!そいつの為なら人間だって滅ぼしてやる……」

エドガーの研究室の机に突っ伏し、羽根を羽ばたかせた。

「……やめろ、オルニス、私の部屋から出ていけ…」

エドガーがズレたメガネをかけ直した。
天人で目が悪くなることなんて滅多にないのに…暗い部屋でずっと本を睨みつけているからだ。

メガネを自分で作る技術には驚いたが…。

「あぁ……お前の暗い番もどこに居るんだろうな」

大人しい性格で、年々引きこもりがちになったエドガーは、周囲からは暗い変人だと避けられるようになっていた。

俺は、エドガーが孤立しないように気にかけて毎日顔を出している。

「私の番を暗いとなぜわかる…まぁ、それなら、それで静かで良い…」

「ただのイメージだ。エドガーがキャーキャーうるさい番と過ごしている姿が想像できない」

番と二人で1日中、無言で本を読んだりしていそうだ。

「…そうだな……お前は、どんな番でも似合いそうだがな」

そう言って薄く笑った顔がなぜだか印象的だった。


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