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美醜
しおりを挟むえっちら、おっちら階段を降りて、何だか賑やかな声がするドアを開けた。
「……」
扉の先は、ファンタジー世界のレストラン的な空間だった。
外に面しているところがガラス張りになっていて、何やら文字が書いてある。
カウンターと客席があって、夕暮れ時だから、多くの客で賑わっていた。宿にレストランが併設されてるのか。
「……」
なぜだか、賑わっている店内は、
静まりかえり人々の注目が僕に集まっている。
えっ…時間止まった?
でも、そこのお水注いでいるお姉さん…水こぼれてますし、おじいさんはパンが手からこぼれ落ちた。時は流れている。
凄く居心地が悪いぞ…。
僕、今真っ裸じゃないよね…不安になって、ポンポンと体を叩いた。うん、布あるぞ。
あぁ…服装!
白い布巻いただけの、みすぼらしい格好にドン引き!
しかも裸足だったわ!
そうだね…皆、それなりに布多めなドレスとか、戦士っぽい鎧とか、何かの制服とか…ちょっと金持ちっぽい。
ハイソなレストランに現れた不審者、僕!
あれか…この世界の貧困事情とか分からないけど、孤児とか思われてる!?
「……パパ…あの人…背中に羽根があるよ…」
扉のすぐ横の席に座っているファミリーの小さい子が、僕を指差した。
「こらっ!!」
なぜだか、そのお父さんが子供の口を塞いで引き寄せた。
えっ…僕、いま…見ちゃだめ!!される怪しい人物!!
誤解です!
喋るとアホっぽくなってしまうから、何も言わずにニッコリと微笑んでみた。
「!!?」
親子や周りが、目をまん丸にして撃沈した。
えっ…嘘!!
今度の体は、そこそこ綺麗だと思ってたのに…まさかの美醜逆転世界なの!!
嘘おおおお!!
それじゃあ、オルニスなんて、ぶっちぎりの不細工認定!?
えええ!!僕の将来モテモテ無双どこ行った!!
「チーロ…モテテない」
しょぼんと肩を落とした。
そうだよな、人生そんなに上手いこと行かない。
いや…ちょっと待て!!
じゃあ、滅茶苦茶な美少女と美女達が、世界の男たちに見向きもされないで眠っているということ…。ピンチはチャンス!!まだ行ける!
「お客様…夕食はお部屋でと伺っていましたが、こちらになさいますか?」
困り顔のお店の人がやって来た。
あんまり僕の顔を見ないように、視線が外れてます。
ふおぉぉ…そんなに!?見るに耐えないの!?ちょっと泣きそう。
営業妨害になっても困るし、退散して大人しくオルニスを待とう。
ふるふると頭を振って、手を合わせて謝り、もと来た道をそそくさと戻った。
階段を上がる頃には、「とんでも無いものを見ちまった!!」「いやああ!!目に焼き付いてる!!」とか店から叫び声が聞こえて来て、マジか…とセンチメンタルな気持ちになった。
部屋のベッドに戻り、布を被りオルニスを待っていると、程なくして彼が帰ってきた。
「オルニス!!どこあった!!」
半泣き状態で、オルニスの胸に飛び込んだ。
「どうした、チーロ寂しかったのか?……可愛い……悪い…まだ寝てると思って買い出しに……泣いてたのか……くそっ…かわいい……」
オルニスが僕を抱き上げて、僕をぎゅうっと抱きしめた。
その可愛いは、身内の贔屓目ってやつですね。
まさか美醜逆転世界だったとは…。
オルニスの顔を離して見つめる。
無造作に掻きあげられている長い髪が、パラパラと流れて頬にかかる。
この筋の通った眉間から始まる高い鼻も、吊り目気味の鋭い眼差しも…神に愛されたようなご尊顔が……不細工認定だなんて…。
きっと苦労したんだろうな、オルニス。
「寂しいないよ…オルニス……チーロ、居るよ。オルニス顔、チーロ好きよ!ピカピカよ!」
オルニスの頬を両手で包む。
「………可愛い過ぎてツライ……そうかチーロは俺の顔が気に入ったのか……それは…複雑だ…アイツと同じだからな……」
なぜかオルニスが難しい顔をした。ん?なんか最後聞き取れ無かったけど…。
「チーロ、オルニス顔好き!いっぱい格好いい思う」
だから、そんな顔しないで!
ほら、顔よりも中身大事な女性いっぱいいるから!!
「チーロ……顔以外で愛されるように頑張るな…」
そう、その意気だよ!お兄ちゃん!
「うん!!でも、チーロ、オルニスのお顔、一番好きするよ!!」
「……」
なぜか、それから数時間、僕らの間には凄く重たい空気が流れた。
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