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羽根の男
しおりを挟むぐぅぅ きゅるるる
お腹が何かの鳴き声かのように鳴っている。現代っ子の僕は、ここまで空腹感に苛まれたのは初めてだ。だって、お店はそこら中にあるし、鞄の中には一つ二つお菓子を入れていた。
もう、ここから出たい。
このボールが食べられない以上、外で食べ物を探さなければならない。
あれだろうか、この中の水は焼いたら白身みたいになるかな??
僕、ドラゴンなら火とか吐けないかなぁ。
いっちょやってみますか!
お腹に力を込めて。
「ひゅぉぉぉぉ」
思いっきり息を吐いてみたけれど、火は出ない。
『おい…卵の中から…鳴き声がするぞ…』
『くそぉ!!もう生まれるのか!?』
「くぅぅぅぅ」
ダメ押しでもう一度やってみたけれど、やっぱり火は出なかった。
やけになった僕は卵の中でジタバタと暴れ回った。
『お頭!!どうします!?暴れてますよ!!』
『こうなったら仕方ない…見守るしかねぇ』
「あぁ…だれかぁ…おにぎり下さぁい…パンでも……飴でもいいです…」
再び中のボールを手にして、チューチュー吸って気分を紛らわせる。
『……おい…静かになったぞ…』
『まさか…死んじゃったんじゃ……』
『ふざけんな!売れなくなるだろう!!おい!!ちょっと止めろ!!』
ヒヒーーン!
あれ?外の人たちが騒がしくなったと思ったら、馬車が止まったぞ?
なになに??
僕は外の様子を探るために、殻に耳を当てた。
『死なれたら困る…仕方ない、割るぞ…』
『…卵…凄く静かになりましたね…』
『くそぉ!…とりあえず殴るか』
ゴン!!
「うわぁぁ…」
耳を当てていたところを突然叩かれて、右の耳がキーーンと耳鳴りになった。
びっ…びっくりした。
『割れねぇ!!』
『中の子が泣いてるっすよ!!』
『お頭!自慢の蹴りでどうすっか』
ガッ!!
おぉ、察し!
どうやら割ろうとしてくれている様子!!
此処は外の皆さんを応援しなければ。
「がんばれ、外の人、がんばれ」
『なんだよこれ!!硬いぞ!』
『中の子が、ピーピー泣いてます!!早く割って、お頭!!』
『お前がやれよ!!』
「早くぅ~出してぇ~ここから~」
妙なテンションになり歌ってみる。
『おい…鳴き声が変になったぞ!!仕方ねぇ、この斧でやるか』
『気をつけて、お頭!中の子まで殺さないで!!』
外の人たちが、突然静かになった。
えっ…うそ!?諦めちゃう感じですか?いやいや、困る!
「助けてくださぁぁい……出してぇ」
『いくぞ……くっ!!』
『えっ…お頭ぁぁ!!』
その瞬間は突然やってきた。
卵に今までに無い、強い衝撃がかかったと思ったら、卵のてっぺんにヒビが入って、斧が刺さった。
「ひぃぃぃ」
なんという野蛮な割り方!!桃太郎もさぞビックリした事だろう。
僕は震えて卵に刺さっている斧から遠ざかった。
『お前ら…何をしている…』
『……て…天人…ひぃぃ!!』
なんだろう、外の様子がおかしいぞ。
何か揉め始めた??鉄がぶつかり合う音がする。
バタバタと周りで暴れまわる振動が伝わってくる。
『ぎゃああ…』
『俺の番に…何をするつもりだった……許さない…』
『うわああ!!』
『に…逃げろ!!敵うわけがない!!』
『逃がすか…』
「……」
滅茶苦茶怖いけど、何がおきているのか…僕は、恐る恐る、斧が刺さっている所の殻をぺりぺりと剥がし始めた。
すると、一気に斧の周りが崩れて斧が卵の中に入って来た。
「うわぁぁ!!」
斧は、いくつかのボールを割って僕の足元に刺さった。
『っ!!』
誰かが1人近づいてきた。
そしてバタバタと馬車から数人飛び出して行く音がして、周囲はとても静かになった。
『大丈夫か…今、出してやる』
外から男が声をかけると、パリパリと上の殻が剥がされ始めた。
完全にビビっている僕は、身動きもできずに、しゃがんでその様子を眺めていた。
大きな手が、丁寧に殻をとって行くと、チャプチャプと水が溢れ出て…相手の顔も見えてきた。
お互いの目が合った。
僕は怯えて凄く情けない顔をしている自覚がある。
「……」
相手は、ビックリするくらいの美形だった。
肩にかからない程の金色の髪がパラパラと無造作に流れ、顔にかかっている。前髪は作っておらず、秀麗な顔が引き立っている。
眉間には皺がよっているし、蒼い目は怒っているようだった。
美しい顔の人が怒っていると…迫力あるな…。
多分、まだ若いけど。
なんとなくだけど。
『…来い』
上の部分が無くなった殻に、男が腕を入れて、僕の脇を持って子供みたいに持ち上げた。
「うわぁ」
ひょいっと男の肩に、僕の胸が乗り上げるように抱かれると、馬車の中の惨状が目に入った。
誰も倒れていないけれど、アチラこちらに血が飛び散っている。
えぇ…良くわからないけれど…この人は盗賊とか!?
悪い人なのでは!?
何処かで僕の卵を見つけた男の人たちから、収穫物を横取り!?
「…うぅ…」
ガタガタ震える僕をよそに、美青年が血に濡れてない毛布を引き寄せて、その上に僕をそっと下ろした。しばらく僕の体を支えたまま、僕がしっかりと立っている事を確認して手を離す。
『オーブはどこだ…』
男は僕に背をむけた。
驚く事に、男の背には羽根が生えていた。
黒に近い茶色の羽根で、先の部分だけが白色だった。そして…怪我をしているのか、巻かれた包帯から血が滲んでいる。
『嘘だろ…こんなに小さくなってる…割れたのもあるのか…そんな…』
あぁ…僕が入っていた卵って金色だったのか。
金の卵の中を覗きこんで、男が食べられないボールを掴んで嘆いている。
おぉ…やはりあれはいい食材なのでは?羽根の男は、あれが欲しかったのかな?
「あの…そのボールは差し上げますから…命だけは…」
『ん?腹が減ってるのか?』
金髪が揺れて振り返った男が、ボールを持って僕の所に戻ってきた。
片膝をついてしゃがみ込むと、立てている方の太ももに僕を座らせた。
なに?なに??
『これはオーブと言って、生まれた番に食べさせる物だ。これを食べると羽根も生えるし、言葉も通じる…』
目の前に差し出されたボールは、いつの間にか野球ボールくらいになっていた。
ぐぅぅ きゅるるる
お腹の虫が騒ぎ、無意識に手が出た。
はむっと齧りついたけれど、相変わらず噛めない…。
「食べられない…食べたいのに!」
『泣くな…ほら貸せよ…番が力を流すと食べられる』
男が再びボールを手にすると、ボールは光りプルンプルンになった。
「美味しそう!」
男の手を掴んで引き寄せ、プルンプルンのゼリーを一口齧る。
美味しい!!何これ!
凄く美味しいよ!!
大きな手を掴んで夢中で食べる。
『落ち着け…悪かった…こんなに腹が減るまで待たせて……』
あっという間に食べおわり、男の手まで舐めてしまった。
もっとちょうだい、と彼を見上げた。
『待ってろ…まだある…』
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