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使命感

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無線にダリウスとゾンビが接近してきたと連絡が入った。俺は、窓から最後に外を確認する。
外は、数台の発電機が作動させられ、少し明るくなった。それでも、現代の夜のグラウンドのような明るさはない。物陰は完全に闇だし、柵の向こう側は、俺には何も見えない。

「……この暗さで戦うの?こっちが見えているゾンビと?」
 此方の劣勢な状況に気がついて、心配で胸が苦しい。只でさえ数が、四対十数人。相手は、撃っても撃っても動き続けるゾンビ……。噛まれたらお終いだ。本当に大丈夫なのだろうか……。

「ポチ、窓から離れててね」
 外に居る蒼陽が窓をノックして言った。こんな時でも、蒼陽は爽やかに微笑んでいる。きっと俺を安心させようとしてくれているんだよね。

「うん。気をつけてね、蒼陽」
「ありがとう」

□□□□
 
 ダリウスのバイクの音が聞こえてきたと思ったら、大きな衝撃音が響き渡り、戦闘が始まった。
呼吸が荒くなって、全身がガタガタ震えている。俺、ここに居るだけで何もしていないのに、こんなに怖い。
銃撃の音が聞こえる。ゾンビの呻くような叫びが、ここまで届いた。

「……みんな……」

 怪我しないで欲しい、死なないで欲しい!
どうか無事に戦闘が終わって欲しい。
この世界に神様がいるなら、どうか彼らを守って欲しい。

 しかし、願いもむなしく、大きな爆発音と衝撃が走った。ガラスがビリビリと揺れている。

「……真っ暗」

 外の大きな投光器が消えた。元々暗かった外が、更に暗く……もはや、俺には皆の姿もゾンビも確認できない。ただ、直ぐ側の発電機が倒れ、コードが抜けているのだけはわかった。

「……ど……しよう」

 近くに居た蒼陽は、もう居ない。
 どう考えても、この灯りは必要だと思う。窓から外へ出れば、ほんの数歩で手が届く。

 まだ、ゾンビは近くまで来ていない。

 おれが……
 やらないと。

装備している拳銃を手にして、安全装置を外す。窓を静かにあけて、外を確認し……窓枠を乗り越えた。
 恐怖よりも、使命感の方が強かった。

 発電機まで走り寄り、しゃがみ込んで起こした。飛ばされたコードを掴んで、気づいた。
  コレを付けたら……恐らく皆が、こっちを見る。
 そしたら、俺が標的になる。それは……足を引っ張る行為につながる。

 隠れられそうな場所は……あった。直ぐ側に腰丈くらいの物置がある。

 コレを繋いで、直ぐに隠れる。

 俺は深呼吸をし、左手に拳銃を持ち、投光器のコンセントを差すと物置の影に走った。

「っ!!」

 眩しい程の光が周囲を照らした。
一気に銃声が響き渡り、ゾンビの呻く声が、いくつも聞こえた。
 隙を見て戻らなきゃ……物置の影から少しだけ顔を出すと、ジープの車体に体を隠していた蒼陽が見えた。
 そして、その車体の上から飛び降り、蒼陽にナイフを振り下ろすダリウス。蒼陽は降り立ったダリウスから距離をとりつつ、拳銃を撃った。ダリウスは飛び退き、拳銃を構える。
 なぜ……好きな人に、あんな風にナイフを向けられるのだろうか……なぜ銃口を向けられるのだろうか。
 そんな事が頭に浮かびながら、俺もダリウスに向かって銃を構えた。近くに蒼陽がいるから……俺の腕じゃまだ撃てない。静かに機会を窺う。

「っ蒼陽……」

 蒼陽の後ろから、ゾンビが一体現れた。すると、ダリウスが腰のホルスターから抜いた拳銃を、ゾンビの方に投げた。
 嘘だろ……なに……考えているんだよ。
 俺は、ゾンビを撃ったら良いのか、ダリウスを撃ったら良いのか……。ただ、ゾンビは狙える角度じゃないし、ダリウスは蒼陽と接近戦を始めた。ゾンビが、ダリウスの拳銃を拾って、二人の方へと銃口を向けた。

 蒼陽がダリウスよりも素早く動き、ナイフでダリウスの喉を切りつけた。
 ダリウスの首から血が勢いよく吹き上げて、そのまま後ろへ倒れていく。

 蒼陽は、ダリウスに背を向けて、今度はナイフを捨てて銃を構え、ゾンビの銃を持つ腕を撃った。

 蒼陽が倒れたゾンビに、とどめを刺すために両手で銃を構え、撃った。

 ゾンビの体が衝撃で跳ねている。


 そのとき……俺の視界の端に倒れていたダリウスが……動いた。

 暗くて真っ黒に見える血の海の中に倒れている、ダリウスが……ゆっくり起き上がって……

 蒼陽の背中に向かって、銃を構えた。

「蒼陽!!」

 


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