30 / 49
ジフ視点 最後の世代のポチ
しおりを挟む「で、豹ちゃん、どうしてこんなに時間がかかったのかなぁ?ジフ、処女だから、ちょっと分かんな~い」
思ったより時間が掛かって戻ってきた豹兒を、からかわずには居られなかった。
なんだろうな、豹兒が羨ましいのと……やっぱり豹兒がクソ羨ましいのと……豹兒が羨ましいからに決まってんだろうが!
まぁ、弟分が可愛くてからかいたいのも有る。
でもよぉ、やっぱ……若くて、誰よりも戦闘の才能があって、お綺麗な顔しやがって、頭もキレる。そりゃあ、ポチにも選ばれるよなぁ。蒼陽が来た時は、豹兒やべぇんじゃねーかと思ったけどよ。やっぱ、あのチョロい犬には押してかねぇとな。蒼陽はお優しすぎんだろうな。
かくいう俺も、最初っから上手い事言って喰っちまえば、ポチを自分のモノに出来たが……思っちまったんだよなぁ……可哀想だなと。惚れさせるだけ惚れさせて、甘やかして、守って面倒見た後、きっと俺が先に死ぬだろうな、と。今思えば、余計な考えだったがな。ポチ、俺死んでも、こいつらが何とかすんだろ。でも……やっぱ可哀想だよなぁ。アイツが泣いているの想像するだけで「誰が泣かしたんだ、コノ野郎」と言いたくなるからな。
あー、クソ。豹兒、ポチと乳繰り合って来たんだろうな、二人で餓鬼が遊ぶみたいによー。俺もポチを、泣いてよがらせてぇな。アイツすぐ泣いて許してくれっていうだろうな。そんなの絶対許すわけねぇのに。普段餓鬼みたいにキャッキャしてるのに、蕩けた顔して泣くの可愛いだろうな。
いっそ……寝取るか……嫌、嫌、馬鹿か俺。豹兒も可愛い弟分だぞ。それは辞めておこう。
なんつーかあれだな、こいつらが平和的に別れたら、頂くとしよう。
ソレまで、アイツの好きな雄っぱいとやらを育てておくか……。
「……」
俺の言葉を無視して、テーブルに着いた豹兒が広げてある地図を睨んでいる。
「兄貴、こういう時はからかっちゃ駄目っすよ。弟分に嫌われますよ」
と俺を注意しているレッドも先ほどまで、ニヤニヤ笑いながら「豹兒遅いっすね……俺、見に行こうかな」とか言ってやがったくせに。
「蒼陽、知ってるか。豹兒はポチの彼女なんだぜ」
隣に座る蒼陽の肩を掴んだ。僧帽筋も三角筋もパンパンだな。爽やかな顔して、体作りすぎだろうが。まぁ、ここまでお綺麗な顔してっと大変なんだろうな。俺はコイツに興味ねーけど。
「は?」
蒼陽の顔がキョトンとしている。そしてバッと豹兒の顔を見た。
「え……ポチ……え?」
蒼陽の困惑が、面白い。ゲラゲラ笑う俺を見て、蒼陽も直ぐに冗談だと気がついた。
「……ジフ、本題を」
これだけ、からかっても眉一つ動かさない豹兒。むしろ若干、口角がいつもより上がって……どこか勝ち誇ったような……よし、辞めるぞ。むなしくなる。
「これは、予想だが。俺の最悪の想像が当たっていれば……それなりに面倒くせぇ戦闘になる」
「……はい」
全員が雰囲気を変えて真剣な顔を向けてきた。
「色んな根回しと交渉は俺がやる。レッドは武器と物資の調達。豹兒はポチのお守りしながら此処をまわせ。蒼陽は……とりあえず、報告しろ」
今日は、蒼陽は、元々生きているかどうかも分からない医者を探しに行った。まぁ、そのお陰で、あの芋野郎とも鉢合わせしなくてすんで良かったよな。
「はい。今日は昔所属していたグループのつてで、過去ゾンビの研究室で働いていた人間に会ったのですが……そこでは、ゾンビの研究と同時に、感染した妊婦から産まれた最後の世代の研究も行っていたそうです」
「……ポチも……そこに?」
豹兒が向かいの席から、テーブルに身を乗り出して聞いた。
蒼陽とポチがはぐれたのは子供の時だと聞いたが……その後、記憶喪失になって俺達に出会うまでの足取りが不明だ。
「彼は最後の世代に関わる仕事をしてなかったそうなので、詳しくは分からないそうなのですが……ゾンビウィルスの影響で、最後の世代の子供は年を重ねる毎に、細胞の再生が高まり……ゾンビがそうであるように多少の怪我なら直ぐに治るようになるそうです」
人間はゾンビに噛まれて、感染してゾンビになる。たとえ人間が瀕死の状態でゾンビになっても……その体は動ける程度までは回復する。取れた手足はそのままだが、まるで昆虫のようにある程度生きている機能だけを使って何事もなかったかのように動きだす。だから頭を撃ったり、首を切ったり、心臓を刺したり、完全に機能を停止させる攻撃が必要だ。
「そういえば、ポチって大した怪我したこと無いっす……気がつかなかった」
「そうだな」
ポチには、もともと荒事もさせてないし、怪我をするような訓練もさせてなかった。
「……ポチ……筋肉痛ならないし、筋肉もつかない。影響してるのかも」
豹兒が顎に手を当てて考え込んでいる。
確かに、トレーニングする割に育たないよなアイツ。
「怪我が治るだけなら良いのですが…」
俺達の話をよそに、蒼陽の表情は暗い。
「元々、自己主張が無く、大人しい彼らですが……年々、自我が失われていって……活動しなくなるそうです」
「はああ!?」
思わずデカい声が出た。豹兒もレッドも悲壮な顔をしている。
「それは、死ぬって事か?」
自我か失われて、ポチが死ぬ?あんなに生き生きとして元気なのにか!?
俺は、血の気が引いて手足が冷たくなってきた。
「少し……違うようです。彼は詳しく知りませんでしたが、魂が抜けるとか何とか……」
「……ポチは!ポチは助からないのか!?」
豹兒が目の周りを紅くして、立ち上がりテーブルに強く手をついた。
「その研究施設はゾンビに襲われて事実上解散したらしく、でも……最後の世代を担当していた医者が生き残って数人の対象者を連れて逃げたと……彼に話が聞ければ、もっと詳しい事がわかると思います」
蒼陽の目は、もう次の行動を決めているようだった。
「ダリウスは、さっさと片付けます、その医者を探させてください」
「あぁ。ちなみにアイツ殺して良いんだよな?お前に恋情抱いてうぜぇだけなら生かしてやったが……無関係な奴も手に掛けていそうだしな」
あの時、もしポチが帰ってこなければ……あの血生臭さだけで殺すための戦闘を始めていただろう。疑わしきを罰していかなければ、こちらの安全は守られないし、ひいては周囲のグループにも危険が及ぶ。この世界に、もう法律なんて存在しない。生きるか、死んでゾンビになるか、それだけだ。
「もちろんです」
今すぐにでも。そう聞こえてきた気がした。
あぁ…こいつも、この世界で生き残ってきた人間だ。爽やかで優しく、甘そうに見えたが……それだけでは無い。当たり前か。
21
お気に入りに追加
568
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる