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ジフ視点 最後の世代のポチ

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「で、豹ちゃん、どうしてこんなに時間がかかったのかなぁ?ジフ、処女だから、ちょっと分かんな~い」

 思ったより時間が掛かって戻ってきた豹兒を、からかわずには居られなかった。
 なんだろうな、豹兒が羨ましいのと……やっぱり豹兒がクソ羨ましいのと……豹兒が羨ましいからに決まってんだろうが!
 まぁ、弟分が可愛くてからかいたいのも有る。
 でもよぉ、やっぱ……若くて、誰よりも戦闘の才能があって、お綺麗な顔しやがって、頭もキレる。そりゃあ、ポチにも選ばれるよなぁ。蒼陽が来た時は、豹兒やべぇんじゃねーかと思ったけどよ。やっぱ、あのチョロい犬には押してかねぇとな。蒼陽はお優しすぎんだろうな。
 かくいう俺も、最初っから上手い事言って喰っちまえば、ポチを自分のモノに出来たが……思っちまったんだよなぁ……可哀想だなと。惚れさせるだけ惚れさせて、甘やかして、守って面倒見た後、きっと俺が先に死ぬだろうな、と。今思えば、余計な考えだったがな。ポチ、俺死んでも、こいつらが何とかすんだろ。でも……やっぱ可哀想だよなぁ。アイツが泣いているの想像するだけで「誰が泣かしたんだ、コノ野郎」と言いたくなるからな。
 あー、クソ。豹兒、ポチと乳繰り合って来たんだろうな、二人で餓鬼が遊ぶみたいによー。俺もポチを、泣いてよがらせてぇな。アイツすぐ泣いて許してくれっていうだろうな。そんなの絶対許すわけねぇのに。普段餓鬼みたいにキャッキャしてるのに、蕩けた顔して泣くの可愛いだろうな。
 いっそ……寝取るか……嫌、嫌、馬鹿か俺。豹兒も可愛い弟分だぞ。それは辞めておこう。

 なんつーかあれだな、こいつらが平和的に別れたら、頂くとしよう。
 ソレまで、アイツの好きな雄っぱいとやらを育てておくか……。

「……」
 俺の言葉を無視して、テーブルに着いた豹兒が広げてある地図を睨んでいる。
「兄貴、こういう時はからかっちゃ駄目っすよ。弟分に嫌われますよ」
 と俺を注意しているレッドも先ほどまで、ニヤニヤ笑いながら「豹兒遅いっすね……俺、見に行こうかな」とか言ってやがったくせに。
「蒼陽、知ってるか。豹兒はポチの彼女なんだぜ」
 隣に座る蒼陽の肩を掴んだ。僧帽筋も三角筋もパンパンだな。爽やかな顔して、体作りすぎだろうが。まぁ、ここまでお綺麗な顔してっと大変なんだろうな。俺はコイツに興味ねーけど。
「は?」
 蒼陽の顔がキョトンとしている。そしてバッと豹兒の顔を見た。
「え……ポチ……え?」
 蒼陽の困惑が、面白い。ゲラゲラ笑う俺を見て、蒼陽も直ぐに冗談だと気がついた。

「……ジフ、本題を」
 これだけ、からかっても眉一つ動かさない豹兒。むしろ若干、口角がいつもより上がって……どこか勝ち誇ったような……よし、辞めるぞ。むなしくなる。

「これは、予想だが。俺の最悪の想像が当たっていれば……それなりに面倒くせぇ戦闘になる」
「……はい」
 全員が雰囲気を変えて真剣な顔を向けてきた。
「色んな根回しと交渉は俺がやる。レッドは武器と物資の調達。豹兒はポチのお守りしながら此処をまわせ。蒼陽は……とりあえず、報告しろ」
 今日は、蒼陽は、元々生きているかどうかも分からない医者を探しに行った。まぁ、そのお陰で、あの芋野郎とも鉢合わせしなくてすんで良かったよな。
「はい。今日は昔所属していたグループのつてで、過去ゾンビの研究室で働いていた人間に会ったのですが……そこでは、ゾンビの研究と同時に、感染した妊婦から産まれた最後の世代の研究も行っていたそうです」
「……ポチも……そこに?」
 豹兒が向かいの席から、テーブルに身を乗り出して聞いた。
 蒼陽とポチがはぐれたのは子供の時だと聞いたが……その後、記憶喪失になって俺達に出会うまでの足取りが不明だ。
「彼は最後の世代に関わる仕事をしてなかったそうなので、詳しくは分からないそうなのですが……ゾンビウィルスの影響で、最後の世代の子供は年を重ねる毎に、細胞の再生が高まり……ゾンビがそうであるように多少の怪我なら直ぐに治るようになるそうです」
 
 人間はゾンビに噛まれて、感染してゾンビになる。たとえ人間が瀕死の状態でゾンビになっても……その体は動ける程度までは回復する。取れた手足はそのままだが、まるで昆虫のようにある程度生きている機能だけを使って何事もなかったかのように動きだす。だから頭を撃ったり、首を切ったり、心臓を刺したり、完全に機能を停止させる攻撃が必要だ。

「そういえば、ポチって大した怪我したこと無いっす……気がつかなかった」
「そうだな」
 ポチには、もともと荒事もさせてないし、怪我をするような訓練もさせてなかった。
「……ポチ……筋肉痛ならないし、筋肉もつかない。影響してるのかも」
 豹兒が顎に手を当てて考え込んでいる。
 確かに、トレーニングする割に育たないよなアイツ。

「怪我が治るだけなら良いのですが…」
 俺達の話をよそに、蒼陽の表情は暗い。
「元々、自己主張が無く、大人しい彼らですが……年々、自我が失われていって……活動しなくなるそうです」
「はああ!?」
 思わずデカい声が出た。豹兒もレッドも悲壮な顔をしている。
「それは、死ぬって事か?」
 自我か失われて、ポチが死ぬ?あんなに生き生きとして元気なのにか!?
 俺は、血の気が引いて手足が冷たくなってきた。
「少し……違うようです。彼は詳しく知りませんでしたが、魂が抜けるとか何とか……」
「……ポチは!ポチは助からないのか!?」
 豹兒が目の周りを紅くして、立ち上がりテーブルに強く手をついた。
「その研究施設はゾンビに襲われて事実上解散したらしく、でも……最後の世代を担当していた医者が生き残って数人の対象者を連れて逃げたと……彼に話が聞ければ、もっと詳しい事がわかると思います」
 蒼陽の目は、もう次の行動を決めているようだった。
「ダリウスは、さっさと片付けます、その医者を探させてください」
「あぁ。ちなみにアイツ殺して良いんだよな?お前に恋情抱いてうぜぇだけなら生かしてやったが……無関係な奴も手に掛けていそうだしな」
 あの時、もしポチが帰ってこなければ……あの血生臭さだけで殺すための戦闘を始めていただろう。疑わしきを罰していかなければ、こちらの安全は守られないし、ひいては周囲のグループにも危険が及ぶ。この世界に、もう法律なんて存在しない。生きるか、死んでゾンビになるか、それだけだ。

「もちろんです」
 今すぐにでも。そう聞こえてきた気がした。
 あぁ…こいつも、この世界で生き残ってきた人間だ。爽やかで優しく、甘そうに見えたが……それだけでは無い。当たり前か。




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