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結婚報告会
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今日は11月21日。
結婚報告パーティーの日だ。
ちなみに明日役所に婚姻届を出す予定で、もう書類も出来上がっている。
帝都ホテルのパーティー会場から少し離れた控え室で心臓が飛び出そうなくらい緊張している。
今日の新聞には、佐藤建設、佐藤氏運命の番と結婚か。と一面に出ていた。
それと、今日は有名な宝石のオークションが有るとかで、今日の帝都ホテルの前は報道陣で一杯だ。
僕は、ソファから立ったり座ったり、ウロウロしたり落ち着かない。
本当はスーツに皺がついたら嫌だから動き回りたくないけど…。
今日は、佐藤に作ってもらったブラックのスーツを着ている。最初はタキシードが検討されたけど、僕の七五三感が強くて却下された。
なので蝶ネクタイではなく、今は首輪を取って、シルバーグレイのストライプ柄のネクタイを締めている。
スーツってセットで七千円くらいのリクルートスーツしか持って無かったんだけど、やっぱり全然違うね……もう生地がね…色がね…同じ黒じゃないし。
カフスボタンやらポケットチーフもはじめての経験だ。
なにより自分の体に合わせて、一番スタイルがよく見えるように仕立てて貰っているから、僕のような庶民Ωでもそれなりに見える。
朝、髪もちょっと切られて整えて貰ったし。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
テーブルの向こうに座る早瀬さんが笑っている。
今日は早瀬さんも、いつもよりフォーマルな感じで、α感が倍増している。
「それにしても、素のままでも可愛いですけど、やはりプロの手が入ると一皮むけますね。今からでも私に乗り換えますか?」
早瀬さんのノンフレームメガネが光る。
「冗談はやめてください!」
おっさんたちは、すぐ僕をからかうんだから。
「私も天使と付き合ってみたいです。……良いですよ、私の大事なところにピアスつけても」
早瀬さんが凄く怪しい顔で笑ってる。
え?大事なところ??ん??
「おい!千歳にお前の毒を吹きかけるな!!別の次元の生き物だ」
隣でスタイリストさんに準備してもらっていた佐藤がこちらにやって来た。
「………」
かっ
かっ
カッコいい!!
Emperor SATO!!
192センチでガテンで鍛え上げられた鋼の肉体が、ブラックスーツに抑えつけられている。
そこらへんのサラリーマンと違う厚みが堪らない!
いつもはダボッとした作業着で分かりにくいけど体型が分かるスーツを着ると、手足の長さがえげつない!
ハリウッドスターも隣に立ったら霞む!
髪は切られてモサモサの毛じゃ無くなって、オールバックになっているけど、野生的な魅力は損なわれていない。
ちゃんとピアスもついている。
やばい!
フェロモンを撒き散らしながら、皇帝がやってくる!
だめぇえ!みんな発情期になっちゃうよぉ!!
「……佐藤……格好いい……やばい……」
僕はテーブルの上のスマホを構えた。
パシャ
パシャ
パシャ
「佐藤素敵!最高、格好いい!!」
パシャ
パシャ
「可愛いねぇ、千歳くん」
「だろ、ちょっとよく分かんねぇ時あるけどな」
佐藤の周りをシャッターをきりながら動き回る。
沢山撮り回って満足したら、ソファに座った。
「千歳、今日は一段とかわいいな」
佐藤が僕の隣に座って腰を抱いてくる。
エンペラーの指名は一体いくらかかるのでしょうか。
僕の隣で佐藤が足を組んだ。足が長すぎて、テーブルが邪魔そう。
「急な招待だったが、滅多に表に出てこなくなった佐藤三郎太と話したいものが多いみたいだな。招待したものは、ほぼ全員参加だ。他にも参加希望者が大勢名乗りを上げたが、断った。取材陣へはパーティー後にサブだけで応じる部屋を用意してある」
早瀬さんがタブレットを確認しながら説明してくれる。
「あぁ、警備は?」
「予定通り、ホテル側の用意した警備員と警備会社に依頼した人員で、会場もホテルも固めさせているんだが、宝石のオークションが2時間後に有るとかで、いつもよりホテル側もバタバタしている」
「そうか、じゃあこちらの用意した人間を中心に、くれぐれも頼んだぞ」
僕の腰を抱く佐藤の腕に力がこもった。
佐藤は意外ととっても心配性だ。
仕事以外に出かける時は何かと送り迎えしようとするし、夜にコンビニとか行こうとすると止められる。
過保護だよなぁ…。
海外で仕事をするのに日本以外に住んでいた時期も有ったみたいだから、日本から出たことの無い僕とは防犯意識が違うのかも知れない。
コンビニ強盗の時に直ぐにモデルガンだと分かったのは海外で射撃の経験があるうえに、ボディーガード雇ってたらしい。
なんか…別世界だよなぁ。
それにしても…佐藤が格好いい。
こんな完全に人間の頂点に立っていそうな男の隣に立つの?
緊張する。
お腹きゅるきゅる言う。
「さて、時間だ。二人とも行こうか」
早瀬さんが立ち上がった。
「あぁ、行こうぜ、千歳」
佐藤が僕の手をとった。
出会ったときは思いもよらなかった。佐藤がこんな凄い人物だったとは。
もちろん、ただのおっさんでも良かったんだけど…。
深い男だ佐藤め。
帝都ホテルのテレビとかで見たことの有るホール。
ちょっと分からないけど、きっと凄い所。
朝、下見をしたとき、端から端まで走ってみたけど、めっちゃ広かった。息切れた。
僕より大きい花が幾つも生けてある。
ちょっと笑っちゃうのが、【佐藤三郎太 結婚報告会】って書いてあるんだよ。
ぷぷぷだよ。なんだよそれ…笑っちゃったよ。
「何笑ってるんだ?余裕だなぁ千歳」
会場の入り口で、司会者の人の言葉を待っている。
もう、これ結婚式だよね。
僕の知り合いが一人も居ない結婚式。ロンリーウェディング。あっ、早瀬さんだけ知ってるけど…。
中からはざわざわと人の声が聞こえている。
参加者は佐藤建設の関連の人や、大企業のトップクラスの人たちや、政界の人たちらしい。
あれだね、おっさんワールド。
平均年齢60歳??みたいな。
イメージだけど、最後一本締めすんのかな?
「一切の余裕は無い!ただ、経済も政治もまったく興味ないから、全員そこら辺の、ただのおじさんにしか見えないのが救いだよ」
「そうか、無理するなよ。いつでも戻りたくなったら戻って良いからな。本当はお前の事は誰にも紹介したくない…俺だけの千歳だからな。ん??いや、ちげーか。お前だけの俺か」
佐藤がはにかんで笑って左耳のピアスを触った。
なんだその仕草!!けしからん!!
格好いいにも程が有る。
「行くぞ!佐藤!」
「おう」
ホテルの人がドアを開けてくれて、佐藤の後ろについて歩いて行く。
会場に入ってまず目に入ったのは、テレビで見たことあるアナウンサーの司会者だった。
僕、芸能人ちゃんと生で見たの初めてだ。
壇上に上がって、マイクの前に立った佐藤の後ろに控えた。
そういえば、あのアナウンサー、みりりんとも仕事してたはず!!
間接みりりんじゃん。
おぉっとなんかぼけっとしているウチに佐藤の紹介とか終わっている。
「本日はお忙しい中…」
佐藤が社会人っぽく話し始めた!?
カンペも無いのに、300人くらいを前に堂々と話し続ける姿は、やっぱり超一流なαで…
格好いい。
もうそれしかないよ!!
佐藤ってスーパーダーリンだったのね!凄い抱きつきたい!キスしたい!僕の番だって叫びたい。
「そして、こちらが妻になる千歳です」
妻だって!?
ニヤニヤしちゃうじゃん。
佐藤が僕の肩を抱いて前に出した。
参加者の視線が一気に僕に集まる。
あわわわ…やっぱり緊張する!おなかがきゅるきゅるする。
「妻の事に関する詳細は控えさせて頂きますが、お見知りおき下さい」
僕がぺこりと頭を下げると、彼方此方から拍手とお祝いの言葉がかかった。
それからは、数人の挨拶があって、歓談の時間になった。
次から次へと佐藤へ挨拶をする人がやって来た。最初は佐藤の後ろで静かに微笑んでいたんだけど、正直疲れた。
何か飲んだり食べたりしちゃおうっと
佐藤の後ろを、そそそっと離れてボーイさんにジュースを貰いに行く。
会場を埋め尽くす、おじさん、おじさん、おじいさん。
結構αの比率が多い。
さすが大企業のトップの人たちだね。
あれ?若い人も居る。
若いαの男性と目が合った。男性が此方に向かって歩いてくる。
ウェリントン型の眼鏡が印象的な、背の高いスタイリッシュな男性だ。
シュッとした一重の目が色気を醸し出している。
「はじめまして、佐藤様のΩさん」
「……あっ…初めまして、千歳です」
男性の香水がふわっと匂ってくる。すごくオシャレを気にするタイプに思える。
Ωに対して、Ωと呼ぶ人は大抵差別的な意識がある人だ…。
まぁ、僕もαを見れば「あっαだ」と思うけど、αさんとは呼ばない。それが普通だ。
「佐藤様の運命の番なんですよね?運命の番なんておとぎ話だと思ってましたよ。運命の番にあった方には初めて会いましたしね……何かの勘違いじゃないんですか?」
「……貴方も出会えば分かりますよ…」
凄い、トゲトゲさんだ。
僕の存在が気にくわないのが丸出しだ。
「私は、Ωのパートナーは結構です。あっ申し遅れました。私、佐藤様とは長いお付き合いをさせて頂いております。セカンドナテーリングの源です」
長いお付き合いを強調したうえに、意味深に笑ったよこの人。
やっぱりΩ差別する人だった…いや、この人の場合はα以外を差別していそう…
さっさとバイバイしたい。
「……はい」
「佐藤様は五月蠅いΩ除けに貴方と結婚するんでしょうね。αの頂点に立つお方ですから…」
この人、佐藤の事が凄く好きなんだろうな。
だから、佐藤の相手が自分の大っ嫌いなΩで納得できないのか…。
「私は、αのパートナーはαだと考えて居るんですよ……私のパートナーには佐藤様こそ相応しい」
佐藤の気を引きたいなら、何故僕に嫌味を…
なんて陰気な男だ!
そんなに好きなら結婚する前に、正々堂々と佐藤を口説けば良かったじゃ無いか!
「残念ですが、佐藤はもう僕の番になりますから。他のαを探して下さい」
「なっ!?」
男が怒って手に持っていたグラスを乱暴にテーブルに置いた。
「失礼します」
ここで争いになる訳にはいかない。
相手もこんな所で騒ぎにするわけないだろう。
僕はさっさとその場を離れた。
気分を取り直して、ジュースを貰って美味しそうな食事を手にした。
佐藤の方を確認すると、佐藤と目が合った。優しく笑いかけられた。
周りにはまだ、沢山の人間がいる。
見回してみると、早瀬さんも、囲まれてなにやら話をしている。
「少し、お話よろしいですか?」
「あっ!はい!!」
後ろから声をかけられて、ビックリして振り返った。
そこには、とても綺麗なΩの男性が立っていた。
美しく年齢を重ねた目尻にはうっすら皺がある。
たぶん、佐藤と同じくらいの年齢だろうか?
とても堂々としていて格好いい。
男性のΩだけど、女性的な外見のイメージも強くて短い髪が短髪というよりも、ベリーショートといった印象だ。なんだろう…宝原の男役の方みたいな感じだ。
「私、平家と申します。芸能事務所を経営しております」
「千歳といいます」
「佐藤様にはモデルのお仕事を引き受けて頂いてから、お仕事で何度かご一緒させて頂いております。どうかお見知りおき下さい」
丁寧に頭を下げられて、こちらも慌てて頭を下げた。
「佐藤様の番の方がこんなに可愛らしい方だとは驚きました。どうですか?うちで芸能活動とか」
平家さんに名刺を渡される。
芸能活動なんて冗談だろうけど、出された名刺を断るわけにもいかず受け取った。
「いえいえ、僕は庶民のΩなんで…それに今の仕事も気に入っているので…」
仕事というか仲間だけど。
あっ、そうだ後で富山さんに佐藤のエンペラー画像送ってあげないと!
「そうですか?ぜひ一度お話したいのですが…後でご連絡くださいね」
一言挨拶に来ただけなんだろう、平家さんはあっさりとその場を離れて行った。
よし、もう小一時間会場にいたし、疲れたし、なにより富山さんに画像送らなきゃならないからお暇しよう。
佐藤に一言声をかけて……。
って、笹原さん!?
キョロキョロしていたら、黒いスーツに耳にイヤホンをはめて、警備の人ですって装いで、隣の家の笹原さんがいた。
「石川君。そろそろ部屋に戻りますか?」
「……は、はい…でも、笹原さん…なんで此処に?」
確か警備会社に勤めているんだよね?
「私の警備会社に佐藤建設から依頼がありまして、顔見知りということで、今日は石川君に近いポジションで警備させて頂いています」
「あぁ…そうだったんですか」
良かった。知り合いがいると安心するよね。
笹原さんがスーツのマイクに向かって何か喋っている。
「それでは、ご案内いたします」
「お願いします」
笹原さんについて歩き出した。
「本日はこちらにお泊りになって頂きます。何かありましたら、ここにご連絡下さい。パーティーが終わりましたら佐藤社長が戻りますので、それまでは安全の為に部屋を出ませんようにお願い致します」
「はい、ありがとうございます」
携帯の番号が書かれた紙を渡された。
笹原さんが立ち去り、ドアが閉まってロックがかかった。
帝都ホテルのいわゆるスイートルーム。凄く綺麗で広い。
でも、何だろう、この違和感。
何だか恐怖を感じる
都心の空を切り取ったような大きな窓。
そのカーテンが中途半端に閉められている。
微妙に乱れて置かれたクッション。
乱雑な印象を受けるテーブル。
どうして??
佐藤はこの部屋にまだ来てないはず。
一流のホテルのメイキングがこんな中途半端なはずない…。
口がカラカラに乾く。
掃除とかの際に、他に何かの仕事が入ったりしたとか…
きっとそうに違いない。
誰だってミスがある。チェック機能が働かない事もある。
僕は、この不安を払拭するために、部屋の中へ歩き出した。
入り口付近から数歩進み、広いソファとテーブルの空間にやってきた。
大丈夫。何も異常ない。
そして、その横につながるベットルームの方に行こうとすると
「っ!?」
結婚報告パーティーの日だ。
ちなみに明日役所に婚姻届を出す予定で、もう書類も出来上がっている。
帝都ホテルのパーティー会場から少し離れた控え室で心臓が飛び出そうなくらい緊張している。
今日の新聞には、佐藤建設、佐藤氏運命の番と結婚か。と一面に出ていた。
それと、今日は有名な宝石のオークションが有るとかで、今日の帝都ホテルの前は報道陣で一杯だ。
僕は、ソファから立ったり座ったり、ウロウロしたり落ち着かない。
本当はスーツに皺がついたら嫌だから動き回りたくないけど…。
今日は、佐藤に作ってもらったブラックのスーツを着ている。最初はタキシードが検討されたけど、僕の七五三感が強くて却下された。
なので蝶ネクタイではなく、今は首輪を取って、シルバーグレイのストライプ柄のネクタイを締めている。
スーツってセットで七千円くらいのリクルートスーツしか持って無かったんだけど、やっぱり全然違うね……もう生地がね…色がね…同じ黒じゃないし。
カフスボタンやらポケットチーフもはじめての経験だ。
なにより自分の体に合わせて、一番スタイルがよく見えるように仕立てて貰っているから、僕のような庶民Ωでもそれなりに見える。
朝、髪もちょっと切られて整えて貰ったし。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
テーブルの向こうに座る早瀬さんが笑っている。
今日は早瀬さんも、いつもよりフォーマルな感じで、α感が倍増している。
「それにしても、素のままでも可愛いですけど、やはりプロの手が入ると一皮むけますね。今からでも私に乗り換えますか?」
早瀬さんのノンフレームメガネが光る。
「冗談はやめてください!」
おっさんたちは、すぐ僕をからかうんだから。
「私も天使と付き合ってみたいです。……良いですよ、私の大事なところにピアスつけても」
早瀬さんが凄く怪しい顔で笑ってる。
え?大事なところ??ん??
「おい!千歳にお前の毒を吹きかけるな!!別の次元の生き物だ」
隣でスタイリストさんに準備してもらっていた佐藤がこちらにやって来た。
「………」
かっ
かっ
カッコいい!!
Emperor SATO!!
192センチでガテンで鍛え上げられた鋼の肉体が、ブラックスーツに抑えつけられている。
そこらへんのサラリーマンと違う厚みが堪らない!
いつもはダボッとした作業着で分かりにくいけど体型が分かるスーツを着ると、手足の長さがえげつない!
ハリウッドスターも隣に立ったら霞む!
髪は切られてモサモサの毛じゃ無くなって、オールバックになっているけど、野生的な魅力は損なわれていない。
ちゃんとピアスもついている。
やばい!
フェロモンを撒き散らしながら、皇帝がやってくる!
だめぇえ!みんな発情期になっちゃうよぉ!!
「……佐藤……格好いい……やばい……」
僕はテーブルの上のスマホを構えた。
パシャ
パシャ
パシャ
「佐藤素敵!最高、格好いい!!」
パシャ
パシャ
「可愛いねぇ、千歳くん」
「だろ、ちょっとよく分かんねぇ時あるけどな」
佐藤の周りをシャッターをきりながら動き回る。
沢山撮り回って満足したら、ソファに座った。
「千歳、今日は一段とかわいいな」
佐藤が僕の隣に座って腰を抱いてくる。
エンペラーの指名は一体いくらかかるのでしょうか。
僕の隣で佐藤が足を組んだ。足が長すぎて、テーブルが邪魔そう。
「急な招待だったが、滅多に表に出てこなくなった佐藤三郎太と話したいものが多いみたいだな。招待したものは、ほぼ全員参加だ。他にも参加希望者が大勢名乗りを上げたが、断った。取材陣へはパーティー後にサブだけで応じる部屋を用意してある」
早瀬さんがタブレットを確認しながら説明してくれる。
「あぁ、警備は?」
「予定通り、ホテル側の用意した警備員と警備会社に依頼した人員で、会場もホテルも固めさせているんだが、宝石のオークションが2時間後に有るとかで、いつもよりホテル側もバタバタしている」
「そうか、じゃあこちらの用意した人間を中心に、くれぐれも頼んだぞ」
僕の腰を抱く佐藤の腕に力がこもった。
佐藤は意外ととっても心配性だ。
仕事以外に出かける時は何かと送り迎えしようとするし、夜にコンビニとか行こうとすると止められる。
過保護だよなぁ…。
海外で仕事をするのに日本以外に住んでいた時期も有ったみたいだから、日本から出たことの無い僕とは防犯意識が違うのかも知れない。
コンビニ強盗の時に直ぐにモデルガンだと分かったのは海外で射撃の経験があるうえに、ボディーガード雇ってたらしい。
なんか…別世界だよなぁ。
それにしても…佐藤が格好いい。
こんな完全に人間の頂点に立っていそうな男の隣に立つの?
緊張する。
お腹きゅるきゅる言う。
「さて、時間だ。二人とも行こうか」
早瀬さんが立ち上がった。
「あぁ、行こうぜ、千歳」
佐藤が僕の手をとった。
出会ったときは思いもよらなかった。佐藤がこんな凄い人物だったとは。
もちろん、ただのおっさんでも良かったんだけど…。
深い男だ佐藤め。
帝都ホテルのテレビとかで見たことの有るホール。
ちょっと分からないけど、きっと凄い所。
朝、下見をしたとき、端から端まで走ってみたけど、めっちゃ広かった。息切れた。
僕より大きい花が幾つも生けてある。
ちょっと笑っちゃうのが、【佐藤三郎太 結婚報告会】って書いてあるんだよ。
ぷぷぷだよ。なんだよそれ…笑っちゃったよ。
「何笑ってるんだ?余裕だなぁ千歳」
会場の入り口で、司会者の人の言葉を待っている。
もう、これ結婚式だよね。
僕の知り合いが一人も居ない結婚式。ロンリーウェディング。あっ、早瀬さんだけ知ってるけど…。
中からはざわざわと人の声が聞こえている。
参加者は佐藤建設の関連の人や、大企業のトップクラスの人たちや、政界の人たちらしい。
あれだね、おっさんワールド。
平均年齢60歳??みたいな。
イメージだけど、最後一本締めすんのかな?
「一切の余裕は無い!ただ、経済も政治もまったく興味ないから、全員そこら辺の、ただのおじさんにしか見えないのが救いだよ」
「そうか、無理するなよ。いつでも戻りたくなったら戻って良いからな。本当はお前の事は誰にも紹介したくない…俺だけの千歳だからな。ん??いや、ちげーか。お前だけの俺か」
佐藤がはにかんで笑って左耳のピアスを触った。
なんだその仕草!!けしからん!!
格好いいにも程が有る。
「行くぞ!佐藤!」
「おう」
ホテルの人がドアを開けてくれて、佐藤の後ろについて歩いて行く。
会場に入ってまず目に入ったのは、テレビで見たことあるアナウンサーの司会者だった。
僕、芸能人ちゃんと生で見たの初めてだ。
壇上に上がって、マイクの前に立った佐藤の後ろに控えた。
そういえば、あのアナウンサー、みりりんとも仕事してたはず!!
間接みりりんじゃん。
おぉっとなんかぼけっとしているウチに佐藤の紹介とか終わっている。
「本日はお忙しい中…」
佐藤が社会人っぽく話し始めた!?
カンペも無いのに、300人くらいを前に堂々と話し続ける姿は、やっぱり超一流なαで…
格好いい。
もうそれしかないよ!!
佐藤ってスーパーダーリンだったのね!凄い抱きつきたい!キスしたい!僕の番だって叫びたい。
「そして、こちらが妻になる千歳です」
妻だって!?
ニヤニヤしちゃうじゃん。
佐藤が僕の肩を抱いて前に出した。
参加者の視線が一気に僕に集まる。
あわわわ…やっぱり緊張する!おなかがきゅるきゅるする。
「妻の事に関する詳細は控えさせて頂きますが、お見知りおき下さい」
僕がぺこりと頭を下げると、彼方此方から拍手とお祝いの言葉がかかった。
それからは、数人の挨拶があって、歓談の時間になった。
次から次へと佐藤へ挨拶をする人がやって来た。最初は佐藤の後ろで静かに微笑んでいたんだけど、正直疲れた。
何か飲んだり食べたりしちゃおうっと
佐藤の後ろを、そそそっと離れてボーイさんにジュースを貰いに行く。
会場を埋め尽くす、おじさん、おじさん、おじいさん。
結構αの比率が多い。
さすが大企業のトップの人たちだね。
あれ?若い人も居る。
若いαの男性と目が合った。男性が此方に向かって歩いてくる。
ウェリントン型の眼鏡が印象的な、背の高いスタイリッシュな男性だ。
シュッとした一重の目が色気を醸し出している。
「はじめまして、佐藤様のΩさん」
「……あっ…初めまして、千歳です」
男性の香水がふわっと匂ってくる。すごくオシャレを気にするタイプに思える。
Ωに対して、Ωと呼ぶ人は大抵差別的な意識がある人だ…。
まぁ、僕もαを見れば「あっαだ」と思うけど、αさんとは呼ばない。それが普通だ。
「佐藤様の運命の番なんですよね?運命の番なんておとぎ話だと思ってましたよ。運命の番にあった方には初めて会いましたしね……何かの勘違いじゃないんですか?」
「……貴方も出会えば分かりますよ…」
凄い、トゲトゲさんだ。
僕の存在が気にくわないのが丸出しだ。
「私は、Ωのパートナーは結構です。あっ申し遅れました。私、佐藤様とは長いお付き合いをさせて頂いております。セカンドナテーリングの源です」
長いお付き合いを強調したうえに、意味深に笑ったよこの人。
やっぱりΩ差別する人だった…いや、この人の場合はα以外を差別していそう…
さっさとバイバイしたい。
「……はい」
「佐藤様は五月蠅いΩ除けに貴方と結婚するんでしょうね。αの頂点に立つお方ですから…」
この人、佐藤の事が凄く好きなんだろうな。
だから、佐藤の相手が自分の大っ嫌いなΩで納得できないのか…。
「私は、αのパートナーはαだと考えて居るんですよ……私のパートナーには佐藤様こそ相応しい」
佐藤の気を引きたいなら、何故僕に嫌味を…
なんて陰気な男だ!
そんなに好きなら結婚する前に、正々堂々と佐藤を口説けば良かったじゃ無いか!
「残念ですが、佐藤はもう僕の番になりますから。他のαを探して下さい」
「なっ!?」
男が怒って手に持っていたグラスを乱暴にテーブルに置いた。
「失礼します」
ここで争いになる訳にはいかない。
相手もこんな所で騒ぎにするわけないだろう。
僕はさっさとその場を離れた。
気分を取り直して、ジュースを貰って美味しそうな食事を手にした。
佐藤の方を確認すると、佐藤と目が合った。優しく笑いかけられた。
周りにはまだ、沢山の人間がいる。
見回してみると、早瀬さんも、囲まれてなにやら話をしている。
「少し、お話よろしいですか?」
「あっ!はい!!」
後ろから声をかけられて、ビックリして振り返った。
そこには、とても綺麗なΩの男性が立っていた。
美しく年齢を重ねた目尻にはうっすら皺がある。
たぶん、佐藤と同じくらいの年齢だろうか?
とても堂々としていて格好いい。
男性のΩだけど、女性的な外見のイメージも強くて短い髪が短髪というよりも、ベリーショートといった印象だ。なんだろう…宝原の男役の方みたいな感じだ。
「私、平家と申します。芸能事務所を経営しております」
「千歳といいます」
「佐藤様にはモデルのお仕事を引き受けて頂いてから、お仕事で何度かご一緒させて頂いております。どうかお見知りおき下さい」
丁寧に頭を下げられて、こちらも慌てて頭を下げた。
「佐藤様の番の方がこんなに可愛らしい方だとは驚きました。どうですか?うちで芸能活動とか」
平家さんに名刺を渡される。
芸能活動なんて冗談だろうけど、出された名刺を断るわけにもいかず受け取った。
「いえいえ、僕は庶民のΩなんで…それに今の仕事も気に入っているので…」
仕事というか仲間だけど。
あっ、そうだ後で富山さんに佐藤のエンペラー画像送ってあげないと!
「そうですか?ぜひ一度お話したいのですが…後でご連絡くださいね」
一言挨拶に来ただけなんだろう、平家さんはあっさりとその場を離れて行った。
よし、もう小一時間会場にいたし、疲れたし、なにより富山さんに画像送らなきゃならないからお暇しよう。
佐藤に一言声をかけて……。
って、笹原さん!?
キョロキョロしていたら、黒いスーツに耳にイヤホンをはめて、警備の人ですって装いで、隣の家の笹原さんがいた。
「石川君。そろそろ部屋に戻りますか?」
「……は、はい…でも、笹原さん…なんで此処に?」
確か警備会社に勤めているんだよね?
「私の警備会社に佐藤建設から依頼がありまして、顔見知りということで、今日は石川君に近いポジションで警備させて頂いています」
「あぁ…そうだったんですか」
良かった。知り合いがいると安心するよね。
笹原さんがスーツのマイクに向かって何か喋っている。
「それでは、ご案内いたします」
「お願いします」
笹原さんについて歩き出した。
「本日はこちらにお泊りになって頂きます。何かありましたら、ここにご連絡下さい。パーティーが終わりましたら佐藤社長が戻りますので、それまでは安全の為に部屋を出ませんようにお願い致します」
「はい、ありがとうございます」
携帯の番号が書かれた紙を渡された。
笹原さんが立ち去り、ドアが閉まってロックがかかった。
帝都ホテルのいわゆるスイートルーム。凄く綺麗で広い。
でも、何だろう、この違和感。
何だか恐怖を感じる
都心の空を切り取ったような大きな窓。
そのカーテンが中途半端に閉められている。
微妙に乱れて置かれたクッション。
乱雑な印象を受けるテーブル。
どうして??
佐藤はこの部屋にまだ来てないはず。
一流のホテルのメイキングがこんな中途半端なはずない…。
口がカラカラに乾く。
掃除とかの際に、他に何かの仕事が入ったりしたとか…
きっとそうに違いない。
誰だってミスがある。チェック機能が働かない事もある。
僕は、この不安を払拭するために、部屋の中へ歩き出した。
入り口付近から数歩進み、広いソファとテーブルの空間にやってきた。
大丈夫。何も異常ない。
そして、その横につながるベットルームの方に行こうとすると
「っ!?」
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閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
噛み後をフライパンで焼いてツガイと別れてやりました
夜鳥すぱり
BL
岸本飛羽(きしもと とばね)は、自他共に認める美少年オメガ。だけれども、ツガイであった1つ年上の晴海先輩に二股かけられてしまう、飛羽は、激怒した挙げ句に、浮気相手の噛み跡を焼いてやろうとして熱したフライパンを手に持つが……先輩に守られる浮気相手をみて、馬鹿らしくなって、飛羽は、そのまま、自分の噛み跡を熱したフライパンで焼いた。ジュと、肉が焦げて、青ざめ震える二人をみて、笑いながら焼いた。ひとしきり笑った後、思いっきり、晴海先輩にフライパンを投げてやろうとおもったけど、できなくて、メチャクチャでかい音をガシャーンて出してコンロに叩きつけて、「さよなら」ってこの世で一番冷たい声を出した。
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