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またお前か

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「はぁ……」
「あら?どうしたの、石川君」
「細川さん、きっと推しの検索のしすぎで寝不足よ」

お昼休みに、休憩所でお弁当を食べ終わったころ、食堂からやってきた二人に囲まれた。
最初は逃げ腰だったけど、最近ではすっかり世代も性別も超えた友人と同志になった。
とても頼りになる先輩方だ。

「推しと結婚報告パーティーすることになったんですけど…」
先日、佐藤に提案された結婚報告パーティー。
断って良いぞと言われたけれど、パーティーってことはエンペラー佐藤に大変身でしょ!
僕が主役の隣に立つのは頂けないけど、見たい。
キメキメになってスポットライトを浴びるエンペラー佐藤を見たい。だから出る!

「あら~さすが石川君、情報早いわね!来週末のエンペラーの結婚報告パーティーでしょ、帝都ホテルでやる!楽しみよねぇ!!あっ、ごめんなさい。私、この年になると推しの結婚もありで運命の番に出会えるなんて、さすがエンペラー!とか思ったけど、石川君はショックだったの?」
富山さんが僕の肩に手を置く。
「いえ、結婚するのは僕だから良いんですが、なんか脅迫状貰っちゃって…」
昨日の帰りに職場の駐輪場に置いてあった自転車のカゴに入っていた。

佐藤三郎太は自分のものだ。
今すぐ手を引かないと酷い目にあうぞ。
お前を三郎太の番になんてさせない。

と。

佐藤に相談しようかと思ったけど、この人の気持ちもわかる。
いや、僕は相手に何かしようとは思わないけど、大好きな推しが結婚となると、ちょっと複雑な気持ちがあるのは正直なところだ。もちろん祝福したいけど…。
だから…ちょっとくらい文句言われてもしかたないという気持ちがある。

実際になにかしてくるとも思えないし…。

「そう、そういう設定なのね!石川君素晴らしい発想力よ!!」
なんだか興奮した細川さんが僕の背中をバシバシ叩く。
「良いわね!萌えるわね!それは、大問題ね。ダーリンに相談して慰めてもらうバージョンがいいかしら??それとも、ほっといて事件に発展して、颯爽と助けにくるダーリンを待つのか…悩むわあ!」
「この妄想は寝られないわね!!」
僕を挟んで二人が興奮している。
二人の会話のテンポが速くて追いつけない…。

「私、当日帝都ホテルに泊まってエンペラーの出現を待つわ、一緒にエントランスでお茶する?」
富山さんが誘ってくれた。他にも数人来るらしい。
「あっ、僕、出席者なんで大丈夫です」
「まぁまぁ、そうだったわ、ごめんなさい。ふふふ石川君の妄想力には勝てないわ」



「…まただ」

帰りに自転車に乗ろうと思ったら、またカゴに何か入っていた。
折り紙くらいの紙を取り出し、カサカサと開く。
何か書いて有る。

君のことを見ていた。
僕のものになって欲しい。

どいうこと?
前回のものと意味が全然違うと思うんだけど…。
だって佐藤のファンが僕を邪魔におもっての行動じゃ無かったの?

もしかして、イタズラ?
「なーんだ。ビックリして損した」
紙をぐしゃぐしゃに丸めて薄手のコートのポケットに詰め込んだ。

今日は今度の結婚報告パーティーの衣装を採寸するとかで、佐藤に呼ばれている。
わざわざ仕立てるらしいのだ。来週末だけどスーツってそんなに直ぐにできるのかな?
いくらかかるんだろう…想像したくない。
僕も払うと言いたいけど、実は今お金が無いのだ。

佐藤にこっそりピアスを買ったんだ!
ガテンの佐藤がつけていられて、項の噛み跡くらい目立つヤツ!と考えてピアスにしたんだ。
エンペラーに変身するときはファンのことを考えて取ってよし!

でもダイヤモンドって高いんだね…。この半年でコツコツ貯めた20万が一瞬で消えました。
新居資金考えるの忘れてた…。
あれから話出ないし、暫くは佐藤のマンションでって感じにして、ズルズルとあそこでいい作戦だ。青田さん曰く安いらしいし。
「もう、いよいよ佐藤と結婚かぁ」
なんだかまだ実感ないけど。
ウキウキする。

まぁ正直、パーティーでは緊張でトイレ行きまくりそうだけど…。
僕は、最初の小一時間ではけていいっていうのは助かる。
後はビジネスの話中心なんだって。
「エンペラーも大変なんだなぁ…」




「石川様は、完璧な八頭身なんですね」
「えっ、僕、背低いですよ」
そんなに大きくないけど、凄く歴史を感じるお店に連れて来られた。
スーツのお店なんだろうけど、スーツが並んでいない。
生地とか、小物とかそういったものが規則正しくみっちり並べられている。
「身長は関係ありませんよ」
僕の採寸をしてくれている、お店の方がふふふと笑っている。
凄く落ち着いた雰囲気の優しいお兄さんだ。
首からぶら下げているメジャーのような紐であっちこっち測ってくれている。

凄くこそばゆい。
美容室で凄い丁寧に頭を洗って貰っているときの感覚に似ている。
「手足も長くてバランスがとても良いですね。失礼ですが、磨かれていない原石のようです」
えっ、野暮ったいってこと!?
自覚あります。
「職業柄、このままでいて欲しいような、手を加えたいような不思議な気持ちになります」
「プロの技で、佐藤の隣に立っても笑われないくらいにしてください!」
エンペラーの隣に立つには、釣り合わないのは承知だけど。
そこをなんとか!
「ご謙遜を」
いやいやいや、お上手なんだから…。


「千歳、どうだ?」
奥から佐藤が出てきた。
スーツ着て来るのかと思ったら、さっきまでの作業着のままだった。
期待させやがっての瞬間だ。
エンペラーはどこですか!
「後は色柄合わせをいたしましょうか?」
佐藤が、やれ何色だとか、なんだかんだ言ってやっと決まった。

「うぅーーーーん」
お行儀が悪いってわかってるけど、ついお店の応接セットのソファに倒れるように座り込んで、大きく伸びをした。
「お疲れ様でした」
「大丈夫か?悪いな。つい真剣になりすぎた」
店員さんが前に、佐藤が横に座った。
僕は立っているだけだったけど、二人は楽しそうに、これで何を作って、あれで何を作ってと盛り上がっていた。
「すいません。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。久しぶりに腕がなります」
「頼んだぜ」


一杯のお茶を頂いてから、佐藤のいつもの車に乗って帰る頃にはすっかりよるだった。
コンビニでおにぎり買って車内でモグモグしている。
佐藤はどこかお店寄って食事しようって言ったけど、きっと明日も現場早いだろうから、コンビニで十分だ。
「この明太マヨ照り焼き、うまぁだよ」
「悪いな、遅くなっちまって」
信号待ちで止まった佐藤におにぎりを差し出す。
佐藤ががぶりと、おにぎりを一気に半分くらい食べた。
「ううん。ありがとう色々。あのさぁ、佐藤…」
信号が青になって再び車が走り出す。

脅迫状のこと言った方がいいかな?
イタズラだったとしても。

あれは誰なのだろうか、最初のは佐藤のファンかな?
それとも、前に付き合っていた誰か??
きっと今までだって沢山の女性や、Ωを相手にしてきたんだと思う。
僕は恋愛経験ゼロで佐藤と出会って結婚だけど。
佐藤はもういいおっさんだし、エンペラーだし。

一人や二人や……一人二人じゃないよね!!
だって、挿入はしてないけど、エッチめっちゃ気持ち良いし手慣れてる!
キスだってうまいし!!
そもそも優秀なαを周りが放っておかないだろう…。

あぁ、なんだかメラメラと嫉妬心が湧いてきた。
過去の事だってわかってるけど!!
僕にはまだしてくれないこと、他の人には一杯してるんだぁ!!

佐藤のくせにハーレムか、酒池肉林か!

「どうした?なんか怒ってねーか?」
「ううん、何でも」
嫉妬が止まらず佐藤から目をそらして、おにぎりを一気に口に入れた。
モグモグしながらドアの方を向くと、ドアのドリンクホルダーに畳まれた紙が。

まさか佐藤にも脅迫状が!?

すぐに手に取って開く。


親方になら俺の尻、差し出せるっす。
いつでも連絡下さい。
井上

「……」
誰だ、おい井上!!
お前か、僕にイタズラしてるのは!!
親方ってことは、解体の方の部下じゃん!!
エンペラーに寄ってくる女でもΩでも無いじゃん!

このジゴロ佐藤めぇええ!!
ジゴロ佐藤は完全に僕のものだ!

エンペラーと違ってちょっともあげない!

「ねぇ佐藤。この井上って誰?」
「あ??」
広げた紙を佐藤に向ける。
見やすいように、わざわざスマホで照らしてあげた。
「あいつ!?」
「佐藤のくせに浮気…」
じーっと睨む。
紙をぐしゃりと丸めて潰す。

「違う!勘違いだ!!それは、誤解だ!!」
「……どうでしょうね」
佐藤が焦っている。

「これからお仕置きね、佐藤!」
「だから誤解だああ!」
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