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好きすぎる
しおりを挟む「いいか、よく聞け……それ以上近づくなよ」
はれて恋人となった俺たちは、同じベッドで寝ることになったんだけど……何故か二人の間には、クッションが置かれた。ヒコさんの険しい表情と、今の発言……この状況を他の人が見たら、決して恋人同士には見えないだろう。
「なんで!!もっと、くっついて寝ようよ」
ヒコさん明日仕事だし、襲うつもり無いのに酷い。
ベッドの俺側の陣地から、ぐっとヒコさんの方へ近づいて、俺たちの間にあるクッションを、どかした。
それにしても…ヒコさんの家にあるものは、統一感あるし落ち着いている。クッションもシンプルだけどオシャレ。俺の部屋なんて…虫グッツだらけだ。クッションは、あのハングリー青虫だ。
この部屋も段々と統一感を失い、虫に浸食されていくかと思うと…面白い。かわいい虫のグッツを持っているヒコさん…ギャップ萌えだ。
「ホラ、こっちにおいでよ」
「断る!」
頑なに強い拒絶をみせるヒコさん。
なんで……はっ!そうか、ヒコさんにとっては、色々とハジメテだから、スピード緩めて行く感じ?
オッケー、オッケー!
俺、待てるよ。二人の関係の発展は焦りません。心が結ばれて満たされたせいか、性欲全面に出てきてないんだ。
ん~っと、最初は高校生のカップルくらいな感じ?それとも中学生?
まぁ…いいや、とにかく恋は焦らずにってやつだね。
「じゃあ……手は繋いでもいい?」
ゴロンと寝転んで、ヒコさん側の右手を差し出した。
「……おまっ!!……お前!」
何故か凄い険しい表情で、口をパクパクさせるヒコさん。
嘘でしょ…手を繋いで寝るのも早いの?純情マックス!
そうか……。
「じゃあ良いよ……ヒコさんの枕ちょうだい、これで我慢する」
ヒコさんの枕を引き寄せて、代わりにどかしたクッションをヒコさんに投げた。
クッションがヒコさんの広い胸にボスって収まった。俺が持っていた時よりも、小さく見えて…体格差を感じた。
「お休みヒコさん」
ヒコさんの枕を抱き、笑って挨拶をした。
うん、今日は色々あったから疲れたなぁ、よく眠れそうだ。
大きくあくびをして、目を瞑った。
「………」
□□□□
心地良い眠りから、段々と目覚めていく……。
抱きついている何かが温かい。
あれ?俺……間違えて亮平のベッドに入ったっけ?でも、なんか違う……部屋自体に、ふわっと良い匂いがするし、ベッドが窮屈じゃ無い。
「……あ」
目を開けると…俺は、ヒコさんに抱きついていた。
仰向けで、険しい顔をして寝ているヒコさん。その体に足と腕をのせて抱きついている俺。
触れている体がとても硬い。華奢だと言われがちの俺とは大違いで、出るとこ出てる筋肉羨ましい、又吉さんを見ていても思うけど、絶対筋肉が付きやすいDNAだと思う。
「……」
恋人の寝顔を見るって、すごく幸せだな。心がホカホカ満たされる。
ヒコさんを起こさないように、抱きついたまま、その顔をじっと見つめた。
髭だ!うっすら顎とか口の上とか髭が生えている!
セクシーだ。いいなぁ……朝の無精髭…カッコいい。
ヒコさん、料理人だから伸ばさないだろうけど、髭ある顔も似合いそう。治安の悪さは増しそうだけど。
ちなみに…俺…ほとんど生えない。
きっと神様が俺を作るときに男性ホルモンぶっこぼしたんだと思う。
「…ふふ」
ヒコさんのまつ毛、短い。それすらカワイイ。
あぁ……睫毛をツンツンして、頬にスリスリしたい。髭がジョリってなるだろうけど……。
好きが溢れて止まらない!
ちゅーしたいよ!
ニヤニヤとヒコさんの寝顔を見つめていると、ヒコさんの瞼がピクピクし始めた。
起きる!
そう察知した俺は、素早く寝たふりをした。
「………」
起きたっぽいヒコさんが、抱きつく俺に気がついた。なんか今、ぎょっとしなかった?
「………」
俺の腕と足が、そっと外された。
そして、多分……メチャクチャ観察されている。
「……コイツ……本当に男か……」
呆れたような声で言われた。
残念だけど…男だよ。チンチンついてるし、おっぱいないよ。ちょっとスネそうだよ。
「朝でも……綺麗なのか……」
なんだ褒めてるのか。
「………俺が……コイツの……恋人………夢か……」
何なの!!この人何なの!
えっ……可愛すぎない!?こんなにカワイイ34歳って存在して良いの!?
今すぐ目を開けて抱きつきたいけど、ヒコさんの自然な朝のルーティーンとかも見てみたい。
俺は必死に込み上げる愛しさを押さえ込んだ。
部屋には、朝日が差し込んでいて明るいのに、顔の光が陰った。
ヒコさんの手が近くにある気がする。
触れようとして、躊躇って……離れて、掛け布団だけ丁寧にかけ直された。
もー触れば良いのに!俺は、ヒコさんのモノになったのに。心の中で残念に思っていると、ヒコさんがベッドに腰掛けた。
ちらっと片目を開けて見守る。
俺に背を向けて座っているヒコさんは、少し乱れている髪を掻き上げて、スマホをチェックしてスリッパを履いてリビングへと消えていった。
その後を、コッソリ追って、ほんの少しだけドアを開けた。
ヒコさんは、おなじみの黒のエプロンを着けて、丁寧に手を洗っている。
「朝からバリバリのシェフじゃん……」
一人暮らしには大きなファミリー用の冷蔵庫を開けて、食材を取り出し、無駄な動きなく料理を進めていく。
うわあああ……カッコいい……カッコいいよ!
やっぱりヒコさんのお料理姿は、最高にクールで素敵!
ドアに縋り付いて、恋人のカッコ良さに悶える。手伝うのは邪魔になりそうだからか…目の前のカウンターで眺めたい。
「ヒコさーん!!おはよう!」
「……」
我慢できなくなった俺は、ハイテンションでドアを開けてヒコさんのもとへ歩いた。
きっと今抱きついたら邪魔で怒られるんだろうな。亮平にならやっちゃうけど、やめておこう。俺も大人になる!
「ヒコさん、朝からカコイイ。すごく素敵だね」
キッチンのカウンターに座って、肘をついてヒコさんを眺めた。
「……お前は……朝から目が悪いな」
照れたヒコさんが、卵を混ぜながら、ぶっきらぼうに言った。
俺は、リビングに置いたリュックから、メガネを取り出してかけると、再びヒコさんを見た。別にそこまで酷い視力じゃないから裸眼でもそこそこ見えてるんだけどね。
ちなみにメガネは、亮平が2時間かけて選んだやつだ。もう……こだわりが強すぎて…何個試着させられたことか……。
「ほら、やっぱりカッコいいよ」
「………お前……メガネも似合うんだな……」
つい、ポロッと言っちゃった感じのヒコさんが可愛い。
「えへへ。ヒコさん、俺に出来る事ある?」
「……待ってろ」
さらっと戦力外通告されてしまった。
料理はあれだけど、ほら洗濯とかゴミ出しとか、それなりに出来る。まぁでも……ヒコさんのやり方をまずは知らないとイケないし。しばし観察だね。
ヒコさんは、何でも丁寧にきっちりやるタイプだと思う。
結構、説明書読むタイプだよね。
部屋も綺麗で、ショールームみたいだ。
自分でイメージして全部揃えてるなら、本当にセンスがいい。
□□□□
好きな人と同じ屋根の下でご飯食べて、一緒に片付けて、並んで歯を磨く。ただソレだけなのに嬉しい。事あるごとにヒコさんの顔を見つめて「へへへ」っと笑っちゃう。その度に、ちょっと照れて顔を逸らすヒコさんがまた可愛くて…堪らない。
でも、朝の時間って言うのは有限で…。
俺は洗濯して貰った自分の服に着替えて、帰る用意ができた。
亮平が心配してるから、俺はヒコさんの出勤よりも一足先に帰ることにした。
「じゃあね、ヒコさん」
玄関で靴を履いて向き合った。俺の金髪の後ろ髪がグイグイ引かれている気分。
まだ、バイバイしたくないなぁ。
「……レオン……」
ヒコさんが俺の名前を呼んだ。びっくりして見つめると、ヒコさんの顔がゆっくり近づいて来た。
キスされる…そう感じ取って、心臓が跳ねた。大きな体を屈めてたヒコさんが、俺の肩に手を置いて、そっと口付けた。
「……っ!」
嬉しい。
唇に触れるだけのキスなのに、すごく嬉しい。
触れたところを意識しすぎて…そこだけ熱くて、くすぐったい気がする。
「……お前が好きだ……良いんだよな?俺の勘違いじゃなく……俺が……お前の……こっ……恋人で」
ヒコさんは、照れすぎて…最後の方はもうドスの効いた低い声になってた。
顔も段々と横に向いちゃって、もう俺からは耳の後ろ見えちゃっている。
可愛すぎる!
「もちろんだよ!ずっと仲良しラブラブカップルでいようね!」
そう言ってヒコさんに抱きついた。
言葉にしてから、自分のアホっぽさに気がついた。
「……おっ……おぅ」
「ヒコさん、大好き!」
結局、ヒコさんの出勤ギリギリの時間になって、二人で急いで家を出たのは言うまでもない。
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