太陽と可哀想な男たち

いんげん

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古い風

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「レオン!」
「へ?」

ヒコさんの家の玄関が、ガチャガチャなったと思ったら、本人が大きな声だして入って来た。
いま…俺の名前呼んだ?
ちょっと嬉しいんだけど。

「お帰りぃ、ヒコさん、お疲れ様」

散らかしまくったリビングの真ん中で、語尾にハートマーク飛ばしそうな声色で両腕を広げて歓迎した。
このリビングの惨状にイラッとしているのか、ヒコさんの眉間の皺が深い。

「……誰もいないのか…」
「えっ…怖!俺の事見えてますかぁ!誰がいるのさ!ここ事故物件!?」
俺は左右を確認した。
心霊現象とかお化け屋敷とか大っ嫌いだ。でもついホラー映画とかみちゃうし、ゾンビ倒すゲームやって叫んでは亮平の腹筋に突っ込んでいる。

「いや……誰かとラーメン食ったんだろ?」
拍子抜けした様子のヒコさんは、鞄を椅子に置いた。
そして、足の踏み場が無い場所を器用に進み、俺の前にしゃがんで額に手を当てた。
いやいや、熱とか無いから!

「そう!そうなんだよ!パパ来たよ」
「……パ…パパ?お前…やっぱり…パパ活とかやってんのか!?」
俺が手に持っていた設計図が奪われ、捨てられた。
パパ活!?まだ疑っていたのか。
「違うよ!パパだよ!又吉さんだよ!ヒコさんの産みのパパだよ……じゃなくて、精子のパパだよ」
「………」
「……ヒコさん?」
完全にフリーズしている。
あれか?古の人達が語っていた、アナログ回線の接続か。
「親父か!」
あっ…繋がった!
「そうそう!イキナリ、つなぎ姿の悪役プロレスラー入ってくるじゃん!超ビビったよ」
設計図返してよっと指さすと、大人しく拾いに行ってくれる。

「……は?あぁ??アイツとラーメン食ったのか?」
「そうそう。お昼過ぎに遊びに来て、ずっとお喋りして、一緒に9号作ってラーメン食った。おやつとか一杯もらった」
「……あんな癖の強い親父と……お喋り……おやつ……」
ヒコさんは信じられないみたいな顔しているけど、ヒコさんだって全然フレンドリーじゃないよ。
むしろ、一応社長やっているだけあって、パパの方が社交的だった。

「もうさぁ…9号作るのにさ、パパ、めちゃくちゃ古い風吹き込んでくるの!こっちは最新技術で作りたいのにさぁ。でも…まぁ、一理あるみたいなアドバイスかましてくるから、古代アドバイザーとして採用したから。足が治ったら彦山製作所行ってくるわ」
「……」
あれ?またヒコさんの活動が停止した。
疲れているのかな?そういえば、今日はオールバックがパラパラしている。

「…ごめん、ラーメン伸びるし、ヒコさん、食べそうも無いからヒコさんの分ないよ…ホラ、パパが買ったスルメイカ食べる?」
袋から取り出したスルメイカを差し出すと、それはクニャンと曲がって垂れた。
「……いや、いい……シャワー浴びてくる…」
「そう?覗いたりしないから、ごゆっくり」
顔の前に手を覆ったが、あえて指の間は全開にしてみた。
「ああ………想像の範囲を……越えるどころか……ロケットの打ち上げだな……」
「…有難う?」
何の事か分からないけど。
パパと仲良くしたらイケなかったのかな?

ヒコさんは、ハァ…というため息と、謎の笑いと共にお風呂場に消えていった。


「俺も風呂に入りたいです」

ヒコさんが簡単に自分の夕食を作って食べ終わったころを見越して言ってみた。
凄いよね、ものの15分くらいで美味しそうなパスタ出来てた。さすがシェフ。

「……まだ早いのでは?」
「早くない!昨日も入ってないし、限界。大丈夫!風呂まで連れてってくれれば中で勝手にやるから!介護しなくて大丈夫!」
「……あぁ…」

渋々といった様子のヒコさんが、用意を始めてくれた。
旅行リュックを手渡され、パンツとTシャツ、短パンをだした。
またお姫様抱っこされそうな勢いだったから「肩、肩!肩貸して」と何とか止めて、ヒコさんの肩にぶら下がるようにヒョコヒョコ歩いた。

「ヒコさん、ズボン抜いて」
浴室前でヒコさんにお願いした。
「はぁ!?」
「足!痛いから、ズボンだけ脱がして」
ゆるっとしたサルエルパンツのゴムをびょーんと引っ張った。
すると凄く嫌な顔したヒコさんが「…お…おぉ」と俺を洗濯機に寄りかからせ、屈み込んでズボンを脱がしてくれた。
「ありがと」
どうせならパンツも…と思ったけど、良識的に遠慮した俺、偉い。
ヒコさんが退出してから気合いでパンツ脱いで、シャワー借りたんだけど…。

「ほほぉ…コレがヒコさんの匂いですか……ぶっ……おフランスの奴だ…おフランス野郎……くっ……」
おフランスのボディソープに笑いがこみ上げたけど、お風呂上がり、この匂いで抱きしめられるのは悪くないかもしれないと思い直した。
ヒコさんの生の胸板とか見たこと無い。
どんな乳首してんだろう。

「いやいや……辞めろ俺。健全なレオン……俺は健全なレオン…」
人の家の風呂に入って、ちょっと不健全な気持ちになりそうだったのを沈めた。
体を綺麗にすることに没頭して、再び気合いでパンツをはいてTシャツを着たら、ヒコさんを呼び出して短パンはかせてもらった。


□□□□

「明日は病院だからな…さっさと寝ろよ」

お風呂から出ると、リビングが結構綺麗に片付いていた。
うん…ごめん。仕事帰って来て疲れさせるようなことさせてゴメンと思う。
いやぁ、亮平相手だと「いいじゃん~」ってなるんだけどな。うん。ちょっと改めよう。もう少し散らかさないで生きよう。

「はーい!ヒコさん…今日は一緒に」
「寝ない」
「えーだって、ソファきついでしょ?」
「問題ない。お前と二人で寝るより良い」
ヒコさんが、俺の足に湿布を貼って包帯を巻いてくれる。
「…かなり内出血しているな……痛そうだ」
だいぶどす黒くなった俺の足首をみて、険しい顔をしている。
「見た目はあれだけど、痛い峠はもう越したよ。おかげさまで!」
「……痛かったら呼べ……」
手当が終わったヒコさんが立ち上がった。
背が高いから、ベッドに座っていると首が痛いくらい上を見ることになる。

「ホント優しいよねぇ。面倒見いいし、格好いいし、料理は旨いし…最高の男!」
「寝言は寝て言え……じゃあな」

ちょっと照れた様子でヒコさんが出て行った。
うん、今日も安定の可愛さ。

ペンコーン

そのとき、スマホが鳴った。

「亮平……」

『今日は家族で食事?高校の奴らにレオン呼べって言われてる。明日飲みに行くだろう?』
どうやら、まだバレていないようだ。
だけど…これはピンチだ。
何を言ってもバレる気しかしない。だが…何とかしないと。
亮平ファミリーの久々の再会を台無しにしたくない。

『ねぇちゃんに付き合うから、明日は行けない。俺がいないと寂しいだろうけど、みんなによろしく』
『了解』
送ってすかさず、一番上の姉に口裏合わせのお願いメッセージを送った。

「……亮平さん……ほんとに……了解してますか……」

若干の疑念を抱きつつ、眠りについた。






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