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見てたよ…
しおりを挟む「ごちそうさまでした」
「……送っていく」
美味しいスープと、名前は分からないけど美味しいチキンの料理を頂いて、最高の夕飯だった。
お皿洗いくらいしようと思ったのだけど、一皿1万とか言われて「まかせろ!俺はダンプバーガーで一番割っている経験者だから」って言ったらジェラートを出されキッチンから追い出された。
結局デザートまで頂いて、帰ることにしたけど、なんだか俺ばっかり満足しているきがする…。
さらに送ってくれるなんて、ヒコさん紳士じゃん。
「大丈夫!俺、運動神経抜群で何か有っても逃げ足早いから」
玄関でヒコさんを振り返って微笑んだ。
「……」
何か言いたそうな顔をしている。
うむ。もし送って貰って家で亮平と遭遇したら、またセフレを作って勉強もしないで遊んでいたと思われてしまう。それは不味い。今は不味い。テスト終わってからキス友達つくったって言おうと思う。
「それじゃあ、またね!暫くテストあるから遊べないけど寂しくなって泣かないでね」
佇むヒコさんのTシャツを掴んで引き寄せ、肉付きの薄い頬にキスをした。
「ばいばーい」
「…試験がんばれよ…」
「うん!」
よし、帰ってもう一踏ん張り頑張るぞ。
今回は今までで一番良い成績とるぞ!
亮平の勉強の邪魔するなって言ってる奴らを黙らせる!
□□□□
「……あっ」
時刻は8時、アパートの俺達の部屋には煌々と電気がついていた。
えー、亮平さん…夕食食べないって言ってたじゃないですか…早くない?
出かけたことがバレてしまった。
「…ただいま戻りましたぁ…」
気まずい玄関のドアをそっと開き、できるだけ静かに部屋に入った。
リビングに亮平の姿は無い。部屋で勉強しているのだろうか。
リュックを下ろして、亮平の部屋のドアを見ると、張り紙があった。
『レオン立ち入り禁止』
「あああああぁ!」
俺は膝から崩れ落ちた。
おこだ。亮平さんが怒っていらっしゃる。心臓バクバクでお尻がソワソワしだした。
まずいぞ…俺が遊び回っていたと思っているんだ。
「…亮平さーん…亮平様…」
床に這いつくばって、ドアに向かって声を掛ける。
ピンと耳を欹てても、亮平の部屋からは物音がしない。
緊急事態だ。亮平さんのお怒りは大きい。
「私、レオンは本日お出かけはしましたが、勉強はちゃんとやりましたぁ、レポートも、ほら過去一番真剣に書きました。全部!見て下さいよぉ」
まったく反応がない。
どうしよう。
亮平に愛想尽かされたら生きていけない。
「出先でもちゃんと勉強しました…ほんとうですよー」
ガチャ
「いてっ!」
亮平が開けたドアが俺の伸ばしていた手に当たる。最近こんな事が多い気がする。
ちらっと亮平を見上げると、いつもはすぐに心配してくれるのに冷たい目で見下ろされている。
やばい…俺泣きそう。
「……どこで、何を?」
「…ヒコさん…あの、カマキリちゃんのお家で勉強してレポート書いて、ご飯食べさせてもらいました…」
ほぼ土下座姿勢で痛みに耐え亮平を見上げる。反対側の手には提出する、いくつかのレポートを掲げる。
いつもニコニコしている人の真顔まじ怖い。
「……」
「…セックスしてない…まじで……ほんとに、誓って!ちゃんと勉強しまくってた!」
「……最近知り合ったばかりの男の家で勉強?シェフに手料理つくらせて?」
コクコクと黙って頷く。
ほら俺の目を見て!信じて!セックスまじでしてないから。もう俺、ほぼ一年半もセックスしてない枯れた男になったから!
「……ふーん」
俺の手からレポートが引き抜かれ、ドアが閉まった。
「それを読んで貰えれば、今日の俺の頑張りが分かるはずですぅ」
ピンチだ。
今までの人生で最大のピンチだ。
膝をついた姿勢で固まっていると、もう一度亮平の部屋のドアが開いた。
あっ!やっぱり許してくれるの?
期待で輝いた目を向けたけど、亮平の手だけ出てきて、ぽいっと湿布の袋と止めるテープが投げられた。
「りょうへいさぁぁぁん」
手当もしてくれない。亮平が、かまってくれない!
マジでポロリと涙が流れた。
2分ほどそこに茫然自失して、すごすごと自分の部屋に戻った。
ベットにダイブして目を瞑った。
もう駄目…やる気が出ない…もう寝る。
鼻を啜りながら、俺はいつの間にか眠りについた。
□□□□□
「…よかった…割れたりしてない」
声がする…聞き慣れた亮平の優しい声が…。
手を握られている?
亮平の手の感触と声を頼りに、眠りのそこから意識を引き上げていく。
薄らと開いた目に、俺のベッドに腰掛けている亮平が映る。
「りょうへー」
亮平の顔を見て安心した俺は、ふにゃっとした顔で笑った。
俺を見た亮平が仕方ない奴だなぁって顔で笑っている。その手には俺の手が握られていた。
「ごめんね、また痛くした……レポート読んだよ。すごく面白かった。いつもの、やっつけの奴とは全然違った。頑張ったんだな」
亮平が俺の手を置いて、俺の頭を撫で、金の髪をサラサラと指で遊ぶように弄んだ。
「……なんだよ…何泣いてるんだよ」
俺の顔を見て苦笑した亮平が、俺の目尻を拭ってくれた。
「……仲直りのキスは?」
「……はぁ……断る」
きっぱりと言われた。
グサッと心に尖ったナイフが刺さる。
「なんでー!いいじゃん、ちょっとチューするだけじゃん」
「カマキリちゃんと間接キスだろ」
あああああ…。
やっぱり、色々お見通しですね。
ぐうの音も出なくて喉が詰まる。
「それはさぁ…俺の唇はさぁ、世の中に愛されているっていうかさぁ、セックスしてないしチューは健全だろ?」
「俺は、キスも、セックスも唯一無二がいい」
一言、一言がハッキリと紡がれた。
いつもの亮平の目は包み込むように優しいけれど、今は俺の心を貫くように鋭い。
そうか…そうなのか…亮平は純潔彼女を求めて居るのか…。
えっ…初恋、初彼女、初キス、初夜…結婚。そうか…亮平らしいというか、うん、凄い一途だな。いいなぁ何か…。凄いなぁ…亮平の唯一無二。
誰からも好かれて愛されるより、たった一人に死ぬほど愛される感じいいなぁ…。
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亮平の唯一無二か…。
「……なんか…俺…」
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「亮平の唯一無二は幸せだな」
亮平の肌に触れる事を躊躇い、起き上がってTシャツごしの肩を掴んだ。
意識的に爽やかに笑ったつもりだけど、ちょっと自信が無い。
「まぁ、夢みたいな話だけどな…」
応援しているよと言葉に出来ない。
いつも堅実に着実に生きている亮平だから、きっと俺との夢だって叶えるし、私生活の夢も叶えるんだろうな。
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寂しい。
凄く寂しい。
寂しい。
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どうしよう。
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「……相手は、俺よりビジュアルが良くて、俺より頭が良くて、俺より魅力的な奴じゃないと認めないからな」
俺は顔を見られたくなくて、うつ伏せに寝転んだ。
「そうするわ」
「ねー!そこは、嘘でも、そんな奴いないだろって言う所だろ!」
ガバッと顔を持ち上げて亮平を睨んだ。
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「はいはい。レオンが一番可愛くて、素敵だよ」
亮平の手が、おれの背中をトントンと叩いた。
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