我が為に生きるもの

いんげん

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会議

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「おはよう、あさひ」
「伊織さん?おはようございます」
朝になり伊織さんが自動車でやって来た。
長い髪を後ろに一つで縛って、あっさりとした栗色の着物を着ている。
いつもの妖艶な感じではなく、爽やかだ。

後ろからやって来た屋敷の使用人がなにやら運び入れている。

なんだろう?

「陣中見舞いに来たよ。深澤に酒や食べ物、あさひに美味しい飲み物持ってきた」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げてお礼を言った。

でも、わざわざ伊織さんが来てくれるとは思わなかった。
煌一の様子が聞けるだろうか。

「伊織さん、煌一はどうですか!?」
「まぁ、なんか大きな変化はないけどね。煌一は耐える方だしね…」



「あれ?討伐隊の華は?二階?」
「はい、里見大尉とお話し合いをしてます」
討伐隊のこととか大切な話をしているんだと思う。
伊織さんが眉をしかめている。

「なんでわざわざ二階で?聞かれたら不味いことでもあるの?」
「討伐隊は国の軍ですし、聞かれたら駄目なんじゃないですか?」
特になにも疑問に思っていなかったけど…。
小首をかしげて伊織さんを見上げる。

「あさひのそういう素直なところすきだけど……とりあえず盗み聞きにいくよ」
「えっ?伊織さん…ちょっとそれは……」
階段へ向かおうとする伊織さんの手を掴む。
いくら何でもお世話になっているのに、そんな事は……

「大体、蝶ってのはいつも蚊帳の外にされて、華が勝手によかれと思ってなんでもやっちゃうものだよ。いいの?勝手に色々決められても?私はどちらの気持ちも分かるから、何事もあさひの思うようにしてあげたいよ。たとえ苦しい道でもね」
「……伊織さん…」
確かに蝶を守る為に、華ならば自分に危険があろうと何でもしてしまう。

このまま煌一に何かあっても、僕には悲しい報告しか来ないのではないだろうか…。
僕は掴んだ伊織さんの手を引いて階段を静かに上がり始めた。


「そうですか……あさひ様の様子も……」
「あぁ、昨日の夜に俺の蜜を吸ったことを覚えてねぇ」
二人の声が聞こえてきた。
伊織さんが眉をひそめて僕を見る。

昨日の夜、深澤中佐の蜜を吸った?
僕が? 
うそ……
覚えてない。確かに朝目覚めたら体調が良かったけど…。
え?本当に僕、蜜を吸ったの?

自分の記憶に穴があることを知り、怖くなった。
伊織さんが僕の肩を抱いてくれる。

「ただ……昨晩、あさひ君が蝶の本能で行動した事で、煌一君が悪くなっても治るかも知れない手立ては見つけたんだがよぉ……そうすると……あさひ君には、煌一君以外の蜜を与えながら……いや……だが……やはり危険だ……」
僕は、我慢できず、襖を手にして開け放った。
驚いた顔をした二人が此方を見ている。


「その話、詳しく聞かせてください!」
ずんずんと部屋の中へ進み、深澤中佐の前に正座をした。
「私たちも入れてよ、その話。なにその蝶の本能でってやつ」
伊織さんが僕の腰に腕まわして、隣に座った。

深澤中佐が、参ったなぁと顎の髭を掻いた。
頬が紅い。
何か思い出しているのだろうか……僕は一体、昨日の夜何をしたのだろう?
失礼な事をしていなければ良いけど…。

「いやぁ……その…なんだ……まぁ蝶の蜜があるらしいぞ…」
深澤中佐が僕から顔をそらして言った。
なぜか里見大尉まで外を見て紅くなっている。

「蝶の蜜!?私そんなの聞いたことも無いけど」
伊織さんが僕を見る。
蝶の蜜?
なんだっけ?
昔、どこかで聞いたような…

「なんでも……特別な蝶には出せるみたいだぞ……」
「それ、僕が昨日出したんですか?」
僕は着物をペラっとめくって鎖骨の下を見る。
僕には痣なんてないけど…

「いや……その……なんだ……別の場所からでるみたいだが、まぁ、それは追々話そうぜ!」
深澤隊長が僕の着物を直してくれる。
別の場所?
口とか?
ま、まさか性器から!?
え?

「妖しい…。まぁ、とにかくソレを煌一に与えれば良いんでしょ?」
「…だが、またあさひ君が蝶の本能に支配されたら、きっと今、毒されている煌一くんの蜜を吸うし、煌一くんも何をするか分からない。そうすれば、あさひ君が危険だ」
深澤中佐が心配そうに僕の顔を見つめた。

「それでも良いです!煌一を助けたい!」
深澤中佐の腕を掴んで言う。
煌一は、僕の大切な人。
例え僕が煌一に好かれていなくても、僕は、煌一の為になるなら危険でも何とかしたい。

「お前の気持ちは分かるが…でもな、まだ煌一君はこのまま落ち着く可能性もある。もう少し、様子を見ようぜ。まだ正気を保っている煌一君も望まないだろうし……お前自身これからどうなるかわからねぇぞ。」
「そうですよ、あさひ様!」
里見大尉が言った。
里見大尉は煌一が大切じゃないの!?
僕がどうなろうと煌一を助けたくないの?
それとも、やはり冷静で慈悲深い人だから…。

「でも、煌一に何かあってからじゃ遅いじゃないですか!」
僕はそんなの嫌だ。

ずっと一緒に居たんだ!
僕が産まれて皆藤に引き取られてからずっと。

子供の頃は毎日ずっと遊んでいたし、大きくなってうまく行かなくなっても、それでも蜜を与えてくれた。一緒に居てくれた。

家族であり、大切な人で、僕の華なんだ!!

「あさひは、煌一以外の華は見捨てるの?」
伊織さんが僕を引き寄せて、膝の上に座らせた。

「えっ?」
「もし、あさひに何かあったら、私や朔夜や深澤はどうすればいいの?それに助かった煌一は?あさひが居なくなったら、私たちは生きていけない…」
「伊織さん……」
伊織さんが僕をぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「私は、あさひが生きているなら、他の華の蜜を吸ってやってもいいけど、あさひが居なくなったらそんな事したくない。沢山の華が行き場を失うよ。」
僕の耳元でささやく伊織さん。

華としての伊織さんの気持ちを知ってしまった以上、簡単に僕が死んだ後で、煌一たちをお願いしますとは言えない。

「でも……」
このまま煌一に何かあったらどうしよう……。
どうすることも出来無い今の状況で涙が出てくる。

「それに、煌一の蜜を吸って、あさひもおかしい所があるんでしょう?まずあさひを、どうにかしないと。深澤、何か手立てはないの?」
僕を抱きしめたまま伊織さんが深澤中佐に視線を向けた。

「おかしくなった華の蜜を吸い続ける事で、蝶も昼夜蜜を求め、またその華の蜜を吸うと苦しんで衰弱するみたいだ……俺の弟は不特定多数の華の蜜を吸っていたからか、殺されたけれど、おかしくはなっていなかった。蝶にとって華の蜜は本来、食事でもあり薬だ。煌一君以外の蜜を吸っていれば、あるいは……」
深澤中佐の表情が険しい。
「じゃあ、深澤と私と朔夜で与え続ければいいね。灰の摂取をしなくても多少出続けるし」
「でも……その間に煌一がおかしくなったら!?」
「その時は…俺たちが見張りながら、あさひ君が蝶の蜜を煌一君に与えられるようにする……」
悲しそうな深澤中佐。

どうしてそんな顔をするんだろう?
僕、昨日何をしたのだろう?

「だから、少しだけ待ってくれ。な、良いだろう?」
「……はい。でも煌一に何かあれば絶対に教えて下さいね!」
「ああ、約束する」
深澤中佐が力強く頷いた。

「じゃあ、今日は私の蜜を吸ってね、あさひ」
伊織さんが僕の股間に手を起きながら囁いた。


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