我が為に生きるもの

いんげん

文字の大きさ
上 下
21 / 34

おじさんの思い

しおりを挟む

富士の一族の蝶は、俺の実の弟だった。

一族のものは皆、弟に蜜を吸ってほしくて、弟の為に何でもした。

彼らは、なりふり構わず弟に尽くした。


俺は、彼らの気持ちはさっぱり理解出来なかった。
だが、やはり常に何かに飢えて、その何かを求めていた。

蜜が吸って貰えない分、男娼を雇い発散したが、常にコレじゃないと思い続けていた。

「おかしい華がいる」

弟が言い出した。
その当時、一族の暮らす街では海側から質の悪い人間が入ってくるようになっていた。
まさか人間に感化されたのか?

そして、その華は、飢えた獣のように狂暴に蝶を求めた。

俺は、仕方なくそいつを座敷牢に閉じ込めた。
そいつも正気を保っている時間もあり、大人しく応じた。

原因もわからず、治療法も思い浮かばないうちに、いつの間にか他に二人の華がおかしくなり、彼らに弟は殺された。

二人は仲間に倒され、牢にいた華は自死した。

無力だった。

富士の華のまとめ役でありながら、俺は、とてつもなく無力で何も出来なかった。

「他の一族から蝶を頂く」

そうい言い出した華が居た。

俺は、全力で彼らを止めた。
自分の一族の蝶も守ることが出来なかった俺達が、他の蝶を幸せにできるはずが無い。

その後おかしくなる華が出ない事を確認して、俺達は解散し、人間と生きていくことにした。

「どうしたものか」

解散したものの、故郷に留まるものも多かった。

しかし、俺は違う土地に行きたかった。

富士は自分の無力さを思い出す場所だという事もあるが、この場でない場所に行きたかった。

俺の飢えを満たすような何かを見つけたい。

導かれるように帝都へ向かった。

帝都では、里見との出会いから灰の討伐隊として働くようになった。

相変わらず飢えは続き、一度に数人の男娼を雇って発散した。



そして…その出会いは突然だった。

夕暮れに見回りをしていたら、喧嘩に出くわし立ち往生する自動車があった。

蝶が居る。

自動車には、特別輝く蝶が居た。

弟なんて比べものにならない存在感と美しさ。

そして華を従わせる力。

一目で、この蝶の華になりたいと感じた。

富士のまとめ役として、他の一族と会い、ほかの蝶も目にした事があるが……まったく違う。

華が華の実力を感じ取ることが出来るように理解した。

こいつは俺の特別な蝶だ。

灰の影響で苦しむ彼を抱き上げ屋敷へと運んだ。

あぁ馬鹿みたいに興奮している。
歓喜に震えそうだ。
屋敷までの道がもっと遠くであればいい、しかし苦しそうで早く何とかしてあげたい。

屋敷に着くと、若い華の覇者がいた。

帝都の華の中で随一の実力の持ち主。
まだ若いが富士までその名は知られていた。

しょうもない自分とは大違いの華だ。
若く精悍で、帝都の一族の事業を拡大させる明晰さ、華としての強さ。

彼が、格下の俺に本気で威嚇してくる。

この蝶に相応しく無いことくらい自分が一番分かっている、そんなに威嚇してくれるな。



もう、この蝶とも会うことも無いだろうと思っていたが灰の討伐という目的の下に再び再会した。


そして、断るべき誘いを受けて……調子に乗ってノコノコ会いに行った。

人生初めての蝶に蜜を吸われる感覚は、酷いものだった。
こんなの逆らえるはずが無い。
華には、こんな最高の快楽と幸せがあったのか……。

それに何て可愛いんだ。

思春期特有の何でも真剣に思い詰める姿も可愛い。
怒る姿もいい。

何よりも、蝶なのに人間らしい。
他の蝶はもっと、蝶らしかった。華を従え、君臨していた。
弟も少なからずそうだった。
華も人間も見下していた。

この蝶は、心だけは、世間知らずで幼い普通の人間に見える。
見た目や、蝶としての支配力は桁違いなのに。
そのアンバランスさが堪らない。

「お前は最高のあさひだ!」

つい調子に乗って馬鹿な事を言ってしまった。

この子が俺のものにならない事なんて分かっている。
それでも、求める心が止まらない。

この子のそばには優秀な華が沢山居る。

皆藤 煌一は共に狩りに行くと、俺には一体も食わせる事無く、全て自分で処理した。
囮も俺も必要がない。
圧倒的な強さ。

皆藤 朔夜は効率良く囮を使い、俺を使い狩りをした。
人間も俺も彼の駒でしかない扱いだが、一切の無駄も情けも無く、灰を殲滅する。
ただ、あさひの為に生きる華だ。
あさひに群がる華が増えないように、邪魔されないように、蝶はもっと産まれないと……それが彼の目的だ。
ある意味、誰よりも華らしい。

朔夜と狩りに出かけ、家へたどり着いた。
里見に男娼を手配するかと聞かれたが、必要ないと部屋に籠もった。

もう他の奴に触られるなんて考えられない。

「……あさひ……あぁ……会いてぇ……くそぉ……」

壁に寄りかかり、自らのペニスをしごき泣けてくる。
勃起したものからダラダラ溢れてくる。
痣がうずく。
あさひの事を考えるだけで蜜が流れる。
欲しい。
あさひが欲しい。
蜜を吸われながら抱きたい。

「くそぉ!……あさひ!!ぐっ……ああ…」

なぜ俺は今まで無駄に生きてきたんだ?
もっと自分を磨き、華として優秀な者になり、あさひと出会いたかった。

「うぁ……うぅ……あっ…ああ……」
止まらない。ペニスをしごく手が、流れ出る精液が。
あさひに会いたい。
馬鹿な事を言って笑わせたい。また叩かれるのも面白い。
なんでもいい、会いたい。


最初は会いたいと思いすぎて幻覚を見ているのかと思った。
あさひが来てくれた。
こんなしょうもない華の為に

もう、駄目だ。
諦められない。
俺のものにならなくていい、俺がお前のものの一つになれれば、それだけで嬉しい。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

処理中です...