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おじさんの思い
しおりを挟む富士の一族の蝶は、俺の実の弟だった。
一族のものは皆、弟に蜜を吸ってほしくて、弟の為に何でもした。
彼らは、なりふり構わず弟に尽くした。
俺は、彼らの気持ちはさっぱり理解出来なかった。
だが、やはり常に何かに飢えて、その何かを求めていた。
蜜が吸って貰えない分、男娼を雇い発散したが、常にコレじゃないと思い続けていた。
「おかしい華がいる」
弟が言い出した。
その当時、一族の暮らす街では海側から質の悪い人間が入ってくるようになっていた。
まさか人間に感化されたのか?
そして、その華は、飢えた獣のように狂暴に蝶を求めた。
俺は、仕方なくそいつを座敷牢に閉じ込めた。
そいつも正気を保っている時間もあり、大人しく応じた。
原因もわからず、治療法も思い浮かばないうちに、いつの間にか他に二人の華がおかしくなり、彼らに弟は殺された。
二人は仲間に倒され、牢にいた華は自死した。
無力だった。
富士の華のまとめ役でありながら、俺は、とてつもなく無力で何も出来なかった。
「他の一族から蝶を頂く」
そうい言い出した華が居た。
俺は、全力で彼らを止めた。
自分の一族の蝶も守ることが出来なかった俺達が、他の蝶を幸せにできるはずが無い。
その後おかしくなる華が出ない事を確認して、俺達は解散し、人間と生きていくことにした。
「どうしたものか」
解散したものの、故郷に留まるものも多かった。
しかし、俺は違う土地に行きたかった。
富士は自分の無力さを思い出す場所だという事もあるが、この場でない場所に行きたかった。
俺の飢えを満たすような何かを見つけたい。
導かれるように帝都へ向かった。
帝都では、里見との出会いから灰の討伐隊として働くようになった。
相変わらず飢えは続き、一度に数人の男娼を雇って発散した。
そして…その出会いは突然だった。
夕暮れに見回りをしていたら、喧嘩に出くわし立ち往生する自動車があった。
蝶が居る。
自動車には、特別輝く蝶が居た。
弟なんて比べものにならない存在感と美しさ。
そして華を従わせる力。
一目で、この蝶の華になりたいと感じた。
富士のまとめ役として、他の一族と会い、ほかの蝶も目にした事があるが……まったく違う。
華が華の実力を感じ取ることが出来るように理解した。
こいつは俺の特別な蝶だ。
灰の影響で苦しむ彼を抱き上げ屋敷へと運んだ。
あぁ馬鹿みたいに興奮している。
歓喜に震えそうだ。
屋敷までの道がもっと遠くであればいい、しかし苦しそうで早く何とかしてあげたい。
屋敷に着くと、若い華の覇者がいた。
帝都の華の中で随一の実力の持ち主。
まだ若いが富士までその名は知られていた。
しょうもない自分とは大違いの華だ。
若く精悍で、帝都の一族の事業を拡大させる明晰さ、華としての強さ。
彼が、格下の俺に本気で威嚇してくる。
この蝶に相応しく無いことくらい自分が一番分かっている、そんなに威嚇してくれるな。
もう、この蝶とも会うことも無いだろうと思っていたが灰の討伐という目的の下に再び再会した。
そして、断るべき誘いを受けて……調子に乗ってノコノコ会いに行った。
人生初めての蝶に蜜を吸われる感覚は、酷いものだった。
こんなの逆らえるはずが無い。
華には、こんな最高の快楽と幸せがあったのか……。
それに何て可愛いんだ。
思春期特有の何でも真剣に思い詰める姿も可愛い。
怒る姿もいい。
何よりも、蝶なのに人間らしい。
他の蝶はもっと、蝶らしかった。華を従え、君臨していた。
弟も少なからずそうだった。
華も人間も見下していた。
この蝶は、心だけは、世間知らずで幼い普通の人間に見える。
見た目や、蝶としての支配力は桁違いなのに。
そのアンバランスさが堪らない。
「お前は最高のあさひだ!」
つい調子に乗って馬鹿な事を言ってしまった。
この子が俺のものにならない事なんて分かっている。
それでも、求める心が止まらない。
この子のそばには優秀な華が沢山居る。
皆藤 煌一は共に狩りに行くと、俺には一体も食わせる事無く、全て自分で処理した。
囮も俺も必要がない。
圧倒的な強さ。
皆藤 朔夜は効率良く囮を使い、俺を使い狩りをした。
人間も俺も彼の駒でしかない扱いだが、一切の無駄も情けも無く、灰を殲滅する。
ただ、あさひの為に生きる華だ。
あさひに群がる華が増えないように、邪魔されないように、蝶はもっと産まれないと……それが彼の目的だ。
ある意味、誰よりも華らしい。
朔夜と狩りに出かけ、家へたどり着いた。
里見に男娼を手配するかと聞かれたが、必要ないと部屋に籠もった。
もう他の奴に触られるなんて考えられない。
「……あさひ……あぁ……会いてぇ……くそぉ……」
壁に寄りかかり、自らのペニスをしごき泣けてくる。
勃起したものからダラダラ溢れてくる。
痣がうずく。
あさひの事を考えるだけで蜜が流れる。
欲しい。
あさひが欲しい。
蜜を吸われながら抱きたい。
「くそぉ!……あさひ!!ぐっ……ああ…」
なぜ俺は今まで無駄に生きてきたんだ?
もっと自分を磨き、華として優秀な者になり、あさひと出会いたかった。
「うぁ……うぅ……あっ…ああ……」
止まらない。ペニスをしごく手が、流れ出る精液が。
あさひに会いたい。
馬鹿な事を言って笑わせたい。また叩かれるのも面白い。
なんでもいい、会いたい。
最初は会いたいと思いすぎて幻覚を見ているのかと思った。
あさひが来てくれた。
こんなしょうもない華の為に
もう、駄目だ。
諦められない。
俺のものにならなくていい、俺がお前のものの一つになれれば、それだけで嬉しい。
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