我が為に生きるもの

いんげん

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煌一の思い

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三歳の時に運命に出会った。

皆藤の屋敷に何年ぶりかの蝶がやって来た。

産みの親は後ろ髪を引かれる思いだろうが、蝶は灰に弱く、市井では育てない。

子供の将来のためにも、皆藤の潤沢な協力金のためにも養子に出される。

蝶は華が産まれた近くで産まれる。

そのために、華の産まれた地域では数年に渡って、産まれた子供が蝶でないか、華に面通りされる。
蝶の発見は華にとって一番大切な仕事だ。

あさひは俺と朔夜の産まれた村で産まれた。
帝都に続く街道の村だ。

あさひはキヨに抱かれていた。

熱を出していて顔が真っ赤になって、大泉門がどくどくと拍動していた。
華の乳児よりも頼りなく、息をしているのか心配になった。

「キヨ、この子は何という名だ?」
「あさひですよ。朝日と共に産まれてきたらしいです。」

あさひの手のひらに指をのせると、ぎゅっと握られた。
胸に多幸感が広がる。

あぁ、この子は、俺の蝶だ。
俺が守り、俺がこの子の願いを全て叶える。

どんな事だってする。

俺は、この子のものだ。


それから俺は、可能な限りあさひと過ごした。

あさひは誰よりも蝶らしく、繊細で可憐で華を魅了した。
艶めくサラサラの黒髪。瞬く度に音をたてそうなまつ毛。こぼれ落ちそうな少したれた大きな瞳。
絵に描かれるどんな子供より魅力的だった。

体は、弱く熱を出すたびに皆を不安にさせた。
しかし、とても好奇心旺盛で明るく朗らかだった。

「こーち。あそぼ!たけとんぼ」
まだ煌一と呼べない時から、俺の後をついて回った。
俺は可愛くて仕方なかった。

「あっ、朔にぃ!」
しかし、一つ問題が、あった。
目の上のたんこぶがいるのだ。
俺よりも七つも年上の朔夜だ。

朔夜もあさひを自分の蝶だと思っているのだ。

「朔にぃ、だっこして。」
あさひも朔夜になついている。
子供の頃の七歳は大きい。俺は常に朔夜をライバル視したが、相手にされていない。負け続きだ。


あの日もそうだった。

あさひが流星群を見に屋敷を抜け出そうとした。

俺はあさひに気が付き、一緒に出かけた。
とても楽しい夜だったが、最後に灰に出会ってしまった。

「あさひ俺の後ろから離れるなっ!」
俺は必死に、あさひを守ろうとしたが、途中で気を失ってしまった。
気がついたら、あさひは朔夜に助けられ、朔夜は大怪我をした。
あさひは毎日、朔夜を泣きながら探した。

俺はとても無力だった。
何が華だ。
何が未来の当主だ。

あさひを自分の手で守れなかった。


その日から俺は、あさひと遊ばなくなった。
俺は朔夜を追い越し、あさひを守り、あさひに選ばれる華になるための鍛錬、勉強、レッスンに時間を使った。

段々と、あさひとの距離が離れて……あさひが大きくなると、蜜を吸われたい、抱きたい、自分の蝶にしたいと思う気持ちが制御出来なくなった。

まともに話が、できなくなった。

常にあさひを怯えさせ、泣かせた。

こんな事がしたいんじゃ無い。

喜ばせたい、愛したい。幸せにしたい。俺の側で。

朔夜が居なくなり、蜜を吸われる関係になり、少しは変われるかと思ったが、執着心は高まり駄目だった。

そして、ライバルは朔夜だけだと思っていたが…

深澤 弾。
俺のコンプレックスをことごとく刺激する。
だらしなく見えるようで隙きがなく、人情味溢れ周りに慕われる余裕のある大人。
自分を大きく見せる虚勢も無い。
柳のような男だ。

あさひがアイツを選んだら…。

俺は、焦っていた。
その気持ちが、アイツから漂うあさひの気配を感じ、理不尽な怒りに変わった。

こんな事がしたかったわけじゃない。

朔夜のように優しく包み込みたい。

深澤のように、あさひを笑わせたい。


なぜ俺は、いつもこうなんだ。

愛してる。

おれの、大切なあさひ。

俺は、全てお前のものだ。

許してくれ。
そばに居たい。


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