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侵入者
しおりを挟む屋敷に帰り着くと、煌一の部屋に運ばれた。
僕の部屋の隣にあるけれど、お互いの部屋が広すぎて、凄く近いという気がしない。
部屋と言っても、他にも沢山それぞれの用途の部屋があるから、とくに煌一にとっては寝るだけの部屋だろう。
机の椅子の上にそっと下ろされる。
あぁ…久々に中を見たなぁ。つい目がキョロキョロと動いてしまう。
子供のころは此処で一緒に寝たり、勉強を教えて貰ったり、将棋をしたり、沢山遊んだんだけど・・。
「ちょっと待っていろ。」
煌一が部屋から出て行った。
歩き回った足の小指と、踵に血が滲んでいる。
普段殆ど歩かないから・・・。情けない。
それにしても・・煌一の部屋変わったなぁ。
部屋はすっかり大人の部屋になっている。
難しい本がずらりとならんでいて、本棚の中には和国の言葉じゃ無いものも多い。
机には何かの書類が積まれている。
ただ、懐かしい物も発見した。
あれは、確か・・・僕があげた押し花で作った絵。
煌一の誕生日にあげたものだ。
まだ持っていてくれたんだ。
なんだか、嬉しい。
いつも無愛想で怒ってばっかりいるけれど、実は優しい子供の頃と同じなのかも。
心がほっこりして和んでいると、僕の方の部屋から物音がした。
どうしてだろう。
煌一はきっと薬箱をとりに行ったと思う。
僕の部屋には行かないだろう。
じゃあ誰が?
もう夕方なのに今更、掃除のために誰かが来るとも思えない。
不思議に思っていると、突然、二つの部屋をつなげる襖が開いた。
「っひゃ!!」
知らない男だった。
一族の華なら顔を知っている。
うちの屋敷の使用人は身元もハッキリしている、長く仕えるものだから、殆ど顔見知りだが…この男は見たことが無い。
男は目が血走って、怖い顔をしている。
土足で、ずかずか歩いている所を見ると、迷っている客人でもない。
「……」
恐怖と驚きで声も出ない。
男のこげ茶色の髪は短くかられ、どんぐり色の着物は汚れてはいないが、くたびれている。
ただ、ハッキリとした顔立ちと、たくましい体つき…おそらく【華】だ。
一族以外の【華】をはじめてみた。
「…はぁ……はぁ……お前、蝶だな…」
獲物を見るような目で見られて、体中が震えはじめる。
怖くて、怖くて、助けを呼びたいのに、声が出ない。
逃げ出せば良いのだろうけれど、動けない。
「…こ…こないで……」
かろうじて出た声は、とても小さかった。
どうしよう、怖いよ。
「やっと見つけた!!」
男が此方に入ってきて、僕に近づいてくる。
逃げないと!
早く!!
でも、動けない。
「…こ……ち……こう…いち」
男が僕の目の前まで来て、大きな腕を伸ばしてきた。
僕は恐怖で目をつぶり、頭を抱え込んだ。
「ぐあぁあ!!」
男の叫ぶ声と、本が崩れるような音がして、恐る恐る目を開けた。
僕を背にして立つ煌一と、投げ飛ばされて本棚に倒れ込んでいる男が見えた。
「…っ煌一!!」
足が痛かったのもわすれ、立ち上がって、その大きな背中にしがみつく。
良かった。もう安心だ。
「貴様!華だな…見たことがある……」
「っくそ!」
また、こっちに来るかと思って煌一の着物を握って身構えたけれど、男は大人しくなった。
華はお互いの力量が分かると言うけれど……諦めたのかな?
「お前…富士の華蝶一族の者だな……なぜ他の一族の屋敷に忍び込んだ」
自分の上に積もった本を落とし、男があぐらをかいて座り直した。
どうやら逃げるつもりも無いみたい。
「……蝶を探してたんだよ。もうウチの一族には居ないからな」
「最後の一人がいたはずだかどうした……」
煌一が男に尋ねる。
男は苦笑いを浮かべ答えた。
「殺されたよ。有り体にいえば、組織内の痴話喧嘩さ。何人もの華がいるんだぜ」
「……そんな」
恐ろしい話に、煌一に抱きつく腕が震える。
煌一が、僕の腕を外して、胸に抱き込んだ。
「わかんねぇけど、なんか変になっていったんだ……数人の華が、凶暴になって……吸って貰えないから苛ついてんのかと思ったけどよぉ、なんか目が変だった。 それで、そのうちソイツらが、もっとヤバくなって、最後の蝶が殺されちまった」
「華が蝶を殺す……あり得ない」
確かに、煌一も怒ったりはするけど、一度だって暴力を振るわれた事はない。
他の華も、みんな優しい。
殺されるなんて聞いたことが無い。華同士の争いならよくあることらしいけど。
「俺だって理解できねぇよ。ただ、そうなった奴ら以外でソイツらをやって…蝶の居なくなった俺たち一族はお終い。他の一族に蝶を譲る所なんてねぇ……俺たちは解散だぜ」
男がうなだれて自嘲気味に笑った。
煌一も僕も言葉が無い。
「しばらくは、普通に生きてたぜ、人間は俺たちを歓迎するし、別に食うに困るわけでもねぇ……ただよ……あんたも華なら分かるだろ、駄目なんだよ、蝶がいねぇと……俺たちの本能だ…」
男の目からポロポロ涙が流れた。
僕は蝶だから、華の気持ちは分からない。
華はとても優秀で、強くて、一人で生きていけるのではないかと感じてしまう。
蝶なんてただのお荷物なのでは?
いつもそう思っていた。
人間に必要とされているのも華だけだし。
「本能ねぇ……」
煌一が開けっぱなしにした襖から、突然伊織さんが現れた。
「伊織さん、危ないです!」
もし、この男が伊織さんに襲いかかったらと心配になって、彼のところへ行こうと思ったけれど、煌一の腕の中から出られなかった。
「大丈夫だよ、あさひ。この華、まだちゃんと華として機能してるみたいだから……」
「えっ?」
伊織さんが男に近づいていく。
男が呆然と伊織さんを見上げている。
その目が喜んでいるように見える。
「良い、あさひ。華に殺されるなんて馬鹿な蝶の話だよ。蝶なら、たとえどんな状況でも、上手く華を使わないと。ほら、吸ってほしいんでしょ、出しなよ」
伊織さんが男の前に立ち命令をした。
「おい、伊織。他でやれ」
煌一が僕の目を塞ぐように腕を回した。
「煌一。蝶のやることに文句いわないで。あさひにも教えてあげないと、華の調教の仕方をね」
「……くそが」
「ははは」
男が正座をして、着物をはだけさせて左の肩を出した。
鎖骨の下の痕からは、すでに蜜がしたたっている。
「……」
煌一と朔夜兄さんのときは美味しそうに思えたけど……今はそう思えない。
なぜなんだろう……やっぱり知らない人だからかな?
「何年吸われてないの?私、まずいのは口にしないんだ。それに自分の華以外の汚いのは嫌いなんだ。出さないでね」
伊織さんが正座をしている男の股間の上にドスッと足を置いてジロジロと痕を眺めた。
「ぐぁっ!」
男はうめき声を上げながらも、大人しくしている。
痕からはトロリと蜜がこぼれている。
「新鮮じゃないのを絞ってからにしよう……あさひ、まずい蜜は絞ってから飲むんだよ」
足をグリグリと動かしながら、僕に微笑む伊織さんの笑顔は、怖いくらいに妖艶だった。
絞るって??
それに、足そんなことしたら、そのひと痛いんじゃ??
恐る恐る男の顔をみると、彼は、一心に伊織さんを見つめている。
伊織さんの手が男の痕に伸びて、爪を立てるように三本の指でつまんだ。
「があぁあ!!……うぅ……あ…」
伊織さんの爪が男の痕に食い込んでいる。
男は自分の膝の上で拳を握って耐えていた。
蜜がとろとろと流れ出る。
伊織さんが、離してはつまんでを繰り返す。
「あぁ!!ぐっあ……がっ……あああ……」
「あさひ、ねぇ、そろそろ良いかなぁ?」
煮物の味でもきかれるくらい普通に尋ねられて、僕の心臓が跳ねた。
男の人の視線も僕に向かって怖い。
「そんな……僕……分かんない」
「お前の趣味に付き合わせるな。もう良いだろう」
煌一が僕を連れてこの場を後にしようとする。
「駄目だよ。私は、あさひに見て貰いたいんだからね。ね、あさひ、私を侵入者と二人っきりになんてしないよね」
「……はい」
僕は煌一に促されて歩こうとした足を止めた。
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