我が為に生きるもの

いんげん

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楽しいおでかけ

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「うわぁ。凄い!」

僕は久々に調子が良くて、煌一と外に出ることが出来た。
たぶんこんなに調子が良いのは、連日、煌一と、朔夜兄さんの蜜を飲んだからだろう。
朔夜兄さんは他の華蝶一族との会議に出かけてしまった。

「煌一! 凄いよ! 路面電車だ!」
いつもは自動車に乗せられてレッスンにいくだけだから、とても新鮮だ。
まさか煌一と、街をブラブラ散歩できるとは思わなかった。
「知ってる。皆藤が出資したからな」
「えっそうなの??凄いね」

煌一が面倒臭そうに僕についてくる。
今日はスーツじゃなくて、着物姿だ。

薄着だけど寒く無いのかな?

僕はしっかり洋装に外套まで着せられている。

「わぁ。あれが深草の十三階?大きいね」
「俺は入りたくないからな」
「どうして? 高いところ怖いの?」
僕がにやにやして聞くと、鼻で笑わてしまった。

「自分の会社が作っていないものは信じない」
「えぇーそれじゃあ何にもできないよ?」

煌一の会社って‥‥。
何だっけ?具体的に‥何?

【灰】をやっつける会社?

「言っておくが俺は灰を始末する仕事はして無いからな。 もっと新聞読め、世間知らず」
馬鹿にされているんだろうけど楽しくて笑ってしまう。

こんなに普通に街を歩いて、煌一とも普通に会話ができて嬉しい。
「何笑ってるんだ、気持ち悪い」
「だって楽しいから」

ふと目をやると、子供が紙飛行機を飛ばしている。
懐かしい。

「ねぇ、見て煌一。紙飛行機だよ、懐かしいね!」
煌一の腕を引っ張り、子供へ向ける。
かわいいな。

「小さい頃、煌一が屋敷の屋根の上から飛ばしてくれたでしょう? あれ凄く飛んだよね! 凄く楽しかった!」

ひょいひょいと屋根に登り、自作の紙飛行機を飛ばした煌一。
紙飛行機は風にのって遠くまで飛んでいった。

開放感と楽しい思い出で、僕の顔は、緩みきっている。

「その後、俺の真似をして一人で屋根に登ろうとして落ちたのは誰だ」
「う‥‥」
「朔夜に助けられなかったら、どうなってたんだ、馬鹿」
でも、それも楽しかった。
あぁ、なんで忘れてたんだろう、最近は上手に会話できてなかったけど、楽しい思い出がいっぱいあった。


ふと目に入った、壊れたお家。
片付けをする人々が忙しそうに動いている。

「何があったんだろう…」
「‥‥行くぞ」
近づいてみようとした腕を引かれた。
何だろう?

すると、近くにいた警備兵がこちらに気がついてやってきた。
僕は、すっと煌一の背に隠された。

警備兵が煌一に向って敬礼をする。

「皆藤様。先日は有り難うございました!」
「あぁ。」
警備兵の目はキラキラと光り、煌一に羨望の眼差しを向けている。

そうだよね。
【華】はいつだって人間の憧れだ。

「皆藤様のおかげで、みな命拾いをしました。」

あぁ、あの家は【灰】にやられたのか。

屋敷に住んで【華】に守られていると灰の被害は身近じゃないけど、人間を食べるんだよね‥‥。

改めて恐ろしい‥‥。

「そちらは‥。」
警備兵が僕の方へ目を向けた。

「俺の【蝶】だ。いいからさっさと行け」
「はい。失礼します!」
彼は駆け足で戻っていった。

俺の蝶‥‥。
何だろう一瞬ドキッとした。

そういえば、落ち着いて周りを見てみると、周囲の人がチラチラと煌一に視線を送っている。
そうだよね。
煌一はとても目立つ。
人々より大きな背丈と、均衡の取れた逞しい肉体。美しく精悍な外見。
何よりも支配者のような圧倒的な存在感がある。
皆がうっとりと煌一を見ている。

「凄いね。煌一は。 皆の役に立つものを作って、人の命を助けて、街を守って‥‥格好いいね。 僕もそんな風になりたいなぁ」
煌一が驚いた顔で僕を見ている。

僕、そんなにおかしな事を言ったかなぁ?

「‥‥行くぞ。灰の荒らした痕に近づいたらまた倒れるぞ」
煌一の大きな手で、僕の手が引かれていく。
昔はいつもこうやって手を引かれて歩いてたっけ。
「うん」


暫く歩き回っていると、段々足が痛くなってきた。
情けない、子供だってもっと歩けるだろう。

「‥‥おい」
「えっ?」
煌一が僕の前にしゃがんでいる。
何だろう。

「お前の足じゃいつまで経っても屋敷に帰れない。さっさと乗れ」
背負って帰るってこと?

「でも‥‥」
「さっさとしろ。俺の時間を、これ以上無駄にするな」
怒られて、急いで煌一の背中に乗った。

広くて大きな背中は、ひょろひょろな僕とは大違いで、その違いを感じる。

「ごめん、煌一」
「‥‥」
僕にもっと体力があったら、まだ楽しく歩いていられたのに‥。
残念。

「煌一、また来ようね‥」
「‥‥だったらもっと食って、丈夫になれよ」
「‥‥うん。」

蜜を吸うのは今だに馴れない。
でも、毎日のように寝込んでいるより、今日はとっても楽しかった。

いい加減、【蝶】として生きることにも馴れないとだめなのかな‥‥。

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