我が為に生きるもの

いんげん

文字の大きさ
上 下
6 / 34

楽しいおでかけ

しおりを挟む

「うわぁ。凄い!」

僕は久々に調子が良くて、煌一と外に出ることが出来た。
たぶんこんなに調子が良いのは、連日、煌一と、朔夜兄さんの蜜を飲んだからだろう。
朔夜兄さんは他の華蝶一族との会議に出かけてしまった。

「煌一! 凄いよ! 路面電車だ!」
いつもは自動車に乗せられてレッスンにいくだけだから、とても新鮮だ。
まさか煌一と、街をブラブラ散歩できるとは思わなかった。
「知ってる。皆藤が出資したからな」
「えっそうなの??凄いね」

煌一が面倒臭そうに僕についてくる。
今日はスーツじゃなくて、着物姿だ。

薄着だけど寒く無いのかな?

僕はしっかり洋装に外套まで着せられている。

「わぁ。あれが深草の十三階?大きいね」
「俺は入りたくないからな」
「どうして? 高いところ怖いの?」
僕がにやにやして聞くと、鼻で笑わてしまった。

「自分の会社が作っていないものは信じない」
「えぇーそれじゃあ何にもできないよ?」

煌一の会社って‥‥。
何だっけ?具体的に‥何?

【灰】をやっつける会社?

「言っておくが俺は灰を始末する仕事はして無いからな。 もっと新聞読め、世間知らず」
馬鹿にされているんだろうけど楽しくて笑ってしまう。

こんなに普通に街を歩いて、煌一とも普通に会話ができて嬉しい。
「何笑ってるんだ、気持ち悪い」
「だって楽しいから」

ふと目をやると、子供が紙飛行機を飛ばしている。
懐かしい。

「ねぇ、見て煌一。紙飛行機だよ、懐かしいね!」
煌一の腕を引っ張り、子供へ向ける。
かわいいな。

「小さい頃、煌一が屋敷の屋根の上から飛ばしてくれたでしょう? あれ凄く飛んだよね! 凄く楽しかった!」

ひょいひょいと屋根に登り、自作の紙飛行機を飛ばした煌一。
紙飛行機は風にのって遠くまで飛んでいった。

開放感と楽しい思い出で、僕の顔は、緩みきっている。

「その後、俺の真似をして一人で屋根に登ろうとして落ちたのは誰だ」
「う‥‥」
「朔夜に助けられなかったら、どうなってたんだ、馬鹿」
でも、それも楽しかった。
あぁ、なんで忘れてたんだろう、最近は上手に会話できてなかったけど、楽しい思い出がいっぱいあった。


ふと目に入った、壊れたお家。
片付けをする人々が忙しそうに動いている。

「何があったんだろう…」
「‥‥行くぞ」
近づいてみようとした腕を引かれた。
何だろう?

すると、近くにいた警備兵がこちらに気がついてやってきた。
僕は、すっと煌一の背に隠された。

警備兵が煌一に向って敬礼をする。

「皆藤様。先日は有り難うございました!」
「あぁ。」
警備兵の目はキラキラと光り、煌一に羨望の眼差しを向けている。

そうだよね。
【華】はいつだって人間の憧れだ。

「皆藤様のおかげで、みな命拾いをしました。」

あぁ、あの家は【灰】にやられたのか。

屋敷に住んで【華】に守られていると灰の被害は身近じゃないけど、人間を食べるんだよね‥‥。

改めて恐ろしい‥‥。

「そちらは‥。」
警備兵が僕の方へ目を向けた。

「俺の【蝶】だ。いいからさっさと行け」
「はい。失礼します!」
彼は駆け足で戻っていった。

俺の蝶‥‥。
何だろう一瞬ドキッとした。

そういえば、落ち着いて周りを見てみると、周囲の人がチラチラと煌一に視線を送っている。
そうだよね。
煌一はとても目立つ。
人々より大きな背丈と、均衡の取れた逞しい肉体。美しく精悍な外見。
何よりも支配者のような圧倒的な存在感がある。
皆がうっとりと煌一を見ている。

「凄いね。煌一は。 皆の役に立つものを作って、人の命を助けて、街を守って‥‥格好いいね。 僕もそんな風になりたいなぁ」
煌一が驚いた顔で僕を見ている。

僕、そんなにおかしな事を言ったかなぁ?

「‥‥行くぞ。灰の荒らした痕に近づいたらまた倒れるぞ」
煌一の大きな手で、僕の手が引かれていく。
昔はいつもこうやって手を引かれて歩いてたっけ。
「うん」


暫く歩き回っていると、段々足が痛くなってきた。
情けない、子供だってもっと歩けるだろう。

「‥‥おい」
「えっ?」
煌一が僕の前にしゃがんでいる。
何だろう。

「お前の足じゃいつまで経っても屋敷に帰れない。さっさと乗れ」
背負って帰るってこと?

「でも‥‥」
「さっさとしろ。俺の時間を、これ以上無駄にするな」
怒られて、急いで煌一の背中に乗った。

広くて大きな背中は、ひょろひょろな僕とは大違いで、その違いを感じる。

「ごめん、煌一」
「‥‥」
僕にもっと体力があったら、まだ楽しく歩いていられたのに‥。
残念。

「煌一、また来ようね‥」
「‥‥だったらもっと食って、丈夫になれよ」
「‥‥うん。」

蜜を吸うのは今だに馴れない。
でも、毎日のように寝込んでいるより、今日はとっても楽しかった。

いい加減、【蝶】として生きることにも馴れないとだめなのかな‥‥。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。 転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。 朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。 生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。 どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。 忙しい大人の甘いオフィスラブ。 フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...