我が為に生きるもの

いんげん

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はじまり

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「おい、起きろ」

雨粒が浮かんでいるように舞う夜。
月も星も隠れて、部屋の中は彼が持ち込んだカンテラがなければ、何も見えない。

横たえていた体をおこし、布団から這い出る。
寒い。体に震えが走った。
枕元にあぐらをかいて座った男は外套を脱ぎ捨て、着物の前を開いた。
外套の雨がきっと畳を濡らしただろう。

「……煌一。怪我は?」

「……さっさと吸え」

僕の質問は、やはり無視された。
いつも、煌一とはあまり上手に会話できない。
僕が彼を苛つかせて終わってしまう。

モタモタしてまた怒られないように、急いで彼の元に行く。

「あっ」

腕を引かれて、彼の逞しい体にもたれかかる。
着物が少ししっとり濡れている。
長時間外にいて戦っていたからだろう。
でも、彼の体はとても温かい。

はだけた着物から左の肩が覗き、鎖骨の下の、華のあざが露出する。

能力者の証だ。

普段は青いその痣が、今は血が滲み赤くなっている。

ゴクリと喉がなる。
空腹で目眩がしそう。

彼の痣に顔を寄せて、舌を出す。
痣から溢れた血は蜜のように甘い。

「……ん……あっ……」
必死にぴちゃぴちゃと蜜をなめる。
体に熱が戻ってきた。
なめても、なめても蜜は滲む。
今日は三日ぶりの食事だ。

もっと、もっと。
僕はなめるのをやめて、唇を寄せて直接吸い始めた。

「……ん……はっ……ん」
「……っく」

美味しい。甘くて美味しい。
僕が必死で吸っていると、煌一のものが立ち上がり、太ももに当たる。

「……ふっ……ん……はっ……」

僕は、空腹を満たすために、必死で痣を吸う。

煌一が着物をめくり自分の股間を出す。
左手で僕を抱え込みながら、右手で自身を慰める。
僕のものとは比べ物にならない大きさと太さに、毎回羨望の気持ちが湧く。

「……ん……はっ……ちゅっ……」
「……っ……くそっ」
煌一の性器がみるみる大きく膨らんで、濡れ始めた。

段々、痣から滲む蜜が少なくなってきた。大分お腹もいっぱいになった。
煌一の手の動きが加速する。
見ないように食事に集中する。
最後の蜜を吸い出す。

「……んっ」
「……っく…っ!」
痣から顔を離される。一滴、蜜が流れた。もったいない。

「綺麗になめろ」
煌一の濡れた手を差し出される。
僕には拒否権なんて無い。

おずおずと彼の手を取り、指をなめる。
痣からでる血は蜜のように甘いが、これは薄くなった蜜で、あまり好きじゃ無い。

「っは……ん……」
大きな硬い手のひらの上、彼の精液がカンテラの光でオレンジ色に煌めく。
それを舌で、掬いとり飲み込む。
やっぱり美味しくない‥。

煌一が着物をただして立ち上がる。
外套を腕にかけて、カンテラを持つ。

「煌一、僕、明日は先生の所に行ってもいい?」
襖に手をかけた煌一を呼び止める。
彼は眉間に皺を寄せて振り返った。

「‥‥また倒れて周りに迷惑をかけるつもりか?」
いつもより不機嫌な低い声。
やっぱり駄目かもしれない‥けど。

「でも…少しだけでも……」
「何度も言わせるな」

ピシャリと襖がしまった。

再び部屋に沈黙が訪れた。

体の中は食事で温まったけれど、もう秋の霜月だ。布団から出ていた体がぶるっと震えた。
逃げ込むように、布団に潜り込む。

あぁ、明日は先生の下でレッスンが受けられると思ったんだけど‥‥。

仕方ない、屋敷で大人しく、レコードを聞いてから、ピアノを弾こう。

僕は明日の予定を反芻しながら眠りについた。



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