月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

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不安

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朝、目が覚めると、隣にヴァジルが居ない。

急に胸が不安でいっぱいになった。

血が下がり、ドキドキと鼓動が止まらない。

冷や汗まで出て来た。

「っヴァジル!?  どこヴァジル!?」

頑張って起き上がると、ベットを抜け出す。

ここはどこ?

本当にトレノス??

僕は生きているの??

不安が波のように次々と押し寄せ支配される。

部屋の中央まで来て足が動かなくなって、しゃがみこんだ。

「…うぅ……っく……ひく…ふぇ……」

何故泣いているのかと、自分でも不思議だけど、涙が止まらない。

「うぇ……ひくっ……」



「こころっ! どうした!?何が!?」

ボロボロ涙を流していると、ガイウスが現れた。

「どこが痛い!? 苦しいのか!?」

ガイウスは走り寄って、僕の背に手を回し抱き上げた。そしてベットに運ぶと壊れ物のように、そっと寝かせてくれた。

「待ってろ!今、医者を読んでくる。」

離れようとするガイウスの腕を必死に掴んだ。手がブルブルの震えている。

「やだぁ、行かないで!! ……ひっく……一緒にいてっ……。こわい!!」

「こころっ」

自分でも何でこんなに泣いているのかと疑問なんだけど、不安に支配されている。

「そうか、大丈夫だ。何処にも行かない。 こころは色んな事があって、ちょっと混乱しているだけだ、大丈夫だ」

頭を撫でられて、大丈夫と語りかけられ硬くなった体から、力がぬける。

「ほら、落ち着いて来ただろう。 俺も此処にいるし、ヴァジルだって仕事が終われば帰ってくる。安心しろ」

右頬に傷が走る厳つい顔で、僕を慰めようと微笑むガイウスに胸が締め付けられる。

人の優しさに触れて、今度は安心して、涙が止まらない。

いい大人なのに、恥ずかしい……。

カッコ悪い。



暫く、頭をポンポンされて、やっと涙が止まった。



「ごめんね、ガイウス。迷惑かけて」

「いいや。迷惑なんて思わない、こころが生きていてくれて、目覚めて良かった。 それだけで嬉しい」

きっとガイウスにも、いっぱい心配かけたよね。

「本当に、良かった」

ガイウスの赤い瞳に、薄っすらと涙が浮かんでいる。

「ガイウス、心配かけてごめんね」

ベットに横になったままペコリと謝る。

「まったくお前は、いつも唐突で規格外だからな。 これからは、もっと大人しくしていろよ。周りの心臓がもたない」

「ははは」









ガイウスと雑談していると、来客があった。



まさかのマーロウだった。

「お前、何しに来やがった」

ガイウスが、しっしっと追い払う真似をする。

「ご主人様のつれない態度も、喜びです」

そう言われて、ガイウスが押し黙る。





マーロウは、国王に盛った睡眠薬が効かなくてごめんと謝りたかったくて来たらしい。

深々と土下座をされた。



「マーロウ、謝らないで、セドリックが助けてくれたから、大丈夫だよ」

まだ思うように、動けないからマーロウに近寄れない。



「しかし、あのクソ豚、相当強い薬にしたのに!!こころ様の色気を前に発情期が来たとしか思えません!!」

怒りをあらわに立ち上がる。

ガイウスが近寄るなと言う。

「それよりも、マーロウはビザンの貴族なのにどうして此処に居るの?」

立派な……あの怪しいお屋敷は良いのかな?

「それですよ!こころ様!! 私は、こころ様とご主人様の性の奴隷なので当然ついてきます!! なのに、どうゆうことです!」

マーロウがガイウスを押し退け、ベットサイドに駆け寄る。

ずれた丸メガネを直し、布団を叩く。

「えっ??」

「こころ様はご主人様の恋人ではないのですか!? 陛下のものなのですか!!」

あぁ、そっかビザンではガイウスと恋人設定だったのか。

ガイウスが頬の傷をポリポリ掻いている。

ガイウスに失礼だから誤解を解かないと!



「ガイウスとは、ライバルなんだよ。本当は」

「あぁ、そうでしょうね、こころ様を巡って、ご主人様と陛下の恋の戦いがあるのでしょうね」

マーロウが変な想像をしているのか、視線がどこかへいってしまっている。

「お前なぁ、俺達は別にそんなんじゃねぇよ」

ガイウスがマーロウの足を蹴飛ばす。



「そうだよ! 僕とガイウスが、ヴァジルの恋人の座を巡るライバルなの」

あれ?マーロウが止まった。

突然、メガネをフキフキし始めた。

ガイウスは時がとまっている。



「僕はガイウスみたいに立派で逞しいカッコいい男じゃ無いけど、ヴァジルの彼氏として、相応しくなれるように頑張る!!」

「カッコいい……俺が……」

ガイウスが何事かつぶやいている。

メガネをつけ直したマーロウが、花が咲いたように満面の笑みになった。



「なんて素晴らしく面白い展開! この奴隷、感動いたしました!!」

「あっ……ありがとう……」

手を取られ、ブンブン振られて腰が引ける。

「いや、おいちょっと待て! 色々間違っているぞ!」

ガイウスを無視したマーロウがベットに腰掛けて、僕に耳打ちをしてきた。

「この奴隷におまかせ下さい。 きっちりサポート致します」

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