48 / 53
不安
しおりを挟む朝、目が覚めると、隣にヴァジルが居ない。
急に胸が不安でいっぱいになった。
血が下がり、ドキドキと鼓動が止まらない。
冷や汗まで出て来た。
「っヴァジル!? どこヴァジル!?」
頑張って起き上がると、ベットを抜け出す。
ここはどこ?
本当にトレノス??
僕は生きているの??
不安が波のように次々と押し寄せ支配される。
部屋の中央まで来て足が動かなくなって、しゃがみこんだ。
「…うぅ……っく……ひく…ふぇ……」
何故泣いているのかと、自分でも不思議だけど、涙が止まらない。
「うぇ……ひくっ……」
「こころっ! どうした!?何が!?」
ボロボロ涙を流していると、ガイウスが現れた。
「どこが痛い!? 苦しいのか!?」
ガイウスは走り寄って、僕の背に手を回し抱き上げた。そしてベットに運ぶと壊れ物のように、そっと寝かせてくれた。
「待ってろ!今、医者を読んでくる。」
離れようとするガイウスの腕を必死に掴んだ。手がブルブルの震えている。
「やだぁ、行かないで!! ……ひっく……一緒にいてっ……。こわい!!」
「こころっ」
自分でも何でこんなに泣いているのかと疑問なんだけど、不安に支配されている。
「そうか、大丈夫だ。何処にも行かない。 こころは色んな事があって、ちょっと混乱しているだけだ、大丈夫だ」
頭を撫でられて、大丈夫と語りかけられ硬くなった体から、力がぬける。
「ほら、落ち着いて来ただろう。 俺も此処にいるし、ヴァジルだって仕事が終われば帰ってくる。安心しろ」
右頬に傷が走る厳つい顔で、僕を慰めようと微笑むガイウスに胸が締め付けられる。
人の優しさに触れて、今度は安心して、涙が止まらない。
いい大人なのに、恥ずかしい……。
カッコ悪い。
暫く、頭をポンポンされて、やっと涙が止まった。
「ごめんね、ガイウス。迷惑かけて」
「いいや。迷惑なんて思わない、こころが生きていてくれて、目覚めて良かった。 それだけで嬉しい」
きっとガイウスにも、いっぱい心配かけたよね。
「本当に、良かった」
ガイウスの赤い瞳に、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「ガイウス、心配かけてごめんね」
ベットに横になったままペコリと謝る。
「まったくお前は、いつも唐突で規格外だからな。 これからは、もっと大人しくしていろよ。周りの心臓がもたない」
「ははは」
ガイウスと雑談していると、来客があった。
まさかのマーロウだった。
「お前、何しに来やがった」
ガイウスが、しっしっと追い払う真似をする。
「ご主人様のつれない態度も、喜びです」
そう言われて、ガイウスが押し黙る。
マーロウは、国王に盛った睡眠薬が効かなくてごめんと謝りたかったくて来たらしい。
深々と土下座をされた。
「マーロウ、謝らないで、セドリックが助けてくれたから、大丈夫だよ」
まだ思うように、動けないからマーロウに近寄れない。
「しかし、あのクソ豚、相当強い薬にしたのに!!こころ様の色気を前に発情期が来たとしか思えません!!」
怒りをあらわに立ち上がる。
ガイウスが近寄るなと言う。
「それよりも、マーロウはビザンの貴族なのにどうして此処に居るの?」
立派な……あの怪しいお屋敷は良いのかな?
「それですよ!こころ様!! 私は、こころ様とご主人様の性の奴隷なので当然ついてきます!! なのに、どうゆうことです!」
マーロウがガイウスを押し退け、ベットサイドに駆け寄る。
ずれた丸メガネを直し、布団を叩く。
「えっ??」
「こころ様はご主人様の恋人ではないのですか!? 陛下のものなのですか!!」
あぁ、そっかビザンではガイウスと恋人設定だったのか。
ガイウスが頬の傷をポリポリ掻いている。
ガイウスに失礼だから誤解を解かないと!
「ガイウスとは、ライバルなんだよ。本当は」
「あぁ、そうでしょうね、こころ様を巡って、ご主人様と陛下の恋の戦いがあるのでしょうね」
マーロウが変な想像をしているのか、視線がどこかへいってしまっている。
「お前なぁ、俺達は別にそんなんじゃねぇよ」
ガイウスがマーロウの足を蹴飛ばす。
「そうだよ! 僕とガイウスが、ヴァジルの恋人の座を巡るライバルなの」
あれ?マーロウが止まった。
突然、メガネをフキフキし始めた。
ガイウスは時がとまっている。
「僕はガイウスみたいに立派で逞しいカッコいい男じゃ無いけど、ヴァジルの彼氏として、相応しくなれるように頑張る!!」
「カッコいい……俺が……」
ガイウスが何事かつぶやいている。
メガネをつけ直したマーロウが、花が咲いたように満面の笑みになった。
「なんて素晴らしく面白い展開! この奴隷、感動いたしました!!」
「あっ……ありがとう……」
手を取られ、ブンブン振られて腰が引ける。
「いや、おいちょっと待て! 色々間違っているぞ!」
ガイウスを無視したマーロウがベットに腰掛けて、僕に耳打ちをしてきた。
「この奴隷におまかせ下さい。 きっちりサポート致します」
12
お気に入りに追加
320
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる
すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。
かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。
2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる