月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

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新しい仕事

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頑張って起きていようとしてたのに、いつの間にか寝ていた。

ベットサイドの椅子にセドリックが座っている。

「おはようございます。こころ様」

朝からとても爽やかだ。

「ごめんなさい!寝てないですよね!?僕だけ……」

こんな状況でよくグーグー寝れたな、僕!

「鍛えてますから、3日くらい寝ずに戦えます」

キラっと笑顔でとんでもない事を言う。

この世界は、体の大きさも体力も全然違うの!?



「もう兵が広場に集まっているようです。私の信頼のおける部下からの連絡ですが、マーロウ殿から連絡があり、貴方には私と、事が済むまで、此処で待機するようにと」

マーロウ、ごめん。

突然消えて、迷惑かけたよね。

あの場をどうやって収めたのだろうか。

「これからクーデターが起こるそうですね。部下達には出来るだけ城から退避しろと言いましたが、きっと……」

セドリックが悲しそうで、悔しそうで…堪らない。

きっと皆の所に行きたいのだろうけど、僕がいるから行けないのだろう。

「聖霊がいるから大丈夫と国王が言ってたけど、僕が居なくなっても戦争するのですか?」

「自分の元に降臨した聖霊が、トレノスにさらわれた、救い出すという筋書きのようです」

「そんな!!」

僕もこの戦争の一端になってしまっている。

どうして……。



このまま、国王が開戦したら、また砦の時のように人々が殺し合うのだろうか。

あの時のように、斬り合い、皆が血を流す。



皆に家族がいて、恐らく兵士は戦いたくないと思ってるのに??



「どうして、皆戦いたく無いのに、戦わないといけないの!?王様や貴族よりもずっと多くて強いのに、どうして!!なんで言うことを聞かなきゃいけないのの!」

皆が嫌だとストライキをしたらだめなの?

嫌だといった人を攻撃する人も、いなければ、それでいいのでは?

こんな考えが、戦争を知らない甘ちゃんなんだなきっと……。



「自分達でも不思議です。トレノスが現れて目が覚めました。なぜあの国王に従えていたのか……。国王一人を殺せばいいという簡単なことではありませんが……」

セドリックが拳を握る。

「我々は、閉ざされた国に暮らし、従うことに慣れすぎたのかもしれません」

「……セドリック……」

「誰かに従っていることで安心していたのでしょうか……他の不都合なことから目をそらせます」

そんなこと無いと思う。

とくに、セドリックは僕を助けてくれた。

今までだってきっと、色んな人を助けてる。

でも、人々の気持ちは分かる。 

世間に不満があっても、何か間違っていると感じても、僕だって何もしてこなかった。

僕は、普通の人間で。特別な人では無いから。



でも、特別だからヴァジルやガイウスや、セドリックが皆と違うことが出来るの?



彼らが苦労をしてないわけじゃない。

恐怖を感じない訳でもない。



僕は、特別な人間じゃ無いから、何もできない。

そんな言い訳が、丁度良い。

心地良い場所だった。







「なにか、大きな力が自分たちを救ってくれるような……そんな期待をあなたのような聖霊さまに求めてしまうのでしょうね」

セドリックが僕に近づき、頬に手を当てる。

「実際のあなたは、こんなにも華奢で儚いのに……馬鹿なことです」



僕は、ぬるい心地よい場所に居る人間だけど



きっと皆がそこから出て行けば、僕だって動く。



みんなで抜け出せば、恐ろしくて寒い場所だって進んでいける。



誰かの一声があれば。



「……聖霊が言ったことなら従えるの?」



「こころ様?」



「僕は戦えないし政治的なことなんて分からない、でも……」





綺麗な格好して特別な顔してランウェイを歩ける。



まるで聖霊みたいに演技することはできる。



それだけで、皆が違う道を進めるなら……。



勇気を出せ。







仕事の時間。



新しいオファーが入ったんだ。









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