月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

文字の大きさ
上 下
37 / 53

祈り

しおりを挟む
ここは、いわゆる町中なのでは?

馬車の外には建物が沢山あっった。



中世のヨーロッパ的というか、ゲーム的な世界というか。

今は夜だから人はあまり見当たらないけれど、昼間になったら、そこそこ居るのかな?

この世界に来て初めての街かも!



テンションが上がり、勝手に馬車から降りようとする。



「こころ」

ガイウスが、僕に向かって腕を広げる。

これは……抱かれて行けってこと??



僕はガイウスの指示に従い近づくと、フードを再び直されて、その胸に抱かれる。

ガイウスの鍛えられた肉体にとって僕なんて子供程度なのか、軽々抱かれてアディが扉を開き、馬車から降りる。

「顔を出さないでくれ」

こくんと頷く。

クーデター?の為に隠密行動中なんだもんね。目立ったらダメなんだよね。



夜だから暗いし、フードで見えないから、大人しく抱かれている。

すると少し歩いて、大きめの建物へ入っていった。



「お待ちしてました。こちらへ」

「あぁ」

室内に入って、明かりがあるので、周りが少し見える。

マーロウのお屋敷ほどじゃないけど、結構大きなお家みたい。

僕は、そのまま一つの部屋に連れてこられ、フードと布がとられ、ソファに座らされた。



アディもフードをとって向かいに座る。

「こころ、俺は部下と少し話がある。ここに居てくれ」

「うん」

ガイウスは一休みする暇も無く部屋を出て行った。



「こころ、此処は、トレノスが所持してる家らしいよ。凄いよね」

「そうなんだぁ……」

部屋をキョロキョロ見回す。

ヴァジルの寝室や、マーロウの屋敷よりは簡素な部屋だけど、日本の住宅からしたら、凄く広くて豪勢だ。

テーブルを挟んで、3人掛けくらいのソファが2つ。

調度品と、暖炉、鏡などが配置されてる。

奥にはドアがあり、もう一部屋ありそうだ。

「アディ、ここはビザンの大きい街?」

「王都だよ、もっと進むとお城があるよ」

「へぇー。凄いね。でも、人の多い所に来て良いの?」

「危険もあるけど、マーロウの方の部隊も動きが大きくなってきたから、あそこも安全とは言えないからね」

本当に映画やゲームのようなストーリーが進んでいるんだな。

それって、いま近くに居る人に明日突然なにか起きても不思議じゃない。



お話ではキャラクターの死はストーリーの盛り上がりだけど、現実では違う。

ガイウスやヴァジルやアディが死んじゃ嫌だ。



「これから、皆何をするの?」

やっぱり知っておきたい。

「今は交渉と準備ばっかりかな。できるだけ賛同者を増やして、ひっくり返しやすくしてる」

「ひっくり返す?」

「王政を」

今は、この世界の教科書に載るような事態なんだな。本当に皆が心配だよ。



「ちなみに、僕にできる事はある?」

「こころは、軍人でも無いし、貴族でも無いし、まぁそもそも人間じゃ無いじゃん。それぞれの使命ってあるでしょ。無理して血なまぐさい事に首突っ込んじゃだめだよ」

アディが自分でいれて、お茶を飲んでる。

「こころのダーリンは本当に最高だよ。非の打ち所がない。あの人も実は人間じゃないんじゃない?」

確かに、ガイウスは人間離れしている。

ヒーローみたいだ。

「でも、きっと人間だから、そばにいて無事を祈ってあげれば?」

「祈りって効くのかなぁ……」

非科学的な事は、信じて無かったけど、今がファンタジーだから、もしかしたら?

「そりゃ、こころの祈りなら格別でしょう!思ってもらえるだけで嬉しいよ」

手を合わせ、指をくんで祈りのポーズをして微笑むアディ。

そうかなぁ?

でもやってみようかな。

「……僕やってみる」





そして、アディが退出してから、早速考えてみた。

日本の神仏のお作法も詳しくないけど、ここはどうなんだろう。

やっぱり祈る場所とかあるのかな?



そういえば、神殿があって神官が居るって言ってたな。

ビザンにもあるのかな。

まぁ今は行けないだろうけど。



仕方ない、夜空の星や月にいのろう。

カーテンを開けると、ランプに照らされ室内が、もう少し明るくなる。

窓の外は小さいバルコニーになっている。

この世界は建物も大きいから、おそらく2階なのに、かなり高く感じる。

大きな窓を開けると、ヒヤッとする空気がなだれ込む。

「あっ」

せっかく温めている部屋が冷えてしまう。

僕は、慌てて外に出て窓を閉める。

シャツにズボンなので、ヒヤッっとする。

冬に夏服の撮影が常のモデルなので、ちょっとくらい我慢できる。



白い腰より少し上ぐらいの柵に近づく。

見上げてみると、星が綺麗に輝いている。

「わあぁ、綺麗」

無数の星とお月さま。

地球じゃないけど、この世界にもある、それが嬉しい。

月をみあげて手を合わせ、指を組む。



どうか、ヴァジルやガイウスや皆が無事でいられますように。

戦争になったりしませんように。





「何をそんなに祈っているのですか」



ふいに下から声をかけられて、驚いて目を開けた。

下には道に、ランプを持つ従者と、その後ろを歩く鎧にマントの青年が居た。

「っ!?」

まずい人に見つかっちゃった!

慌てて室内に逃げこもうとする。

「待って下さい!怪しいものではありません。逃げないで」

どうしよう‥もう当たり障りなく会話したほうがいいかな?

「あまりに熱心に祈る姿が美しく、まるで聖霊のようだったので、つい邪魔をしてしまいました。お許しください」

「……」

ランプの光はあるけれど、建物の影でよく見えない。

ここは月や星の光で見えてしまっていそうだ。

「私は、セドリックという騎士です。あなたに危害を加えたりしません」

騎士!?

まずい相手に見つかった?

それとも、仲間で、今ここに来てたりした?

「あなたは?」

「……」

とっさに良い偽名なんて考えつかないよ。

焦りと不安が高まる。

「そちらの屋敷の方ですか? 何か困りごとがあるなら……あっ!待って…」

色々詮索されたらまずい!

僕は、逃げ出して窓とカーテンを締めて、暖炉の前に座り込んだ。



どうしよう…どうしよう……。

凄い余計な事しちゃったかも!

どうしよう、僕のせいで、みんなに何かあったら!

どうしよう!



暖炉の前で1人後悔していると、ガイウスが戻ってきた。

「どうした、こころ。何があった?」

ガイウスが戻ってきただけで、ほっとする。

ガイウスに駆け寄り胸に縋る。

「ごめんなさい、ガイウス!」

ガイウスが驚いている。

「僕、僕! ガイウスやみんなの無事を祈りたくて! そこに出ちゃった!」

バルコニーを指差す。

「あぁ、ありがとう、こころ」

ガイウスが優しく微笑む。

罪悪感が高まる。

「そしたらっ、誰かに話しかけられちゃって!!ごめんなさい!」

「大丈夫だ。泣くな。どんなやつだった?」

ガイウスが僕の頭を撫でる。

「えっと!従者っぽい人と、騎士の人」

「あぁ」

名前はええっと。

「セドリックさん?って名乗ってた。 僕は何にも喋ら無かったけど‥‥どうしよう!僕のせいで、皆が危険になったら!ごめんなさい!」

ガイウスが僕を抱き上げた。

そのまま椅子を持ってきて、暖炉の前に座らせてくれた。

ガイウスは、その前にしゃがむ。

「そんなに心配するな。大丈夫だ。 こころのおかげで順調なんだ」

僕の膝においた手に、ガイウスの手が重なる。

「出港した船は、すべてがビザンに向かっている風にのり導かれるように、もうすぐ港につく。雪山の麓も天候に恵まれ配置が終わり活動も良好だ。すべてが都合よく進み、怖いくらいだ。聖霊の力が働いているかもしれないな」



聖霊の力……。



聖霊は人間の為の駒。



この流れが人間の為の道だってこと?



僕の力は……。



話しておくべきだろうか…。



「……ガイウス、あのね……」

「あぁ。どうした?」



話したら……。

どうなる?



力を使う。



ガイウスなら、ヴァジルを助ける為に力を使う。

僕を殺して。



「…あのね……伝えておかなきゃいけない事があるの…」

「こころ、言いたくない事は、無理して言わなくていい」

僕は首を降る。

これは言っておくべき事だと思う



「……聖霊の力は……」



怖くて、口がカラカラに渇く。



「人間が使えるらしいんだ、一度だけ」

「……あぁ…」



「僕を殺せば、僕を…殺した人が…一度だけ僕の力が使える……癒やしの」

「こころっ!!」

ガイウスが僕の肩を掴む。

怖いぐらい真剣に見つめらてる。

「その話は絶対に、誰にもするな!!」

「……ガイウス?」

「わかったか!?」

「……でも!」

強く抱き締められる。

ガイウスは……どうして怒ってるの?

「絶対に、そんな力は使わせない!!」

「……うん」



そうだよね。

ヴァジルやガイウスの一大事にとっておかないといけないよね。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...