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祈り

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ここは、いわゆる町中なのでは?

馬車の外には建物が沢山あっった。



中世のヨーロッパ的というか、ゲーム的な世界というか。

今は夜だから人はあまり見当たらないけれど、昼間になったら、そこそこ居るのかな?

この世界に来て初めての街かも!



テンションが上がり、勝手に馬車から降りようとする。



「こころ」

ガイウスが、僕に向かって腕を広げる。

これは……抱かれて行けってこと??



僕はガイウスの指示に従い近づくと、フードを再び直されて、その胸に抱かれる。

ガイウスの鍛えられた肉体にとって僕なんて子供程度なのか、軽々抱かれてアディが扉を開き、馬車から降りる。

「顔を出さないでくれ」

こくんと頷く。

クーデター?の為に隠密行動中なんだもんね。目立ったらダメなんだよね。



夜だから暗いし、フードで見えないから、大人しく抱かれている。

すると少し歩いて、大きめの建物へ入っていった。



「お待ちしてました。こちらへ」

「あぁ」

室内に入って、明かりがあるので、周りが少し見える。

マーロウのお屋敷ほどじゃないけど、結構大きなお家みたい。

僕は、そのまま一つの部屋に連れてこられ、フードと布がとられ、ソファに座らされた。



アディもフードをとって向かいに座る。

「こころ、俺は部下と少し話がある。ここに居てくれ」

「うん」

ガイウスは一休みする暇も無く部屋を出て行った。



「こころ、此処は、トレノスが所持してる家らしいよ。凄いよね」

「そうなんだぁ……」

部屋をキョロキョロ見回す。

ヴァジルの寝室や、マーロウの屋敷よりは簡素な部屋だけど、日本の住宅からしたら、凄く広くて豪勢だ。

テーブルを挟んで、3人掛けくらいのソファが2つ。

調度品と、暖炉、鏡などが配置されてる。

奥にはドアがあり、もう一部屋ありそうだ。

「アディ、ここはビザンの大きい街?」

「王都だよ、もっと進むとお城があるよ」

「へぇー。凄いね。でも、人の多い所に来て良いの?」

「危険もあるけど、マーロウの方の部隊も動きが大きくなってきたから、あそこも安全とは言えないからね」

本当に映画やゲームのようなストーリーが進んでいるんだな。

それって、いま近くに居る人に明日突然なにか起きても不思議じゃない。



お話ではキャラクターの死はストーリーの盛り上がりだけど、現実では違う。

ガイウスやヴァジルやアディが死んじゃ嫌だ。



「これから、皆何をするの?」

やっぱり知っておきたい。

「今は交渉と準備ばっかりかな。できるだけ賛同者を増やして、ひっくり返しやすくしてる」

「ひっくり返す?」

「王政を」

今は、この世界の教科書に載るような事態なんだな。本当に皆が心配だよ。



「ちなみに、僕にできる事はある?」

「こころは、軍人でも無いし、貴族でも無いし、まぁそもそも人間じゃ無いじゃん。それぞれの使命ってあるでしょ。無理して血なまぐさい事に首突っ込んじゃだめだよ」

アディが自分でいれて、お茶を飲んでる。

「こころのダーリンは本当に最高だよ。非の打ち所がない。あの人も実は人間じゃないんじゃない?」

確かに、ガイウスは人間離れしている。

ヒーローみたいだ。

「でも、きっと人間だから、そばにいて無事を祈ってあげれば?」

「祈りって効くのかなぁ……」

非科学的な事は、信じて無かったけど、今がファンタジーだから、もしかしたら?

「そりゃ、こころの祈りなら格別でしょう!思ってもらえるだけで嬉しいよ」

手を合わせ、指をくんで祈りのポーズをして微笑むアディ。

そうかなぁ?

でもやってみようかな。

「……僕やってみる」





そして、アディが退出してから、早速考えてみた。

日本の神仏のお作法も詳しくないけど、ここはどうなんだろう。

やっぱり祈る場所とかあるのかな?



そういえば、神殿があって神官が居るって言ってたな。

ビザンにもあるのかな。

まぁ今は行けないだろうけど。



仕方ない、夜空の星や月にいのろう。

カーテンを開けると、ランプに照らされ室内が、もう少し明るくなる。

窓の外は小さいバルコニーになっている。

この世界は建物も大きいから、おそらく2階なのに、かなり高く感じる。

大きな窓を開けると、ヒヤッとする空気がなだれ込む。

「あっ」

せっかく温めている部屋が冷えてしまう。

僕は、慌てて外に出て窓を閉める。

シャツにズボンなので、ヒヤッっとする。

冬に夏服の撮影が常のモデルなので、ちょっとくらい我慢できる。



白い腰より少し上ぐらいの柵に近づく。

見上げてみると、星が綺麗に輝いている。

「わあぁ、綺麗」

無数の星とお月さま。

地球じゃないけど、この世界にもある、それが嬉しい。

月をみあげて手を合わせ、指を組む。



どうか、ヴァジルやガイウスや皆が無事でいられますように。

戦争になったりしませんように。





「何をそんなに祈っているのですか」



ふいに下から声をかけられて、驚いて目を開けた。

下には道に、ランプを持つ従者と、その後ろを歩く鎧にマントの青年が居た。

「っ!?」

まずい人に見つかっちゃった!

慌てて室内に逃げこもうとする。

「待って下さい!怪しいものではありません。逃げないで」

どうしよう‥もう当たり障りなく会話したほうがいいかな?

「あまりに熱心に祈る姿が美しく、まるで聖霊のようだったので、つい邪魔をしてしまいました。お許しください」

「……」

ランプの光はあるけれど、建物の影でよく見えない。

ここは月や星の光で見えてしまっていそうだ。

「私は、セドリックという騎士です。あなたに危害を加えたりしません」

騎士!?

まずい相手に見つかった?

それとも、仲間で、今ここに来てたりした?

「あなたは?」

「……」

とっさに良い偽名なんて考えつかないよ。

焦りと不安が高まる。

「そちらの屋敷の方ですか? 何か困りごとがあるなら……あっ!待って…」

色々詮索されたらまずい!

僕は、逃げ出して窓とカーテンを締めて、暖炉の前に座り込んだ。



どうしよう…どうしよう……。

凄い余計な事しちゃったかも!

どうしよう、僕のせいで、みんなに何かあったら!

どうしよう!



暖炉の前で1人後悔していると、ガイウスが戻ってきた。

「どうした、こころ。何があった?」

ガイウスが戻ってきただけで、ほっとする。

ガイウスに駆け寄り胸に縋る。

「ごめんなさい、ガイウス!」

ガイウスが驚いている。

「僕、僕! ガイウスやみんなの無事を祈りたくて! そこに出ちゃった!」

バルコニーを指差す。

「あぁ、ありがとう、こころ」

ガイウスが優しく微笑む。

罪悪感が高まる。

「そしたらっ、誰かに話しかけられちゃって!!ごめんなさい!」

「大丈夫だ。泣くな。どんなやつだった?」

ガイウスが僕の頭を撫でる。

「えっと!従者っぽい人と、騎士の人」

「あぁ」

名前はええっと。

「セドリックさん?って名乗ってた。 僕は何にも喋ら無かったけど‥‥どうしよう!僕のせいで、皆が危険になったら!ごめんなさい!」

ガイウスが僕を抱き上げた。

そのまま椅子を持ってきて、暖炉の前に座らせてくれた。

ガイウスは、その前にしゃがむ。

「そんなに心配するな。大丈夫だ。 こころのおかげで順調なんだ」

僕の膝においた手に、ガイウスの手が重なる。

「出港した船は、すべてがビザンに向かっている風にのり導かれるように、もうすぐ港につく。雪山の麓も天候に恵まれ配置が終わり活動も良好だ。すべてが都合よく進み、怖いくらいだ。聖霊の力が働いているかもしれないな」



聖霊の力……。



聖霊は人間の為の駒。



この流れが人間の為の道だってこと?



僕の力は……。



話しておくべきだろうか…。



「……ガイウス、あのね……」

「あぁ。どうした?」



話したら……。

どうなる?



力を使う。



ガイウスなら、ヴァジルを助ける為に力を使う。

僕を殺して。



「…あのね……伝えておかなきゃいけない事があるの…」

「こころ、言いたくない事は、無理して言わなくていい」

僕は首を降る。

これは言っておくべき事だと思う



「……聖霊の力は……」



怖くて、口がカラカラに渇く。



「人間が使えるらしいんだ、一度だけ」

「……あぁ…」



「僕を殺せば、僕を…殺した人が…一度だけ僕の力が使える……癒やしの」

「こころっ!!」

ガイウスが僕の肩を掴む。

怖いぐらい真剣に見つめらてる。

「その話は絶対に、誰にもするな!!」

「……ガイウス?」

「わかったか!?」

「……でも!」

強く抱き締められる。

ガイウスは……どうして怒ってるの?

「絶対に、そんな力は使わせない!!」

「……うん」



そうだよね。

ヴァジルやガイウスの一大事にとっておかないといけないよね。







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