月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

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牢屋

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「……おぃ、こころ……大丈夫か?」

近くで声がする。

「……こころ……」

呼ばれてる。起きなきゃ。

なんだか、とってもだるい。体が重い。

頑張って目を開けると、直ぐ近くにガイウスの顔がある。でも、薄暗くて、ランプの光が揺れてる?……夜?

「目が覚めたか?……どこか変なところはあるか?」

凄く真剣そうな顔してる。近いなぁと思ったけど、ガイウスの組んだ膝の上で、腕に抱かれてるのか。

最近、目を覚ますと違う場所に居るのは慣れたけど、今の状況は??

「……」

のろのろと頭を動かして周りを見る。

ガイウスの手が縄で縛られてる!?縛られている腕に囲われているため凄く密着している。

あれは、格子? 

ここは牢屋!?

状況が全く飲み込めず、体を起こしてガイウスに抱きつく。

なんか寒い。さっきは春みたいだったのに。



「気がついたらここに居た。お前が川の水に吸い込まそうになった所までは覚えてるが……」

ガイウスは、僕に巻き込まれてここに居るのだろう。

ごめんと謝りたいけど、声が出ない。

「ここは、聖霊の世界か?」

ぶんぶん首を振る。

まさか日本に飛んで、不審者として捕まったとしても、土の床の牢屋に、ロープで手を縛られて、ランプの明かりの部屋に入れられないだろう。

そういえば、僕は縛られてない。

「じゃあ、俺たちの世界だとすると、大分遠くまで来たみたいだな」

「??」

「気候が違うだろ」

そう、さっきから寒くて。真冬に雪ってほどじゃ無いけど、うららかな春から冬の始まりぐらいに放り混まれて体がビックリしてる。

もしかして……寒いから抱いててくれたのかな?

ガイウス……いい人だ……。

「もし……ここが、北のビザン王国なら状況が悪い。うちとは長年戦争中みたいなものだ。もし俺が将軍として捉えられているなら……ただ殺されるだけなら良いが、交渉材料にされたら最悪だ」

恐ろしい話に、寒さだけだけではない震えが走る。



どうしよう、僕のせいでガイウスに何かあったら……。なんで、こんな所に飛んで来ちゃったのだろう。

もう、何がきっかけで、どこにどんな時に飛ばされるか分からないから、正直、対策のしようも無いけど……。

願うだけで飛べるなら、僕たちを今すぐ元に戻して欲しい。

とりあえず、謝ろうと思う。

ガイウスの腕から抜け出して、深々と頭を下げる。

座っているから、土に頭がつきそうだ。

「おい、やめろ。別にお前が悪いわけじゃない。それに、お前一人ここに飛ばされていたかと思うと、恐ろしすぎる」

「……」

僕、いつも怖いとか、嫌だとかばっかりなのに・・・・ガイウスも、ヴァジルも優しい……。

ガイウス、最初は怖い人かと思ったけど、いい人すぎて、もっと申し訳ない。

「な!?泣くな!怖がらせる事言って悪かった!!」

涙が止まらない、ガイウスが優しいから。

ポロポロこぼれてくる。

「……泣くなよ……どうして良いかわかんねーだろ」

ガイウスのデカくてゴツい手が僕の頭を撫でる。





「……とにかく、隙をみて逃げ出す。必ず機会はある」

うん。と涙を飲み込んで答える。

「まず、言っておくが、お前が聖霊ってことと、俺がトレノスの将軍ということは秘密だ。まぁお前、今喋れないし、話からばれることはないだろうが……見た目がな……」

頭を下げる。

申し訳ないけど、この時代に無いツルピカ使用は、仕事柄しょうが無い状態なんです……。

現代の技術をお金かけて、髪も芯からサラサラつやつやだし、肌も幼少期からモデルやって常に管理してきた。聖霊のお仕事の為に脱毛されちゃったし……長期間剥がれない透明なネイルされてます、足も……。体に残ってる怪我なんて一つも無いし、手荒れも無い。

この時代の人にとっては、どんな王族かと思うレベルの浮世離れ感あるの感じてます。

「とりあえず、トレノスの貴族とその従者という設定で行くか」

うんっと力強く頷く。

「……安心しろ。絶対俺がお前をヴァジルの所に戻してやる」

ガイウスが格好よすぎて、また泣きそう。

僕もこんな男になりたい。



あっ、そうだ、この手のロープは何とかすれば取れるんじゃ無いかな!?

そう……かみ切るとか??

ロープを指さし、ガジガジするまねをする。

「…っぷ……馬鹿か。おまえのその歯で切れるわけないだろう。なんで子供の歯みたいに小せぇんだよ」

なんだか凄く笑われている。

せっかく僕も役にたてるかと思ったのに。

「別に、これくらい何時でも取れるが、相手に余計な警戒させたくない」

取れるの?縄抜け? 引きちぎるの??

どっちもあり得る……。

「いいか、演技しなくてもそうだろうが、貴族の箱入り息子みたいに、ピーピーしてろよ」

「……」

いや、全くもって否定できないけど!

その通りなんですけど!!

そんなにハッキリ言われると…うぅ……。

なんで、異世界に来ているのに、特殊能力とかないの?

力が10倍になるとか!魔法使えるとか!!

「おい、いつもみたいに猫パンチしないのか?」

「……」

ガイウスがゲラゲラ笑っている。

まぁ、良かったですよ。笑ってもらえるものがあっただけ。





僕が寒さをしのぐ為にガイウスの隣によっかかって座っていると、牢屋の近くに見える階段から音がする。

「……っ!」

ビックリしてガイウスに抱きつく。

あっ……これは怖がってる演技だよ!

牢屋の見張りだろうか?

トレノスの兵士よりも安っぽい防具をつけた男が、もう一人男を先導してやってきた。

「おっ、目が覚めてたか?」

後ろの男が格子までやってくる。

特に武装してない、若い男だった。

天然のクルクル赤茶頭で、切れ長の目、ヴァジルたちよりは落ちるけど鍛えられた感じの体。

そして何より、なんか軽い感じの空気。

「よー、トレノスの不敗の将軍様」

「っ!?」

ばっばれてる!!!

僕は思いっきり動揺して顔に出た。

しかしガイウスはピクリともしない。

「かわいいなぁ。ビックリしてる顔も凄いかっわいい。将軍様の小姓か?」

やばい、やばい、僕ほんとに馬鹿!馬鹿!

僕のせいでばれた!!

これ以上何も悟られるわけにはいかず、ガイウスの背にギューギュー抱きつくけど、ガタガタ震えるのが止まらない。

どうしよう! どうしよう!

「……」

ガイウスは相手に向き合っているだけで何も話さない。

「あれ?隠れちゃった。もっと見ていたいのに。ねぇ、将軍さん。なんであんな所に倒れてたの?」

「……」

「お小姓さんと駆け落ちでもしたの?」

「……」

「別に駆け落ちする理由もないよね。あんた程の人なら男も女も好きにし放題だもんね。 じゃあ、そんな素人の天使つれて政治的な活動中?」

「……」

「それも考えづらいよね。あんた程のひとが敵国で外傷もないのに意識失って倒れてるなんて不可解過ぎる」

「……」

「ねぇなんで?」

ガイウスの邪魔にならないように、ガイウスの背中についているから、さっぱり分かんないけど、男が一方的に話している。

「教えてよ。俺たち敵じゃ無いよ。俺も今ここに忍び込んでるんだ。手短にはなしたい」

「……」

「あぁ!!もう将軍さん、さすが!ポーカーフェイスすぎてさっぱりだよ!!じゃあ、話したくなる情報あげるよ、その天使ちゃんと自分の右手、みてごらん。なんか鍼で刺されたあとあるから」

ガイウスに抱きついて居る右手を取られた。

あっ……確かになんか蚊に刺されみたいな……。

えっ!?何??毒とか!?

「……っ!?」

急に怖くなって息をのむ。でも、これって罠かもしれないし……。

「その子、声も出さなかったね。全然喋んないけど、話せないの? まぁいいや。とにかく話し合おうよ。ほんとに敵じゃ無いから。ね、ガイウス将軍」

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