月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

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安心

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それからお着替えして、部下の人にガイウスの居場所を報告してもらって尋ねる事になった。

本当はウロウロしない方が安全なんだろうけど、今まさに致していたところに人は呼びたくない。



ガイウスはまだ仕事中らしく、執務室を訪れる。

ヴァジルの前を歩く騎士さんがノックしてドアを開ける。

僕はヴァジルの後ろについて入っていく。

「よぅ、こんな夜中に何しに現れたんだ聖霊さん」

大きく重厚なデスクに座っているガイウスが、ニヤニヤ僕を見る。

こ、こいつ!まさか僕らの間に起きた事態を知っているのか!!?

恥ずかしさと羞恥の怒りで、デスクまで走り机をバンバン叩く。

「っ!」

ただただ痛い。早くも後悔する。

「こころは、今日は話せない。可哀想だから、からかうな」

ヴァジルが後ろからやってきて僕の手をさする。いや、そうゆう行動が誤解されるのでは……いや、誤解じゃ無いか…あんな事したんだから……え? そういえば何であんなことしたんだ? 

あれ? 僕もしかしてヴァジルの彼氏? いやいや、あれだな、これが世に言う「一回寝たぐらいで彼氏ヅラするな」って言われるやつなのでは!? あぶない あぶない。

と、どうでもいい思想にとらわれていると、別の人物が目に入った。



「はじめまして、聖霊様。リドスと申します」

ガイウスの隣に立っていた、さらさらの長い金髪の男性が綺麗な所作で頭を下げた。

ヴァジルも綺麗だけど、この人はヴァジルよりも繊細系の綺麗さんだ。すごい。ちょっと照れる。

自分も挨拶をしたいけど、喋れないから「紹介して」とヴァジルの袖を引いて頭を下げる。

「リドス、私の大切な、こころ様だ」

えっ、そこ大切なっていらないのでは??あれ??これ、もしかして、僕、公認彼氏?

「陛下、こころ様にお礼を申し上げても宜しいでしょうか?」

ヴァジルが頷くと、リドスさんが僕の前にやってきて片膝をついて跪く。

「!?」

「こころ様、先のご光臨では、命を救って頂きありがとうございました。あなた様のおかげです」

「?」

「ソイツは、こないだ殺されかけてた間諜だ」

ガイウスの説明でやっとピントきた。

ああ、あの騒ぎの中心に居た人か。あのときは顔もボコボコだったから……。というか、よくこんなに綺麗な人をボコボコにできたなぁと思う。 それにしても治るの早い………じゃないよね、時間がずれてるんだねやっぱり。

とにかく良かったと伝えたくてリドスさんの手をとって微笑む。

「ありがたき幸せです」



「で、なんの用なんだ?」

ガイウスが先を促す。そうだよ!伝えないと!

えーーっと。

ヴァジルを指さして、手を組んで祈りのポーズをする。

「こころは、私の危機を知らせに来てくれたんだ」

ヴァジルが嬉しそうに語る。

「でも、喋れねぇと。しょうもねぇな」

ガイウスににらまれる。しょうがないじゃないか!

「こころ様、その陛下に訪れる危機はいつの事なのでしょうか」

リドスさん良い質問です。リドスさんに微笑む。

うーん キーワードは 同盟国 調印式 だ。どうしたものか。

同盟を組むのは元は仲悪かったのかな? あぁ人形でもあれば・・・。

じゃあ調印式! 調印ってサインしてハンコおす系?

ハンコ ハンコ……。僕はガイウスの手元を見る。

「!!」

あった。納豆のパックくらのハンコ!

コレをインクつけて、ガイウスの目の前の書類にポン!!

「あっ、お前、馬鹿、勝手に押すやつがあるか!!」

ガイウスが、書類を手に、わーわー言っているのを無視して、ハンコを放り投げ、ヴァジルと握手して、パチパチ手を叩く。

「……もしかして調印式ですか?」

リドスさん最高!ここに居てくれてありがとう!大好き!

リドスさんに突進して抱きつく。

「あっこころ!!ダメです」

ヴァジルに直ぐ引き離された。

でも、良かった、これで伝わった!!これで二人もヴァジルを守ってくれる。

安心したら、涙が出てきた。

ヴァジルに向き合い、そのたくましい胸に飛び込む。

「……こころ。そんなに私のことを心配してくれていたのですね・・・。嬉しいです……」

「……っく……」

良かった!良かった!



「おい!なんか感動のシーンのところ悪いな。そもそも調印式終わってるぞ」

ガイウスが吐き捨てるように言う。

「ん??」

「そうですね、一週間前に終わりました。 確かに陛下に対して不穏な動きをする勢力がありましたが、事前に制圧することが出来ました」

え?調印式終わってる???

リドスさんが事前に制圧??

え??だって……え??



「二人とも、水をさすような事を言わなくていい」

「おまえ、役に立たない聖霊だな。来るの遅ぇじゃないか」

「!?!」

え?取り越し苦労?え?

嘘でしょ?

「そんな事無いよ、こころ。 こころが助けたリドスが、今回の私の暗殺を阻止してくれたんだから、こころが助けてくれたんだよ。ありがとう、こころ」

ヴァジルが僕を抱き上げて頬ずりする。

「でも、調印式もちゃんと来いよ」

ガイウスが笑って言う。





なんだ……。

良かった。もう、助けられたんだ!

やった!!これで、ヴァジルも死なないし、僕も死なない。

もしかしたら、深井さんのお姉さんも帰ってくるかもしれない。



あぁ、よかったよぉ。

ヴァジルの腕の中で力を抜く。このぬくもりが失われない。

悩みが一気に解決されて、もうすっかりエネルギー切れ。



「……こころ? 寝てしまったんですか?」

ヴァジルの声が心地よい。あぁもう、おやすみなさい……。









「……なんて愛しいんだ、こころ」

私の腕のなかで眠るこころに、愛する気持ちがあふれ出す。

私の身を案じて、この世界にわざわざ来てくれ、必死になってくれていた、なんて可愛いんだ。

愛しすぎて胸が苦しい。

「陛下、こころ様の此度の光臨が、もう終わった調印式の危機だとお思いですか?」

リドスが真剣な顔で問う。

「思わないな。おそらく何か起こるだろう」

「何か起こるとするなら……」





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