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ヴァジル
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扉が開いて入ってきたのは、いつもの彼だった。
普段は就寝のためのゆったりとした服装をしてるが、今は白い詰め襟の正装。撫でつけられた白銀の髪。
普段の柔らかい印象とは違って、威厳がある。
足早にこちらにやってくると、男の腕を掴み僕と赤毛の男を引き離す。
僕に触れようとして一瞬躊躇い、手を引っ込める。僕に背を向けて、ベッドの前に庇うように立つ。
「……っ聖霊様!?」
ベッドに膝立ちになり、僕から彼の背中に抱きつくと、驚いた表情で振り向く。
「別に何も。ちょっと話してただけだぜ」
「私にはお前が聖霊様に乱暴していた様に見えたんだが」
「しょうがねぁだろ侵入者と間違えたんだよ。なぁ聖霊さま」
男が僕をのぞき込んでくる。
先ほどまでの恐ろしい雰囲気は無くなったが、震えが止まらない。
男の視線から逃げるように、顔を反対に向けて彼の背中にもっと密着する。
「出ていけ」
「へいへい。すいませんでした」
男が遠ざかる足音が聞こえ、少しして扉が閉まる。
緊張が解け、どっと疲れを自覚した。
ギューギューと抱きついていた腕を放して座り込む。
「部下が失礼しました。お怪我はありませんか?」
肩にそっと手を当てられる。
暖かくて優しくて、ほっとする。
「…………大丈夫です」
「申し訳ありませんでした」
普段は僕は話せないし、彼は僕に触れられない、とても不思議なフワフワした夢のような空間だけど今日は本当にリアルだ。
まるで現実のような夢。
本当に彼が存在しているみたい。
確かめるように腕を伸ばし、彼の頬に触れる。
体温も感覚も夢には思えない。
「……ヴァジル……さん」
「っ!?」
僕が先ほどの疑問を確かめるように呼ぶと、彼が目を見開き驚くと、とても嬉しそうに笑った。
「あなたに名前を呼んで頂けるなんて……」
うっとりと見つめられて、恥ずかしくなって手を離す。
視線をそらすために下を向くと、攻略本が目に入る。
ヴァジルくんが今目の前の彼で……。
あのときは子供で、今は僕より年上に見える大人で……。
グルグルと考えがまとまらない。
「聖霊様?」
「こころです。聖霊様じゃ無くて桜川こころです」
何だか色々勘違いされている。
そのせいで、さっきの男にも変な誤解をされたんだ!
誤解を解かないと。
「聖霊はただの役で、僕はこころって名前なんです!」
「では、こころ様とお呼びしても?」
ヴァジルさんがとろけるように笑ってる。
本当にこの人、モデルよりも格好いい。
顔の作りもさることながら、引き締まった厚い体と、醸し出す特別な人間という雰囲気。
なんて言ったらいいのか。器がでかい?人の上に立つ人?
「僕は偉い人じゃないので、こころで良いです。……ヴァジル様? あなたは王様でしょう?」
さっきの男が陛下の寝室って言ってたし
「とんでもない。まだ念願の諸国統一もならず、しがない小国の領主みたいな者です。どうかヴァジルとお呼び下さい、こころ」
鋭い目つきなのに、笑顔がとっても優しい。
惹きつけられるってこういうことを言うんだろうな。
目が離せない。
さっきの赤毛が、この人の事を大切に思っているのも、この人にそれだけのものがあるからだろう。
「こころ」
「はいっ!」
「足をどうぞ」
いつの間にか拾ってくれたサンダルを彼の手ずからはかせてもらう。
はっ……恥ずかしい!
仕事柄、人に服着せられたり、靴履かされたりしているけど、ヴァジルにしてもらうのは恥ずかしい!
赤面しながら耐えていると、すっと手を取られエスコートされて近くのソファへ着席。
あれ?何これ?
できる男の魔法?
ヴァジルが隣に座る。
広いソファなのに、結構近い。
そして彼の体がこちらを向いて、左の手が僕の背もたれの後ろに置かれているので、右が向けない。
なんだろう、赤毛とは違う圧力を感じる。
「今日はこうして、こころと話ができて触れることができて、私はとても嬉しいです」
で、でた!いつもの甘い言葉。
なんなの!?
僕の夢、なんなの!?
素敵な外人男性に口説かれる願望あるの?
「あの! き、聞きたいことがあるんです!」
この甘い空気に流されないよう、膝の上で拳を握り、やや体を反対にずらして彼の方を向く。
「はい、何なりと」
ヴァジルは、腕をどけて座り直し僕にしっかり向き合う。
夢で夢の中の人に、あれやこれや聞くのも変だと思うけど……あんまりリアルで、不思議で、気になるので……。
「ヴァジルは僕のせいで苦しんでいるって本当ですか?」
彼の表情を見逃すまいと、その顔を見つめる。
「そうですね……。とても苦しいです。毎日でもお会いしたいのに会えませんし、いつもは触れることも叶いません。とても苦しいです」
きれいに整えられた白銀の髪を掻き乱す。
「そういうんじゃなくて!!」
なんだこのラテンみたいな感じ。会う人みんな口説くのが礼儀なの!?
なんか凄い嫌だ!
みんなにこんな事してんのかな!!
…………。
ん?
なんでこんな怒ってるんだ、僕。
「…………ふぅ……さっきの人が、僕のせいでヴァジルが戦争してるって……」
「あいつは、こころにそんな事を言ったのですか」
ドアの方をみて怒った顔をした。
なんか告げ口みたいで居たたまれないけど、確認せずにはいられない。
「そんな事ないですよ。そもそも、こころは私が戦争して何か得がありますか? 住む世界が違うのに」
「……ないけど……」
「こころに頂いた兵法書は、理解できない事も多く書いて有りましたが、色んな戦い方が記載してあり知識を深めるには非常に助かりました。しかし、書かれている世界とは地形も武器なども違います、あくまで参考にさせて頂きました。あれは、こころに頂いた物だから大切なんです」
ヴァジルが僕の手を取る。
宝石みたいな紫の目が僕を写している。
「この世界は豊かでない土地も多いからか、どこも戦ばかりで、民は疲弊しています。一部の支配者にとって人の命など駒と同じ。…………でも、私は人に成りたかった」
「……ヴァジル」
「なにか大きな事を成して、一番輝ける人になれば気づいて貰えると思ったのです」
……それは……誰に?
「しかし、勢力が大きくなり、沢山の者と出会い、思いを知り、今では、皆と多くの人にとって良き世を作りたいと思っています」
今の日本はとても平和で豊かだ。
災害や病はあるけど戦争はない。
だから彼の進んでいる道が、どんなものか、対岸の火事くらいにしか想像出来ていないと思う。
ただ彼には、この人のために自分も何かしたいと思わせるものがある。
これがリーダーシップってものなのかな?
「……僕もあなたに何か出来たら良いのに」
「こころは、いつも私を救ってくれます。あなたがそばに来てくれるだけで……」
普段は就寝のためのゆったりとした服装をしてるが、今は白い詰め襟の正装。撫でつけられた白銀の髪。
普段の柔らかい印象とは違って、威厳がある。
足早にこちらにやってくると、男の腕を掴み僕と赤毛の男を引き離す。
僕に触れようとして一瞬躊躇い、手を引っ込める。僕に背を向けて、ベッドの前に庇うように立つ。
「……っ聖霊様!?」
ベッドに膝立ちになり、僕から彼の背中に抱きつくと、驚いた表情で振り向く。
「別に何も。ちょっと話してただけだぜ」
「私にはお前が聖霊様に乱暴していた様に見えたんだが」
「しょうがねぁだろ侵入者と間違えたんだよ。なぁ聖霊さま」
男が僕をのぞき込んでくる。
先ほどまでの恐ろしい雰囲気は無くなったが、震えが止まらない。
男の視線から逃げるように、顔を反対に向けて彼の背中にもっと密着する。
「出ていけ」
「へいへい。すいませんでした」
男が遠ざかる足音が聞こえ、少しして扉が閉まる。
緊張が解け、どっと疲れを自覚した。
ギューギューと抱きついていた腕を放して座り込む。
「部下が失礼しました。お怪我はありませんか?」
肩にそっと手を当てられる。
暖かくて優しくて、ほっとする。
「…………大丈夫です」
「申し訳ありませんでした」
普段は僕は話せないし、彼は僕に触れられない、とても不思議なフワフワした夢のような空間だけど今日は本当にリアルだ。
まるで現実のような夢。
本当に彼が存在しているみたい。
確かめるように腕を伸ばし、彼の頬に触れる。
体温も感覚も夢には思えない。
「……ヴァジル……さん」
「っ!?」
僕が先ほどの疑問を確かめるように呼ぶと、彼が目を見開き驚くと、とても嬉しそうに笑った。
「あなたに名前を呼んで頂けるなんて……」
うっとりと見つめられて、恥ずかしくなって手を離す。
視線をそらすために下を向くと、攻略本が目に入る。
ヴァジルくんが今目の前の彼で……。
あのときは子供で、今は僕より年上に見える大人で……。
グルグルと考えがまとまらない。
「聖霊様?」
「こころです。聖霊様じゃ無くて桜川こころです」
何だか色々勘違いされている。
そのせいで、さっきの男にも変な誤解をされたんだ!
誤解を解かないと。
「聖霊はただの役で、僕はこころって名前なんです!」
「では、こころ様とお呼びしても?」
ヴァジルさんがとろけるように笑ってる。
本当にこの人、モデルよりも格好いい。
顔の作りもさることながら、引き締まった厚い体と、醸し出す特別な人間という雰囲気。
なんて言ったらいいのか。器がでかい?人の上に立つ人?
「僕は偉い人じゃないので、こころで良いです。……ヴァジル様? あなたは王様でしょう?」
さっきの男が陛下の寝室って言ってたし
「とんでもない。まだ念願の諸国統一もならず、しがない小国の領主みたいな者です。どうかヴァジルとお呼び下さい、こころ」
鋭い目つきなのに、笑顔がとっても優しい。
惹きつけられるってこういうことを言うんだろうな。
目が離せない。
さっきの赤毛が、この人の事を大切に思っているのも、この人にそれだけのものがあるからだろう。
「こころ」
「はいっ!」
「足をどうぞ」
いつの間にか拾ってくれたサンダルを彼の手ずからはかせてもらう。
はっ……恥ずかしい!
仕事柄、人に服着せられたり、靴履かされたりしているけど、ヴァジルにしてもらうのは恥ずかしい!
赤面しながら耐えていると、すっと手を取られエスコートされて近くのソファへ着席。
あれ?何これ?
できる男の魔法?
ヴァジルが隣に座る。
広いソファなのに、結構近い。
そして彼の体がこちらを向いて、左の手が僕の背もたれの後ろに置かれているので、右が向けない。
なんだろう、赤毛とは違う圧力を感じる。
「今日はこうして、こころと話ができて触れることができて、私はとても嬉しいです」
で、でた!いつもの甘い言葉。
なんなの!?
僕の夢、なんなの!?
素敵な外人男性に口説かれる願望あるの?
「あの! き、聞きたいことがあるんです!」
この甘い空気に流されないよう、膝の上で拳を握り、やや体を反対にずらして彼の方を向く。
「はい、何なりと」
ヴァジルは、腕をどけて座り直し僕にしっかり向き合う。
夢で夢の中の人に、あれやこれや聞くのも変だと思うけど……あんまりリアルで、不思議で、気になるので……。
「ヴァジルは僕のせいで苦しんでいるって本当ですか?」
彼の表情を見逃すまいと、その顔を見つめる。
「そうですね……。とても苦しいです。毎日でもお会いしたいのに会えませんし、いつもは触れることも叶いません。とても苦しいです」
きれいに整えられた白銀の髪を掻き乱す。
「そういうんじゃなくて!!」
なんだこのラテンみたいな感じ。会う人みんな口説くのが礼儀なの!?
なんか凄い嫌だ!
みんなにこんな事してんのかな!!
…………。
ん?
なんでこんな怒ってるんだ、僕。
「…………ふぅ……さっきの人が、僕のせいでヴァジルが戦争してるって……」
「あいつは、こころにそんな事を言ったのですか」
ドアの方をみて怒った顔をした。
なんか告げ口みたいで居たたまれないけど、確認せずにはいられない。
「そんな事ないですよ。そもそも、こころは私が戦争して何か得がありますか? 住む世界が違うのに」
「……ないけど……」
「こころに頂いた兵法書は、理解できない事も多く書いて有りましたが、色んな戦い方が記載してあり知識を深めるには非常に助かりました。しかし、書かれている世界とは地形も武器なども違います、あくまで参考にさせて頂きました。あれは、こころに頂いた物だから大切なんです」
ヴァジルが僕の手を取る。
宝石みたいな紫の目が僕を写している。
「この世界は豊かでない土地も多いからか、どこも戦ばかりで、民は疲弊しています。一部の支配者にとって人の命など駒と同じ。…………でも、私は人に成りたかった」
「……ヴァジル」
「なにか大きな事を成して、一番輝ける人になれば気づいて貰えると思ったのです」
……それは……誰に?
「しかし、勢力が大きくなり、沢山の者と出会い、思いを知り、今では、皆と多くの人にとって良き世を作りたいと思っています」
今の日本はとても平和で豊かだ。
災害や病はあるけど戦争はない。
だから彼の進んでいる道が、どんなものか、対岸の火事くらいにしか想像出来ていないと思う。
ただ彼には、この人のために自分も何かしたいと思わせるものがある。
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