月の聖霊さまに間違えられた僕の話

いんげん

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混乱

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「聖霊が寝室に現れるって本当だったんだな」
赤毛の男が顎に手を当てて、珍しい動物でも眺めるみたいにこちらを見てる。
今、自分の中でメラメラと怒りが……。
「何なんですか!ぅー」
気持ち悪さに耐えて起き上がる。
「怖いし痛いし気持ち悪いし!! 何するんですか、いきなり!」
半泣きになりながら、ベッドから抗議する。
「部屋の前を通ったら、突然妙な気配を感じてな。陛下の寝室だ。間者だと思うだろ」
僕の抗議など、全く気にしていない様子で薄笑いする男。
何とか一矢報いたくて、すぐ近くにある相手の腹部にパンチする。
「いっ!! 痛い!」
硬!腹筋硬!叩いた方が痛いってどうゆうこと!制服なのに、鎧じゃないのに!
右手がビリビリ、ジンジンする。
「はははは、こんな弱い間者いるわけねぇな」
「よっ、よわ……」
おのれ赤毛め!かくなる上は!
「っつ!?」
思いっきり足を踏んでやろうと思ったら、サンダル脱げてたの忘れて、裸足で相手のブーツ踏んでしまって、悶絶する。
再びベッドに逆戻る。
「それにしても、体中光ってるみたいに、どこもかしこも綺麗なんだな。こんな肌、どんな高級な娼婦だっていねぇ」
「っひやぅ」
脚を掴まれて男のゴツゴツした手で撫でられる。ゾゾゾっと鳥肌がたつ。
ニヤリと笑いながらこちらを獲物を見るような目で見てくる。
「聖霊っての歩かないのか? 赤ん坊みたいな足だなあ」
「はなせぇ!」
足をジタバタすると思いのほかあっさりと離された。
ベッドの上を後退する。
「あいつを誑かしてる月の聖霊ってのは、もっと肉欲的なのを想像してたんだけど」
「誑かす!?」

男がベッドに乗り上げてくる。
僕の体に覆い被さるようになる。
男の手が伸びる。
「……っ」
何をされるのかと息をのみ目をつぶった。
しかし僕の体には何も触れなかった。
ガタガタと音がする。

「……誑かしただろう。取り潰しになった貴族の孤児だったあいつに、この神の兵法書を与え、戦争の真っ只中に放り込んだ、聖霊って名前の悪魔だろ」
「……えっ」
僕の胸の上に、無くした攻略本が落とされた。
それは少し前になくなったはずなのに、まるで長い間何度も何度も読み込まれたようだ。

孤児。
攻略本。
白銀の髪。
紫の目。
時間の流れの違い。
ヴァジルくん?

「一度だけあいつはこの戦から撤退しようとした」
男が僕の口を大きな手でふさぐ。
先ほどまでの目つきと違い、笑っていない。
暗く恐ろしい目だ。
「それなのに、またお前が現れた。悪魔のキス。あいつにもっと血を流させろと……」
悲しみ苦しむ青年。
悪魔のキス。
聖霊の祝福。

「…………」
今までの夢や白昼夢は全部繋がってる?
この瞬間も含めて壮大な夢?
男の手を振り払う。決して呼吸を阻害されてた訳じゃないのに、息苦しい。
「僕は……何も……」
「そう、ただあいつがお前に惚れて、気に入られようと思っただけ。それに巻き込まれて何万もの人間が死んだんだぜ」
いつもの夢よりもずっと生々しい。
「聖霊ってのは残酷な生き物だよな。それほどまでに、特別で美しく、人の心に入りやすい」
「そんなんじゃ……。聖霊なんてただの役割で……」
僕はただの人間だし、これは僕の夢!
「すべて神様の意志だって? 醜い人間の争いを見飽きたのか? いいぜ俺もその駒の一つで」
「……うぁ!」
髪を掴まれ引き寄せられる。男の目が怒りに燃えてる。
「ただし、最後までちゃんと見守れ…………あいつを死なせるな」
「…………」

「ガイウス! 何してる!」

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