9 / 53
混乱
しおりを挟む
「聖霊が寝室に現れるって本当だったんだな」
赤毛の男が顎に手を当てて、珍しい動物でも眺めるみたいにこちらを見てる。
今、自分の中でメラメラと怒りが……。
「何なんですか!ぅー」
気持ち悪さに耐えて起き上がる。
「怖いし痛いし気持ち悪いし!! 何するんですか、いきなり!」
半泣きになりながら、ベッドから抗議する。
「部屋の前を通ったら、突然妙な気配を感じてな。陛下の寝室だ。間者だと思うだろ」
僕の抗議など、全く気にしていない様子で薄笑いする男。
何とか一矢報いたくて、すぐ近くにある相手の腹部にパンチする。
「いっ!! 痛い!」
硬!腹筋硬!叩いた方が痛いってどうゆうこと!制服なのに、鎧じゃないのに!
右手がビリビリ、ジンジンする。
「はははは、こんな弱い間者いるわけねぇな」
「よっ、よわ……」
おのれ赤毛め!かくなる上は!
「っつ!?」
思いっきり足を踏んでやろうと思ったら、サンダル脱げてたの忘れて、裸足で相手のブーツ踏んでしまって、悶絶する。
再びベッドに逆戻る。
「それにしても、体中光ってるみたいに、どこもかしこも綺麗なんだな。こんな肌、どんな高級な娼婦だっていねぇ」
「っひやぅ」
脚を掴まれて男のゴツゴツした手で撫でられる。ゾゾゾっと鳥肌がたつ。
ニヤリと笑いながらこちらを獲物を見るような目で見てくる。
「聖霊っての歩かないのか? 赤ん坊みたいな足だなあ」
「はなせぇ!」
足をジタバタすると思いのほかあっさりと離された。
ベッドの上を後退する。
「あいつを誑かしてる月の聖霊ってのは、もっと肉欲的なのを想像してたんだけど」
「誑かす!?」
男がベッドに乗り上げてくる。
僕の体に覆い被さるようになる。
男の手が伸びる。
「……っ」
何をされるのかと息をのみ目をつぶった。
しかし僕の体には何も触れなかった。
ガタガタと音がする。
「……誑かしただろう。取り潰しになった貴族の孤児だったあいつに、この神の兵法書を与え、戦争の真っ只中に放り込んだ、聖霊って名前の悪魔だろ」
「……えっ」
僕の胸の上に、無くした攻略本が落とされた。
それは少し前になくなったはずなのに、まるで長い間何度も何度も読み込まれたようだ。
孤児。
攻略本。
白銀の髪。
紫の目。
時間の流れの違い。
ヴァジルくん?
「一度だけあいつはこの戦から撤退しようとした」
男が僕の口を大きな手でふさぐ。
先ほどまでの目つきと違い、笑っていない。
暗く恐ろしい目だ。
「それなのに、またお前が現れた。悪魔のキス。あいつにもっと血を流させろと……」
悲しみ苦しむ青年。
悪魔のキス。
聖霊の祝福。
「…………」
今までの夢や白昼夢は全部繋がってる?
この瞬間も含めて壮大な夢?
男の手を振り払う。決して呼吸を阻害されてた訳じゃないのに、息苦しい。
「僕は……何も……」
「そう、ただあいつがお前に惚れて、気に入られようと思っただけ。それに巻き込まれて何万もの人間が死んだんだぜ」
いつもの夢よりもずっと生々しい。
「聖霊ってのは残酷な生き物だよな。それほどまでに、特別で美しく、人の心に入りやすい」
「そんなんじゃ……。聖霊なんてただの役割で……」
僕はただの人間だし、これは僕の夢!
「すべて神様の意志だって? 醜い人間の争いを見飽きたのか? いいぜ俺もその駒の一つで」
「……うぁ!」
髪を掴まれ引き寄せられる。男の目が怒りに燃えてる。
「ただし、最後までちゃんと見守れ…………あいつを死なせるな」
「…………」
「ガイウス! 何してる!」
赤毛の男が顎に手を当てて、珍しい動物でも眺めるみたいにこちらを見てる。
今、自分の中でメラメラと怒りが……。
「何なんですか!ぅー」
気持ち悪さに耐えて起き上がる。
「怖いし痛いし気持ち悪いし!! 何するんですか、いきなり!」
半泣きになりながら、ベッドから抗議する。
「部屋の前を通ったら、突然妙な気配を感じてな。陛下の寝室だ。間者だと思うだろ」
僕の抗議など、全く気にしていない様子で薄笑いする男。
何とか一矢報いたくて、すぐ近くにある相手の腹部にパンチする。
「いっ!! 痛い!」
硬!腹筋硬!叩いた方が痛いってどうゆうこと!制服なのに、鎧じゃないのに!
右手がビリビリ、ジンジンする。
「はははは、こんな弱い間者いるわけねぇな」
「よっ、よわ……」
おのれ赤毛め!かくなる上は!
「っつ!?」
思いっきり足を踏んでやろうと思ったら、サンダル脱げてたの忘れて、裸足で相手のブーツ踏んでしまって、悶絶する。
再びベッドに逆戻る。
「それにしても、体中光ってるみたいに、どこもかしこも綺麗なんだな。こんな肌、どんな高級な娼婦だっていねぇ」
「っひやぅ」
脚を掴まれて男のゴツゴツした手で撫でられる。ゾゾゾっと鳥肌がたつ。
ニヤリと笑いながらこちらを獲物を見るような目で見てくる。
「聖霊っての歩かないのか? 赤ん坊みたいな足だなあ」
「はなせぇ!」
足をジタバタすると思いのほかあっさりと離された。
ベッドの上を後退する。
「あいつを誑かしてる月の聖霊ってのは、もっと肉欲的なのを想像してたんだけど」
「誑かす!?」
男がベッドに乗り上げてくる。
僕の体に覆い被さるようになる。
男の手が伸びる。
「……っ」
何をされるのかと息をのみ目をつぶった。
しかし僕の体には何も触れなかった。
ガタガタと音がする。
「……誑かしただろう。取り潰しになった貴族の孤児だったあいつに、この神の兵法書を与え、戦争の真っ只中に放り込んだ、聖霊って名前の悪魔だろ」
「……えっ」
僕の胸の上に、無くした攻略本が落とされた。
それは少し前になくなったはずなのに、まるで長い間何度も何度も読み込まれたようだ。
孤児。
攻略本。
白銀の髪。
紫の目。
時間の流れの違い。
ヴァジルくん?
「一度だけあいつはこの戦から撤退しようとした」
男が僕の口を大きな手でふさぐ。
先ほどまでの目つきと違い、笑っていない。
暗く恐ろしい目だ。
「それなのに、またお前が現れた。悪魔のキス。あいつにもっと血を流させろと……」
悲しみ苦しむ青年。
悪魔のキス。
聖霊の祝福。
「…………」
今までの夢や白昼夢は全部繋がってる?
この瞬間も含めて壮大な夢?
男の手を振り払う。決して呼吸を阻害されてた訳じゃないのに、息苦しい。
「僕は……何も……」
「そう、ただあいつがお前に惚れて、気に入られようと思っただけ。それに巻き込まれて何万もの人間が死んだんだぜ」
いつもの夢よりもずっと生々しい。
「聖霊ってのは残酷な生き物だよな。それほどまでに、特別で美しく、人の心に入りやすい」
「そんなんじゃ……。聖霊なんてただの役割で……」
僕はただの人間だし、これは僕の夢!
「すべて神様の意志だって? 醜い人間の争いを見飽きたのか? いいぜ俺もその駒の一つで」
「……うぁ!」
髪を掴まれ引き寄せられる。男の目が怒りに燃えてる。
「ただし、最後までちゃんと見守れ…………あいつを死なせるな」
「…………」
「ガイウス! 何してる!」
12
お気に入りに追加
320
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる
すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。
かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。
2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる