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つばめの大学生活
しおりを挟む僕は、東京の大学に合格した。
決してトップクラスではないけれど、私大では中々名前の通った大学だった。
東京の家賃は高くて、まぁまぁ裕福な家とはいえ、親に申し訳なくて、少しでも費用を抑える為に友人、葛西 正一と狭いアパートでプライベートなんて無いシェア生活をしている。二段ベッドを置いたら何もおけず、テレビも無い。
地元だと新築2Kで6万とかあるけど、ここは古い1DKで10万円。半分なら5万円、狭いとか文句言えない。でも、お互い学校とアルバイトに忙しくて、そんなに不便はしていない。住めば都なのだ。3年も一緒に暮せば、もはや正一は、兄弟みたいな感じだ。
「つばめ、今日はカフェでバイトだろう」
昨日のお酒が残っていそうな正一が、抱きついて聞いてきた。
全く……また酔って人の布団に入り込んできたのか。
「酒臭いよ、正一」
その腕を引き剥がして、ベッドから立ち上がった。
「おかしいな、昨日は、少ししか呑んでないぞ」
お客さんの単価がとても高いバーでバーテンダーのバイトをしている正一は、バイト終わりに練習も兼ねて呑んでいるというのだけど…絶対飲みたいだけな気がする。
「程々にしなよ」
「うーん、程々だよぉ。でもさぁ、俺アルコールで眠くなるタイプだし、飲まなきゃ寝られないっていうか~」
正一の言葉に目を見張った。
えっ…正一って、なんでもソツなくニヤニヤ笑いながらこなすタイプだし、そんな真剣に悩んでいると思わなかった。
就活も順調そうで、希望する業種の大手に、ぜひ来て欲しいと言われていたはずでは?
まさか……駄目になったのかな?
それとも、女の子にモテすぎてトラブルとか?
「正一悩みがあるなら……聞かせてよ、力になりたい」
ゴツい指輪のついた手を握った。
「はぁ……お前のそういう所なぁ……愛してるぜぇ」
ため息をついてから、ふざけた様子で僕の手の甲にキスをした。
「ちょっと!」
「あーあ、初恋の金髪美人を今も大好きなピュア童貞には、俺の恋の悩みなんてできねーよ」
正一が、髪を掻き上げるとインカラーしている紫色がよく見えた。
「……ピュア童貞とか言わないで。それに、アレは友達で……」
正一は、僕が大切にしている手紙を見てはブーブーと文句を言っている。
何度も相手は男だ、幼馴染みで親友だと言っているのだけど……。
「友達ねぇ…むかーし、むかし海外にサヨナラして、今までずっと文通……逆に、すごいわ…入り込めない感じ?でもさぁ、きっと会ったらガッカリするアレだぜ」
正一がベッドの上で胡座をかいて、歯を見せて笑っている。
「ガッカリは別にしないよ…」
「いいや!する。だってコッチは写真も送っているし、行事ごとにメールも送るんだろ?それなのに、相手の方は希に帰ってくる手紙だけ、あと、無駄に送られてくるサーモンとカニ……きっと、相手は海産物工場でバイトして食いまくり、ブクブクに太って見る影もなくなって、もうお前には会いたくないと見た!」
確かに、もうケントは僕に興味が無くなって会いたいとか思ってないかもしれない。
でも、僕は今でもケントのことを大切に思っているし会いたい。別にケントがポッチャリしていても構わない。きっとケントの事だから、ぽっちゃりしていても可愛い。いや…ぽっちゃり美人?
とにかく、ケントの外見なんてケントの内面の可愛さの前には、どうでもいい事だから。
「…もー、いいんだよ。いつかきっと、また会える…僕はそう思ってる」
アラスカに旅行するための少しづつ貯金もしているし。
でも、ケントが日本に戻らずアラスカで生活を続ければ……僕たちはどうなるのだろうか。
遠距離の恋愛は、最終的に二人が近くで暮らせるようになるから、続くのだろうか…。
このまま、ずっと離れている友情は、どうなるのだろう。
離れてても、ずっと友達だよとは言うけれど……片思いの友情は……どこかで終わらせるべきなのかな?
「恋愛も友情も近いのが一番だぜ」
正一の目が、珍しく真剣に僕を見ている。
そうだよね、きっとケントの側には、素敵な友達が立っていて、週末なんかは、大きいバイクとかにのってツーリングとかしているかも知れない。地元の海で釣りとかするなら、きっとケントは相手の分も用意してあげてて、軽くて大きなリュックに荷物を一杯つめているに違いない。
ちょっと、寂しい。
「……はぁ……僕、行ってくるね」
ため息をついて、鞄を持って、すぐそこの玄関から出た。
「どんだけ好きなんだよ……まったく」
薄いドアの向こうから、正一のぼやくような声が聞こえた。
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