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いんげん

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不知火編 出会い

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俺は、友達がいない。
別に欲しいと思って、作ろうとした事もない。
一人で十分楽しく過ごしている。

小学校というのは、非常に窮屈でつまらない場所だった。
教えられなくても分かるような問題を、ゆっくりじっくり何度もやらされて、とても退屈だった。しかし、誰も文句も言わず、誰しもが同じような物を持ち、同じような様相をして、同じように過ごしていた。
俺には、みんな同じ人間に見えた。
彼らを見ているのは、頭がバグリそうで嫌だった。
でも、彼らの邪魔をしたいわけでも無いので、学校には殆ど行かなかった。


ただ、三年生になったある日、森で散策をした帰りに、アイツを見かけた。

「ラブ……ちょっと……中まで来すぎたかなぁ…」

木の影から覗くと、クリーム色の大型犬と、サラサラした黒髪の少年がいた。
少年は、大きな瞳を不安そうに動かしてあっちこっちを見ている。
迷ったのか?

「ごめんね…ラブ……道がわからなくなっちゃった…」

少年は泣きそうな顔で、犬をなでている。
なぜだか、彼のことが気になった。

「あっ…見て、ラブ!大きなキノコだ!」
「わん!」

おい…お前!
今、道に迷っているんだろう…。
少年の能天気さに、こちらが心配になった。

「あっ…オニヤンマ!すごいねぇ」

落ち葉を踏みしめて、森の奥へと歩きだす少年に俺は慌てた。
それ以上奥に入って行ったら大変だぞ……何とか少年と犬を散策道に戻さないと。

「ゲホン、ゴホン!」
わざと咳払いをして、音を立てて街へ戻る道へ歩き出した。

「あっ、誰かいる!」
「わん!」

犬が俺の方へと歩き出した。
よし、犬の方が賢そうだ。

俺は、見つから無いように、音と気配で犬を誘導し、もうここまでくれば大丈夫だろうという所で、静かに見守った。

「わーい!良かった、これで帰れるね。でも、誰もいないね……まさか…森の妖精だったとか?あはは、それは無いか。でも、誰だか分からないけど助かったね。どなたかわかりませんが、ありがとうございましたー!」
少年は、森に向かってさけぶと、頭を下げた。
「わん!わおーん!」
犬も飼い主の横で、吠えた。

「……」
なんだあれ?
凄い…アホっぽい……あいつ恥ずかしくないのか?
変な奴。
そう思ったのに、なぜか俺は気分が高揚していて、家まで走って帰った。

その後も、森へ行くたびに、犬を見るたびに、あの少年を思い出して、ふっと笑った。

狭い街だから、学校に行けばあの少年に会えるかと思って、久々に登校した。

「……いた…」

隣のクラスに、アイツが居た。
クラスメイトの輪の中で、ニコニコ楽しそうに笑っていた。

「……」

なんだかちょっと気に食わなくて、次の日からはまた行かなかった。
しかし、四年生になって、学校に行ってみるとアイツと同じクラスになった。
窓際から名前の順に並ぶと、隣の席になった。

なぜか俺の口角がニヤリと上がる。
俺は…嬉しいのか?

「では、明日は忘れずに教科書を持ってきて下さいね」
「先生、さようなら」

おかしい…木ノ下が来ない。

「おい」
俺は前の席の上田に声をかけた。

「な…なな…なに?」
上田は明らかに引きつった顔で俺に向き合った。
小学校の奴らは、みんなこんな感じだ。俺がみんなと全部同じにしないし、アレックスが熊などと戦ったからだろう。でも、うるさい思いをするより良い。

「俺の…隣は…なぜいない」
木ノ下の席を指さして聞いた。

「あっ…ああ、つばめくんは足を怪我して暫く休むって…じゃあ、僕急ぐから!」
上田は、慌ててランドセルを背負って、逃げるように教室から出て行った。
足を怪我?暫く休み?
あの迂闊でフワフワしている少年なら、何もない所でコケて骨を折ってもおかしくない。
しかも、怪我している足で走ったりして悪化させそうな気がする。

「…ちっ」
なぜだかイライラした。
折角会えると思ったのに、勝手に怪我なんかしやがって…まったく…危なっかしい奴だ。
あの犬に四六時中見張らせていた方が良いんじゃないか。


□□□□

木ノ下つばめは、一週間ほどして登校してきた。
一週間過ごしても、誰も話しかけてこなかったのに、アイツは、さっそく俺に馴れ馴れしく話しかけてきた。
木ノ下つばめには、警戒心や心の距離とかは無いのか。
俺と一緒に係をやりたいと言っている。まったく面倒くさい奴だ。


「……眠れない」
その日の夜は何故か気が高ぶって眠れなかった。
あいつのアホみたいな笑顔や触れてきた手…んっ…なんだ…くそっ…体がムズムズする。
「……風邪か?」
まったく調子が狂う。

「……全く何なんだ…」
翌朝、自分の下着に起きた異変に毒を吐いた。


それから、つばめと過ごす事になって…俺は気づかされた。

どうやら…俺は、あのアホが気になって仕方ないのだと。
ゴールデンウィークには、一緒に遊びたいと言われ、本当は良いと言いたかったのに…言えなかった。

仕方なく、いつもの分かれ道で偶然アイツが通らないか待った。

暇で暇でタンポポを抜いて並べたり、ウロウロしたり…もう、帰ろうかと思った頃に、つばめが来て…俺は心の中でガッツポーズをしていた。

家についてからは、アイツは興味深そうにキョロキョロしていた。
そして…俺の事をもっと知りたいとか、抱きついて来たりとか。

まさか…つばめも…俺の事が気になって仕方ないのか…。

「っふ……」

そうか…そういうことか。

それなら仕方ない…もっと仲良くしてやる。








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