9 / 14
不知火編 出会い
しおりを挟む俺は、友達がいない。
別に欲しいと思って、作ろうとした事もない。
一人で十分楽しく過ごしている。
小学校というのは、非常に窮屈でつまらない場所だった。
教えられなくても分かるような問題を、ゆっくりじっくり何度もやらされて、とても退屈だった。しかし、誰も文句も言わず、誰しもが同じような物を持ち、同じような様相をして、同じように過ごしていた。
俺には、みんな同じ人間に見えた。
彼らを見ているのは、頭がバグリそうで嫌だった。
でも、彼らの邪魔をしたいわけでも無いので、学校には殆ど行かなかった。
ただ、三年生になったある日、森で散策をした帰りに、アイツを見かけた。
「ラブ……ちょっと……中まで来すぎたかなぁ…」
木の影から覗くと、クリーム色の大型犬と、サラサラした黒髪の少年がいた。
少年は、大きな瞳を不安そうに動かしてあっちこっちを見ている。
迷ったのか?
「ごめんね…ラブ……道がわからなくなっちゃった…」
少年は泣きそうな顔で、犬をなでている。
なぜだか、彼のことが気になった。
「あっ…見て、ラブ!大きなキノコだ!」
「わん!」
おい…お前!
今、道に迷っているんだろう…。
少年の能天気さに、こちらが心配になった。
「あっ…オニヤンマ!すごいねぇ」
落ち葉を踏みしめて、森の奥へと歩きだす少年に俺は慌てた。
それ以上奥に入って行ったら大変だぞ……何とか少年と犬を散策道に戻さないと。
「ゲホン、ゴホン!」
わざと咳払いをして、音を立てて街へ戻る道へ歩き出した。
「あっ、誰かいる!」
「わん!」
犬が俺の方へと歩き出した。
よし、犬の方が賢そうだ。
俺は、見つから無いように、音と気配で犬を誘導し、もうここまでくれば大丈夫だろうという所で、静かに見守った。
「わーい!良かった、これで帰れるね。でも、誰もいないね……まさか…森の妖精だったとか?あはは、それは無いか。でも、誰だか分からないけど助かったね。どなたかわかりませんが、ありがとうございましたー!」
少年は、森に向かってさけぶと、頭を下げた。
「わん!わおーん!」
犬も飼い主の横で、吠えた。
「……」
なんだあれ?
凄い…アホっぽい……あいつ恥ずかしくないのか?
変な奴。
そう思ったのに、なぜか俺は気分が高揚していて、家まで走って帰った。
その後も、森へ行くたびに、犬を見るたびに、あの少年を思い出して、ふっと笑った。
狭い街だから、学校に行けばあの少年に会えるかと思って、久々に登校した。
「……いた…」
隣のクラスに、アイツが居た。
クラスメイトの輪の中で、ニコニコ楽しそうに笑っていた。
「……」
なんだかちょっと気に食わなくて、次の日からはまた行かなかった。
しかし、四年生になって、学校に行ってみるとアイツと同じクラスになった。
窓際から名前の順に並ぶと、隣の席になった。
なぜか俺の口角がニヤリと上がる。
俺は…嬉しいのか?
「では、明日は忘れずに教科書を持ってきて下さいね」
「先生、さようなら」
おかしい…木ノ下が来ない。
「おい」
俺は前の席の上田に声をかけた。
「な…なな…なに?」
上田は明らかに引きつった顔で俺に向き合った。
小学校の奴らは、みんなこんな感じだ。俺がみんなと全部同じにしないし、アレックスが熊などと戦ったからだろう。でも、うるさい思いをするより良い。
「俺の…隣は…なぜいない」
木ノ下の席を指さして聞いた。
「あっ…ああ、つばめくんは足を怪我して暫く休むって…じゃあ、僕急ぐから!」
上田は、慌ててランドセルを背負って、逃げるように教室から出て行った。
足を怪我?暫く休み?
あの迂闊でフワフワしている少年なら、何もない所でコケて骨を折ってもおかしくない。
しかも、怪我している足で走ったりして悪化させそうな気がする。
「…ちっ」
なぜだかイライラした。
折角会えると思ったのに、勝手に怪我なんかしやがって…まったく…危なっかしい奴だ。
あの犬に四六時中見張らせていた方が良いんじゃないか。
□□□□
木ノ下つばめは、一週間ほどして登校してきた。
一週間過ごしても、誰も話しかけてこなかったのに、アイツは、さっそく俺に馴れ馴れしく話しかけてきた。
木ノ下つばめには、警戒心や心の距離とかは無いのか。
俺と一緒に係をやりたいと言っている。まったく面倒くさい奴だ。
「……眠れない」
その日の夜は何故か気が高ぶって眠れなかった。
あいつのアホみたいな笑顔や触れてきた手…んっ…なんだ…くそっ…体がムズムズする。
「……風邪か?」
まったく調子が狂う。
「……全く何なんだ…」
翌朝、自分の下着に起きた異変に毒を吐いた。
それから、つばめと過ごす事になって…俺は気づかされた。
どうやら…俺は、あのアホが気になって仕方ないのだと。
ゴールデンウィークには、一緒に遊びたいと言われ、本当は良いと言いたかったのに…言えなかった。
仕方なく、いつもの分かれ道で偶然アイツが通らないか待った。
暇で暇でタンポポを抜いて並べたり、ウロウロしたり…もう、帰ろうかと思った頃に、つばめが来て…俺は心の中でガッツポーズをしていた。
家についてからは、アイツは興味深そうにキョロキョロしていた。
そして…俺の事をもっと知りたいとか、抱きついて来たりとか。
まさか…つばめも…俺の事が気になって仕方ないのか…。
「っふ……」
そうか…そういうことか。
それなら仕方ない…もっと仲良くしてやる。
10
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる