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ヒーローになる!
しおりを挟むあれから、僕らは病院へ行き、ラブは動物病院に行った。
「つばめ…息は苦しくないか…怪我しているところは?」
と、不知火くんは僕の事を凄く心配してくれて、いつもより饒舌になっていた。
診察の結果ラブの爪による、かすり傷程度だと分かると凄くほっとしていた。
結局、ラブも僕も不知火くんも大きな怪我もなく、お家に帰れた。
でも、なぜか…
僕が知らないうちに
『チンピラ風情の若者たちが、酒に酔って子供と犬を海に突き落とし、仲間内で喧嘩したあげく、事故を起こして逃走した』
そういう事件になっていた。
目撃者も、いっぱい居るらしい。
「なんだか、間違っている気がするんだけど…警察の人に言いに行った方が良いかなぁ?」
次の日、お見舞いに来てくれた不知火くんに話をした。
僕は元気で遊びに行きたかったけれど、両親が心配して今日は大人しくしていなさいと…。昨日はとっても心配させてしまったから逆らえなかった。
「…アレックスが大暴れしたって?」
アレックスとは、不知火くんのお父様のことだ。
昨日、病院で改めて自己紹介をしてくれた。ママはサラさんだ。
「えっと…」
アレックスさんは、僕とラブを助けてくれたヒーローだ。
彼が不利になるような事はしたくない。
「やっぱり黙ってる!誰にも言わない。だってアレックスさんがいなかったら、僕もラブも不知火くんもどうなっていたか……格好いいよね、アレックスさん!本物のヒーローみたいだった!」
僕は、助けに来てくれたアレックスさんの姿を思い出して、目を輝かせて不知火くんの手を握った。
「べつに…」
不知火くんは、なんだか不機嫌だ。
自分のお父様を褒められて恥ずかしいのだろうか?
「格好よかったよ!僕らを軽々抱き上げたし、お兄さんたちも、あっという間にやっつけちゃった。凄く怖かったけど、アレックスさんが来たら、あぁ…もう大丈夫って思えたもん、凄い憧れちゃうなぁ、皆がヒーローのことが好きになるのがよく分かったよ」
「……」
不知火くんの目が…半目になっている。
ど…どうしたのだろう…なんか、プルプル震えている。
「…てやる…」
「え?」
「俺は……今回、何の役にも立たなかった!お前もラブも守れず…情けなかった…」
不知火くんが、僕の肩を掴んで苦しそうに話した。
「そんな…僕だって何も出来なかったよ……しょうがないよ…僕たち子供だし…」
僕は、不知火くんを慰めるように抱きしめた。
「嫌だ…俺は……こんなの嫌だ……俺は、アレックスを超える!俺は、お前のヒーローになる!」
「し…不知火くん?」
ちょっと不知火くんの言っている事が分からない。
僕のヒーロー?なんで?
アレックスさんを越えたいっていうのは、父親より凄い人になりたいっていう事だろうけど…。
友達を助けられる人間になりたいって事?
「……待っててくれ…」
「う…うん、僕も不知火くんのヒーローになる!」
僕らは、硬く手を握りしめ誓った。
なんだか、戦隊ものの親友同士みたいで、僕はとってもワクワク、ドキドキした。
□□□□
そんな小学生時代は、あっという間に過ぎ去った。
僕らは、自他共に認める親友になった。
ケントは、中学に入って背が伸びるスピードが高まり、僕を超したけれど、上に栄養が取られて細く…まるで海外の美人モデルのような美しさだった。
なんていうのかな…ゲームとかの、エルフっぽい感じ?
恐れられていた小学生時代と違い、それはそれは女の子に人気だった。
しかし美しすぎるし、僕以外には全然友好的ではない塩対応なので、離れた所からキャーキャー言われて鑑賞されている。
そんな美形がずっと側にいる僕の審美眼は、ケントが基準になってしまい、テレビの中のアイドルや女優さんも、ちっとも綺麗とか可愛いと思えなかった。
「おはよう、ケント。今日も素敵だね」
「……」
「ラブ、行ってきます」
「わん!」
素直な気持ちを言葉にして、朝の挨拶を交わすと大抵はムスッと無言で睨まれた。
ケントは、僕よりも早い思春期というものなのかな?中学2年生にもなると、周囲の友達も声がグッと低くなったり、うっすら髭が出てきたりする子も居て…僕らも段々大人になっていくのかなぁと感じる。
「ケント、今年の夏休みはアメリカに行くの?」
「…半分だけ日本にいる」
「そうなんだ、じゃあ、たくさん遊べるね」
ここ数年は長期の休みになると、武者修行とか言って、アレックスさんの方に滞在しに行っていたから寂しかった。
「…遊ばない」
「えっ…なんで?」
「こっちの事を片付けて、八月の中頃からアメリカで暮らす」
「ええええ!」
突然のお知らせに、僕は歩く足を止めた。
「それって…それって……もう会えなくなっちゃうの?」
「…違う」
1年くらい向こうで暮らすってことかな?
そういえば、大人になるまでに国籍を選ぶんだっけ?
ケントが居なくなるなんて…凄く、凄く寂しくて…嫌だなぁ。ケントの人生だから僕が口を出すことは出来ないけれど。
あまりの衝撃と寂しさに、涙が浮かんで来る。
「…帰ってくる……一人前になって……お前の所に」
「本当?また一緒に遊んだり出来る?」
僕は、ケントが何処かへ行ってしまいそうで、彼の肘を掴んだ。
「…ああ、俺は立派なヒーローになる…」
「…っぷ……あはは……そうだね、約束だもんね」
ケントが繰り出してきたジョークに、僕はまんまと笑った。
子供の頃の約束、まだ覚えていたんだ。嬉しいな。
「……待っていてくれるだろ?」
「もちろん!」
僕は戦隊ヒーローのように、ケントの胸板に軽くパンチをした。
うん、拳が痛い。ケント……見た目より鍛えてるね。
よし、僕もケントが居ない間、勉強も運動も、色々と頑張って立派なケントのヒーローになる!
あの時の誓いは、忘れていない。
実際、僕なりに頑張って、地域で一番の高校に入った。スポーツは頑張っても、それなりにしかならなかったけど…弓道で県大会まで出場できた。
その時の写真を送った手紙、返信が3ヶ月後だったの事に……僕への関心は薄れちゃったかな…と凹んだ。
そもそも、パソコンも携帯も持っているのに、なぜか手紙しか返って来ない。
アメリカで、僕よりも楽しく過ごせる素敵な友達が出来たのかもしれない。
だってケントは、あんなに綺麗で可愛くて、一緒に過ごすと楽しくて、献身的で、側にいる友人は…ハマっちゃうんだ。
きっと……今頃は、背が高くて、ハンサムで高校生ながら車とか華麗に乗りこなしちゃう男の子と親友になって、オープンカーに美女を乗せてサングラスをかけて走っているんだ。
僕は想像のケントと、鏡に映る自分の姿の差に、ため息をついた。
まぁまぁ整った顔立ちで、ケントが側に居ないと女の子たちも、最高級ランクの比較対象がいなくなったから、木ノ下くん素敵とか、可愛いとか?綺麗とか言ってくれるけど…僕は、知っている。それは、あくまで田舎の中ではなのだ。
ケント隣に立てる、ワールドワイドなレベルでは無いのだ。
会えなくなって数年経った今は、僕の記憶よりも大人びただろうケントは、僕の想像を超えて……もう…精霊とか天使長レベルの美しさになっているのかもしれない。
時間がかかって返ってくる返事は、今も優しいケントの気遣いなんだ。
「……もう会えなのかな」
ケントのお家は、僕から会いに行ける距離では無かった。
アメリカのアラスカ州の島は、遠すぎるしお金がかかり過ぎた。大人になって働くようになれば…と思うけど…それまでケントが僕を覚えてくれているか…。
沈む気持ちに蓋をして、専用のお手紙ケースに手紙をもどした。
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