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ヒーローの成敗はバイオレンス
しおりを挟む絶体絶命の僕らの前に…ヒーローが現れた。
「Dad!」
防波堤にしゃがみ込んだ、不知火くんのお父様が、僕らに太く大きな腕を伸ばした。
その姿は、まさに外国映画のヒーローのようだった。発達した筋肉に覆われた傷だらけの厚い体、強面だけど優しく微笑む顔。
「もう大丈夫だ」
不知火くんお父様が、僕らをまとめて引き上げた。
子供二人を軽々と。
「……」
ざばざばっと海水がコンクリートに滴った。
「よく頑張ったな」
ヒーローが、引き上げた僕らを優しく抱きしめた。
陸地に戻って来たけど、足に力が入らない僕は、しゃがんでいる彼の太い足の上に倒れ込んで、その胸にもたれた。厚い胸板が、とっても硬い。
「つばめっ!つばめ!」
後ろで不知火くんが心配そうに叫んでいる。
「…っく…ひく……ラブ…ラブを助けてぇ」
僕が泣きながら、不知火くんのお父様の胸にしがみつくと、ヒーローは目尻に皺を作り笑うと、頷いた。
「もちろん、でも、キミのラブは、泳げるようになった」
お父様の指差す先を見ると、ラブが犬かきで防波堤のすぐ下まで来ていた。
「わん!」
元気そうな姿に僕の全身の力が抜けた。
良かった…良かったよ……
ひく、ひくと涙と嗚咽が止まらない。
「つばめ…」
不知火くんに抱き寄せられて、お父様の上からどかされると、ヒーローは今度はラブを引き上げてくれた。
ラブは、しっかりと立って、思いっきりブルブルをして周囲に海水を撒き散らした。
そして僕の側に駆け寄ると、不知火くんの胸で泣く僕の頬をベロベロと舐めた。
僕は、安心したのと、怖かったのと、頭の中がグチャグチャになって、もっと小さな子供のように大きく泣き出した。
「うぁぁあん……う……えっ……うぇえん……良かったよぉ……ラブ……不知火くん……うわぁぁん……怖かったよ…」
二人が死んじゃうかと思った!
怖かった……僕が想像もしなかった、人の悪意も怖かった。
「つばめ……もう大丈夫……ごめん」
不知火くんの僕を抱きしめる腕も、ブルブルと震えていた。でもその拳は凄く力強く握られていた。
「さて……Fuc※※※ ※※!」
明らかに自分たちより強そうな、不知火くんのお父様の登場に、引いている男たちに向かって、ヒーローが何か叫んだけれど、僕の耳は不知火くんに塞がれて、聞こえなくなった。
「※※※!」
不知火くんのお父様は、一番近くにいた坊主の男を掴んで、殴った。
僕は、驚いて体をビクリと弾ませた。
お父様はすかさず、倒れそうな坊主を引き起こして、反対側の顔を殴った。
男の口から血と共に、白い歯みたいな物がいくつか弾け飛んだ。
圧倒的な体格差と、力の差で男は全く抵抗も出来ず、あっちこっち殴られて、最後は海に投げ入れられた。
そして次は、逃げ出す半分金髪の首根っこを掴み、引き倒した。
僕が、怖くなって震えだすと不知火くんは、僕に見えないように頭を、全部抱え込んだ。
時々、聞こえてくる男たちの断末魔の叫びと、聞き取れない英語。
「くそ……俺が殺りたかった……」
耳元で不知火くんが、呟いた言葉は気のせいだろうか…。
□□□□
不知火くんの腕が、僕の頭から外れた頃……防波堤は血みどろで、海水も混ざり、歯が浮かんでいた。
「次来たら……殺す…正解!」
不知火くんのお父様は、ピアスの男を黒いワンボックスカーに投げ入れると、車体を蹴り上げた。なぜか車の助手席のドアが取れかかっている。
「ひいいいい!早く出せ!」
ボロボロの男たちが、車を急発進させて、逃げていく。
すると近くに財布が落ちている事に気がついた不知火くんが、それを拾い上げ、お金をその場に捨てて、財布を戻って来たお父様に投げつけた。
えっ…それって……どう……するの…?
お父様は、財布をポケットにしまい。
「Oh……ツバメさん……大丈夫ですか……とっても心配……すぐ病院へ行きましょう」
と、膝から崩れ落ちて、僕らを抱きしめた。
僕は、一瞬固まった。
うん……あれは……成敗だよね…はは……あんこパンマンだって、ヒーロー戦隊だって、スーパーメンだって悪と戦うもん。
今のは……怖くない!……怖くないよ。
「助けてくれて……ありがとうございます」
僕は、返り血が一切ついていない不知火くんのお父様に抱きついた。
「わおぉ……これが……Kawaii!」
不知火くんのお父様は、僕に抱きつかれた状態で右腕の拳をあげた。
『ちょっと、アナタ!アイツら逃して良いの?あと5本くらい骨折って、眉毛生えないように傷くらいつけないと!』
どこからか、不知火くんのお母様が走り寄ってきた。
何か興奮気味に英語で喋っている。
『ハニー、とりあえず泳がしただけだよ。まずはこの子を病院へ連れて行かなきゃ』
『それもそうね。スマホ忘れて写真取れなかったから、とりあえず、ナンバープレートは剥がして貰っておいたわ。中にあった鞄とかも押収しといた』
『母さん、早く車回して来て…』
不知火くん家族が何か話してる…。
僕にはわからないので、首をかしげて腕から抜け出して、ラブの首に抱きついた。
「ラブ、大丈夫?怖い思いさせてごめんね……良かった」
「わん!」
『Kawaii…愛らしい……彼は、プリンセスなのかい』
『父さん……本人に言ったら、嫌われるよ』
『……それは嫌だ』
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