初恋Crab 可愛い君は今マッチョ

いんげん

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よろしくね。

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僕らの出会いは、いつの頃だっただろうか?

そう…確か…あれは、15年前、小学生の頃だった。


「彼が来たんだ」
新学期早々に習っていた体操教室で、足を捻挫した僕は、母の心配性もあって新しいクラスになって一週間ほど学校を休んでいた。

僕の席はクラスの一番後ろの窓際だと聞いている。
そして、その隣は殆ど空席なはずだった。

その席の主は、いわゆる不登校とは、少し違う。

自由に登校する少年の席だ。

ひと学年2クラスしかないけど、4年生まで一緒になったことが無かった、不知火くん。

彼の席に、ビニール袋がかかっていた。

不知火くんは、みんなが布の上履き袋を使う中、学校で、ただ一人コンビのエイトイレブンの袋にビーチサンダルを入れてくる、とても変わった少年だった。

その席を見つめていると、前の席の上田くんが、立ち上がって僕に近寄り話しかけた。
「そうなんだよ!ツバメくん…アイツ去年は殆ど来なかったけど、このクラスになってから毎日来てるんだよ…」
「へぇ…そうなんだ…で、不知火くんは?」
「なんか…先生に呼び出されて行っちゃったよ……アイツなにやったんだろうね」
彼の問いに僕は、困ったように首をかしげた。


色々と、みんなと違う不知火くんは、完全に学校で浮いた存在だった。
別に彼の言動が荒っぽいとか、授業を妨害したりするわけではない。

ただ、とにかく周囲は怖がっているんだと思う。異質な存在を。

「…俺、最初の日に、隣の席の奴はどうしたって聞かれたんだ…ツバメくんって不知火と実は仲いいの?」
「…ううん…一言も話したこと無いけど…」
僕はランドセルの中から、教科書を取り出しながら答えた。
「そっか…あっ!」
上田くんが、教室の入り口から入ってくる不知火くんに気づくと、慌てて着席して前を向いた。
まだ肌寒い日も多い春なのに、Tシャツと短パン、さらにはビーチサンダル姿の不知火くんが歩いてくる。

「…」
この街で有名な彼のお父さん譲りの金髪の髪の毛がサラサラと揺れている。
剥き出しになっている手足は、真っ白で日本人の遺伝子とは違う。
不知火くんのお父様は、一年にひと季節くらい、この街に滞在するのだけど…とにかく目立つ。
2メートルくらいありそうな、大きな背に…ハリウッド映画のヒーローみたいな逆三角形の鋼の肉体。傷だらけの顔や腕。
田舎では見かけない、タトゥー。

買い物で見かけるお父様は、とにかく声が大きくて…カートを2台くらい満タンにして、買った荷物を担いで歩いている。

2年前…山から下りてきた熊が現れたとき、お父様が「AHAHAHAHaaaa!」と笑いながら戦い熊を生け捕りにした時は、街中の人々が戦慄した。

そして、不知火くんのお母さんも、変わった人だ。
女冒険家と名乗り、世界各国、日本中を飛び回っているらしい。

不知火くん自身も、とても変わっている。
海岸で一人、本格的な木の船を作っていたり…山に住む変わり者のお爺さんと木を切り倒して、丸太小屋を作っているとか…。
学校には、気が向くと登校するらしい…。

この頃登校しているのは、気が乗っているからなのだろうか?

僕は、席までやってきた不知火くんに向き合った。

「おはよう、不知火くん。木ノ下だよ、よろしくね」

微笑んで挨拶をすると、不知火くんは少し目を見張った。
アレ?遠目で見るより…なんか…凄く可愛い!

無造作に伸びた、長い前髪とおかっぱ頭が印象強くて、顔までちゃんと見てなかった。

「あぁ……」

ムスッと席に座った不知火くんからは、フローラルなボディソープの匂いがした。

勝手に不衛生なイメージあったけど…本物は違った。
罪悪感が胸に広がる。

「一学期は、ずっと一緒だね」
「……」
「ツバメって呼んでね」
僕のことを無視しているのか、不知火くんは机を睨んでいる。

「僕、一週間も休んでて…良くわからない事があったら教えてね」
不知火くんの細い肩に、そっと手を置いたら、彼の体がビクッと上がった。

熊を倒す男の子供は……華奢で可愛かった。

長い金色のまつ毛に縁取られた、濃い緑色の瞳。
筋の通った鼻。形の良い薄い唇。

今まで見たことないくらいの美少女だ。

僕の胸は、ドキンと高鳴った。

「……これ……出してないのは、俺たちだけだって」

美少女の口から出る、俺は…逆に可愛い。

不知火くんポケットから、ぐちゃぐちゃに畳まれたプリントが2枚出てきた。
カサカサと開いてみると…。

「4年2組 きぼうする係、アンケートか……ねぇ、不知火くん、一緒にやらない?」
僕は椅子を不知火くんに近づけた。
「……やだ」
不知火くんが、プイっと反対を向いた。
なんだろう…相手にされないのが、面白い。

今まで僕は、そこそこ裕福な家に生まれ、容姿にも恵まれ、運動も勉強も常にトップクラスで、クラスの中心だった。
誰に声をかけても、みんな喜んで応えてくれた。

「仕事は僕がやるよ。だからその間、お話しよう、ね、駄目かな」

不知火くんの握り締めた手に、僕の手を重ねた。

「………ふん!」
不知火くんが、僕の手を振り払って机の中からボールペンを取り出した。
みんなが決められた鉛筆を使うのに、ボールペンって…変わってる。
面白いかも。


不知火くんは、ボールペンで記名欄だけ記入すると、紙を僕の机に置いた。

「不知火くん……なにもやらないの?」
まぁ、クラスのみんなは、不知火くんが係をやる方が驚くだろうけど。
「……お前が……お前が…」
「?」
「お前が…勝手に書け!Underwood
!」
不知火くんが、教科書を出してソレに顔を埋めた。
それは…3年生の教科書だ。

「ふふ……そっか、アンダーウッドって木ノ下だからか!じゃあ書いて出しておくね」

可愛い!
これがテレビで言ってたツンデレ萌ってやつかなぁ?
凄く可愛い。

僕はクスクス笑いながら、二人分のプリントを書き込んだ。

二人っきりになれる役割は…。






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