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番外編 ワンワン日記
しおりを挟む私、犬飼博文の朝は早い。
昨日は金曜日で、蛍が我が家に宿泊をしてくれた。
もちろん、寝室は別だ。
蛍と、おつ…おつ…お付き合いを始めて、蛍の寝室を用意した。
いつかは一緒に眠りたいが、今は駄目だ。
私の理性が崩壊する。
なぜなら、交際を初めて2ヶ月経ったが、蛍は未だに…セックスを勘違いしている。
あの、悩殺…尻しごき……おっと、失礼、下品だったな。
あの卑猥な臀部を使った陰茎刺激を、セックスだと思っているのだ。
「言えない……私には……言えない」
ペニスを、蛍のお尻に入れたいなどと言ってはならない。
見に余る幸せは、己を崩壊させかねない。
大人しく、蛍の与えてくれる快楽を享受するのだ。
ピピピ…
おっと蛍の朝食が焦げてしまう。
コレを、仕上げたら、私の一番楽しみな時間だ。
□□□
コンコン、コン
蛍の寝室を、控えめにノックをした。
起こしに来てはいるが、すぐに起きてしまっては残念なので、蛍が起きない程度にする。
「蛍、起きたかい?」
起きていない事を承知で言った。
ドアを開けると、蛍の匂いに包まれた。
あぁ…幸せだ…。
顔が緩むのを抑えられず、微笑みながら近づいた。
蛍が寝ている。
口が少し開き、子供みたいな顔をして、枕に顔をつけて、すやすや寝ている。柔らかい茶色の毛に寝癖がついている。
かわいい…なんて、かわいいんだ…。
私は、胸から沸き起こる愛しさに震えた。
「蛍…」
衝動のままに、顔を近づけ、蛍の前髪に鼻を寄せた。
堪らない!!
蛍の匂いを堪能してから、一度顔を離し蛍の頭を撫でた。
あぁ…触れるだけで、なぜこんなに満たされるのか……。
「んー」
蛍が眉を顰めて、寝返りをうった。
上向きに変わった蛍。
「…ぃ…ぬがい…」
蛍が……私の名前を寝言で呟いた!!
私は感動を味わうと共に、蛍の下半身に目が行ってしまった自分を懺悔したい。
ふっくらと盛り上がる蛍のペニス。
うっすら漂う精の匂い。
しまった…昨日の夜、蛍が寝てから散々だしたのに、また己の醜い欲望が…。
「……っく」
私は、自分の欲望を抑えるために、蛍が私を捨てて渋谷を可愛がる妄想をした。
蛍に乗りかかり腰を振る渋谷…
蛍の顔を舐め回す渋谷…
蛍の膝枕で甘える渋谷…
あぁ…許せない。たとえ妄想でも許せない!!
怒りがヒートアップして、欲望値が下がりペニスが落ちついた。
「…ふぅ」
気を取り直して、眼鏡を直し、蛍の掛けている薄い毛布を捲った。
「……んっ……ぬがい……寒い…」
蛍がまだ眠ったまま、私に文句を言った。私にだ!
つい頬が緩む。
そして、主人に寒い想いをさせてはならない、と蛍の隣に寝そべって、その体を抱きしめた。
あぁ……生まれてきて良かった。
□□□
ヴヴヴ…
私が息を殺して、蛍の温もりを楽しむこと早、5分。
枕元に落ちている、蛍のスマフォがラインのメッセージを表示した。
「……駄犬め」
それは忌まわしき駄犬、渋谷からだった。
あの駄犬は、私と蛍が恋人となってからも、蛍の側を離れようとしない。
あまつさえ、「蛍さまは、恋人が出来たら、飼い犬が邪魔になって捨てる人間なんですか!!」と嘘泣きで蛍の同情を誘い、ほだされてしまった蛍が「そんなことしない!!」と犬としての存在を容認してしまった。
あの後の私への、渋谷の捨て台詞は酷かった。
「あんたみたいな神経質な貴族さまは、きっと早死にするから、俺のターンは直ぐに来ると思うよ。ほら、居なくなった犬の悲しみは、新しい可愛い犬でって世の中のセオリーだろ」
っと、あの腹黒、アザと駄犬め…。
私は、何としても蛍より長生きしてみせる!年老いた蛍を看取ってから、名犬パトラーンシュのように蛍の骸を抱いて天に昇るのだ。
私は、蛍のスマホを手に取り、「おはようございます、蛍さま」との渋谷の無駄なメールに「一生、目覚めるな」と返して電源を切った。
「ん…あれ? おはよう…犬飼…」
私が無駄な時間を過ごしていると、目が覚めた蛍が私を抱きしめ返してきた。
くっ…あぁ…全てが愛しい!
蛍が可愛くて死にそうだ。
「…おはよう、蛍。よく眠れたかい?」
なんとか顔の表情を保って蛍に笑いかけた。
「うん。犬飼が一緒に寝てくれないのは寂しかったけどね」
蛍が私の胸に顔をすり寄せて言った。
「……」
一緒には…寝られないのだ…。
あの地獄の兜合わせと、尻扱きの攻撃を受けて、そのまま寝ることは出来ない…。
シャワーを浴びると言って退出し、風呂場で馬鹿みたいにペニスを扱き、欲望をなだめ戻ると、蛍は寝てしまっているので、その体を清め、布団に寝かし……また抜いてから眠るのだ。
あぁ…私は何て醜い獣なのか…。
□□□
私は、蛍と恋人になってから、大学への登校日を減らした。
アイツ自体が信用ならない所はあるが、身体能力が人間離れした渋谷と蛍のガードを分担しつつ、今は蛍のお父様に気に入られようと、蛍のお父様とも仕事をしている。
そこで顔見知りになった、蛍の叔父さん…昴さんに今日、とんでもない話をされた。
「蛍の中から、君のマーキングの匂いが全然しないんだけど……アナルセックスしてないの?」
「……は?」
思わず手にしていた紅茶を零さなかった自分を褒めたい。
昼下がりの社長室で、話題がアナルセックス。
しかも、今は不在だが蛍の父親の社長室だぞ、ここは。
「思わず昨日、蛍にセックスについて講義しちゃったよ、はははは…これで、本当に結ばれることが出来そうだよね!あぁ…私は、何て天使でキューピットなんだ!!良い叔父さんだなぁ」
昴さんが、社長室にあるお菓子をバクバク食べながら笑っている。
「えっ…いま…何と……」
私の手の中の紅茶のカップが、カタカタと揺れている。
私はカップを応接テーブルに置いた。
「だから、絵に描いて教えてあげたんだよ、蛍のお尻に、君の欲望…欲棒…ふふふ…を入れたり出したりするんだよって…」
ガタン
動揺して組んだ足が応接テーブルに当たった。
「……なっ…何てことを…」
私は激しく狼狽した。
なぜなら、蛍が…アナルセックスを理解したのなら、かならず試みようとするはずだし……そうなったら、どんな事態が巻き起こるか……全くの予測不可能だからだ!
あの…あの蛍だ。
可愛い、愛する蛍だが……若干、暴走の気質がある…ハプニング体質の蛍だ。
不安で頭が痛く、期待でペニスが痛い。
その日、私はつまらないミスを連発し、お義父様に体調不良を心配され、早々に返された。
□□□
夕方、蛍からラインが来た。
『犬飼、体調悪いんだって?ちょっと相談したいことがあったんだけど……今度にするね。お見舞いに行ってもいい?』
相談したいこと…
元気な時でないとできない、相談したいこと…
「くああああぁぁ」
私は、心頭を滅却するために冷水シャワーを浴びながら吐精し、本当に数日間寝込んで、蛍と阿久津と渋谷に、代わる代わる看病される不名誉を被った。
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