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首輪物語
しおりを挟む「ちょっと!邪魔しないでくれません!」
渋谷が立ち上がり、犬飼を睨みつけた。
「それは、こちらの台詞だ」
犬飼が眼鏡を押し上げて、一歩渋谷に近づいた。
なんだか、ガルルルルって聞こえてきそう。
っというか、渋谷の凄い変わりようを見ていると、やはり犬飼は愛犬化して無いように思う。
うーーん、これはしばらく渋谷も観察して、どうにかしてあげないと…。
「で、蛍さまは、どっちと学校に行きますか!」
ぼーと考え事をしていると、渋谷に聞かれた。
「えっ…どっちって…」
「もちろん私と車で行く」
犬飼が僕の背に手を当てて、車へ誘導しようとする。
「蛍さま!俺とバス乗りましょう。おすすめのお菓子買ってきました。ベンチでバス待ちながら食べましょう」
渋谷が、僕の腕にしがみついた。
渋谷…意外と腕に筋肉あるね…。
「一人で走って行け駄犬!」
犬飼がムキになっている…意外だ。
犬飼って凄く大人びていて、落ち着いて…凄いなぁと思っていたけれど、年相応の犬飼も可愛いかも。
二人は、いい友達になれるのでは?
「今日は、一緒に行こうよ。ね、犬飼。渋谷も乗せて」
手を合わせて犬飼にお願いした。
「……」
険しかった犬飼の顔が無になった。
サラサラと美しい黒い前髪が風に吹かれている。
「駄目かな…」
じっと犬飼の顔を見つめた。
犬飼の車だから無理は言えない。
「し…仕方ないな。蛍の頼みだからな」
いつもは美しい所作の犬飼が、忙しなく動いて、ドアを開けてくれた。
「お邪魔しまーす」
「貴様!なぜ先に乗る」
開いたドアに滑り込むように乗車した渋谷。
「まぁまぁ、犬飼。落ち着いて」
僕は、渋谷に続いてシートに腰掛けた。
本来なら、先に犬飼を乗せるべきだけど…渋谷を見張らないと!
「うわぁ、クソ金持ちじゃん犬っち!シート白とか普通しなくない?ツルツル!」
渋谷が犬飼の車の車内をキョロキョロ見ている。犬っち…。
「専属運転手とか初めて見たし!俺、少庶民だから世界観違うわぁ」
確かに犬飼の世界線は、僕とも違う。
「静かにしたまえ」
犬飼が僕の隣に座ると、運転手さんがドアを閉めた。
後部座席が広いおかげで、三人座っても、ぎゅうぎゅうではない。
「蛍の鞄、俺が持つよ」
渋谷が、僕の膝の上のトートバックを掠めとった。
「返しなさい…はっ…すまない蛍!」
渋谷から鞄を取り戻す為に、身を乗り出した犬飼だったが、僕の上に覆いかぶさる体勢になり…慌てて戻った。
すると、引っ張り合いをされた鞄から、ポロリと首輪が落ちた。
僕の膝の上に、現れた赤い首輪に二人が注目する。
「「?!」」
正直、僕は焦った。
だって、大学へ行くのに鞄に首輪を入れているだなんて、普通じゃない。明らかに変だ。
叔父さんに言われるがまま持ってきてしまった僕は、馬鹿だ。
「ほ…ほたる…それは…まさか…クビ…クビ…首輪かい」
眼鏡をおさえる犬飼の指がカタカタと振動している。
まずい…僕、変な人だと思われて警戒されている?
「えっと…あの……そう!犬、犬を飼うのに興味があって!」
渋谷の膝の上の鞄から、チワワの本を取り出した。
「……小型犬…」
「えっ?」
犬飼、何その絶望顔!
どうしたの?
まさか…猫アレルギー以外に、犬アレルギーもあるの?
「蛍さま…俺の為に…もう首輪まで!!ありがとうございます!!」
突然僕の手をとって、涙を流しお礼をいう渋谷。
「えっ…ちょっと…なに…渋谷」
「だって、俺の為ですよね!俺を飼ってくれるんですよね! 大丈夫です、俺、庶民なんで、そのお犬様と違って、特別な飼い方いらないです!」
なんて事だろう…呪いが発動している。
とても恐ろしい事態だ。
ちらりと犬飼を見ると、完全に石像化している。間違いなく引いているのだ…。
「に…人間を飼うわけ無いだろう。落ち着け、渋谷」
「俺は、人間だけど、蛍さまの犬です!!」
ワン!と言って敬礼ポーズをとる渋谷は、アイドルのようにカワイイけれど、やばい。愛犬化が深刻だ。
「蛍…その駄犬は放っておけ。それよりも、この首輪と本は預かっておく。動物は、そんな気軽に飼って良いものではない」
犬飼が僕の本と首輪を、自分の鞄にしまった。
「おおおおおい!!何勝手に俺の首輪を奪ってるんだ!」
犬飼に掴みかかろうとする渋谷。
うるさい。車内だからとてもうるさい。
「お座り!」
試しに言ってみた。
「わん!」
すると、渋谷は直ちにキチンと座り直した。
心なしか、犬飼の姿勢もいつもより良いような…気のせいか。
「確かに犬飼の言う通りだ。犬は辞めておくよ」
そう言うと、渋谷は唇をぎゅーと噛み締めて、何か言いたそうな切ない顔をしていた。
なんとなく、つい可哀想で頭をポンポン撫でると、満面の笑みで喜んだ。
渋谷…愛犬化100%っぽいけれど…まさか、家では、渋谷のワオーンがワオーンしているの?!
いや…まさかね、きっと渋谷はまだ、子犬くらいの感じだよ、きっと…たぶん……絶対!
「……」
ん?何だか犬飼の方の座席、凄い冷気だけど、クーラー壊れてる?
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