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第2章 弁護士になって

8、恐れていた追手

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俺の名前は大杉緑である。今回も俺のまさかの話になるから、俺の個人的な紹介は省く。

梅と逃避行をした俺は吉祥寺の旅館で過ごしていた。
2人とも、ああ、この時間がずっと続けまいいなと思っていた。
しかし、それもできないことはわかっていた。

俺は回らない頭の中で、どうにか梅を離婚させて女房にできないかとも思った。
この時、サチのことはすっかり忘れていた。

「あの、お客様。」
旅館の女中が、ドアをノックした。
「どうした?」
「あの、大杉さんという方にお客様が。この部屋に通しても」
「いや、一階の応接間に行く。」

嫌な予感はした。
でも俺は不安な顔をしないように努力した。梅が震えていたからだ。

「梅、大丈夫だ。」
「何が?だって」
「大丈夫なことは大丈夫だ。俺は弁護士だぞ。」
「でも、」
「ちょっと、一階に行ってくる。」

俺は部屋の鍵をきちんとかけ、一階の応接間に行った。

そこには見知らぬ、スラッとした年上の男性が腰掛けていた。
「あなたですね、大杉緑というのは。」
「急に、自己紹介もしないで人の名前を言うんですね。」
腹立った。
「まあ、かけましょう。」
そいつのペースに飲まれている。しかし、俺は座った。

「俺にどう言うご用件で?」
「あなたが私の妻といると言うのはもう知っています。今回のことは知る人は少ない。だから、引き渡して欲しいんです。」
「あんたが梅の旦那か?」
「口が悪いんですね。そう、パートナーですよ。」
そいつが言ったパートナーという言葉が気持ち悪かった。
本当のパートナーは俺だと言ってやりたかった。

「あなた、弁護士でしょ。」
「ああ、だからどうしたっていうんだ。」
「姦通罪、それは十分ご存じで?」
「わかっている。」
「僕が、あなたを訴えて、勝訴することは簡単だ。」
「そんなことしたら梅は立ち直れない。」
「そう。だから、今日のことは穏便にして、彼女を僕は連れ帰りたいんですよ。」
「あんたが彼女を縛ってるんじゃないのか。」
「僕は誰も縛ったりしない。自由は誰のものであっても持つべきですしね。」
「なら、もう梅を解放したほうが。」
「梅が、解放して欲しいって言ったのか?」

急に、強い口調で言われた。
鋭い眼光だった。
「いや、でも、俺と。」
「梅は梅の生活がある。君と駆け落ちして何か世間にもいいことはないんですよ。」

言い返せなかった。
そして、俺は保身を考え始めていた。

「じゃあ、わかった。呼んでくる。」

俺は、部屋に戻って、梅に伝えた。梅は1人で一階に行くと言った。
しばらくして応接間に観にいくと、もう2人の姿はなかった。

俺はもう一泊した。梅の温もりはそこにはなかった。

ということで、今日はこの辺りで、さらばである。
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