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第十六章 最終学年

135、これからの幻想

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櫻は父の新聞を読んでいた。
朝、早朝にすでに家を出てしまっていたので、学校に行くまでの間、ゆっくりと読んでいた。


そこで、英和塾についての記事があった。
どうやら留学から帰ってきた女性が女学校の後に入る塾として英語専門の学校を作ったというのだ。

その記事に櫻は目を奪われた。
今、何名かの学生が英語を中心に勉学しているらしい。


とても興味深かったが、今この家で聞ける雰囲気ではない。
女中3人はそういったことも知っていそうだったが、皆仕事に勤しんでいた。


しばらくすると望月が迎えにきた。
「やあ。」
「望月さん、毎日ありがとうございます。」
「えへん。」
「らしいですね。」


二人は車へと向かった。
乗車すると櫻は開口一番望月に聞いた。
「あの、今朝新聞で英和塾の記事を読んで。」
「ああ、今話題だよね。」
「そうなんですか?」
「うん、津田くんて女性がね、いずれは大学にしたくて開校したらしいよ。」
「大学?」
「そう。女子の大学はないからね。」
「でも師範は。」
「英語に特化させたら師範学校の認可はおりないだろ?」
「それもそうですね。」
「でも、僕はとてもいい考えだと思う。」
「そう思いますか?」
「意外に櫻くんに合うかもね?」
「え?」
「だって、英語の教師にだってなれるかもしれないし、英語を使う仕事に就くかもしれない。」
「時々まともなこと言いますね。」
「僕だって、変人ばっかじゃないよ。」
「でも、どうしてしってたんですか?」
「ああ、津田くんがね、アグリの店の常連さんで。」
「え?知らなかった。」
「櫻くんは裏方だからね。」
「では洋装で?」
「そりゃパーティーの時は洋装だろうけど、普段は和服じゃない?」
「そこは詳しくないんですね。」
「アグリの仕事だもの。」
「ああ、干渉しないんですものね。」
「そう。僕の小説もね。」
「あぐり先生は親しいんですか?」
「そうだね。津田くんと年齢が近いしね。」
「お若い方なんですか?」
「うん、10歳くらいで外遊して10年くらい米国に行ったんじゃないかな。」
「え?」
「そういう経歴の人もいるってことさ。」
「羨ましいですね。」
「まあ、周りから見たらそうかもしれないけど、黒髪の黄色い肌は差別されたんじゃないかな。」
「え?」
「僕だって、フランスでアジア人だってことで入店お断りされたよ。」
「初めて知りました。」
「まだ、下等民族と思われてる節はある。」
「英和塾、どこにあるんですか?」
「武蔵野だったかな。他にも六本木にも他の人が開いた塾もあったな。」
「詳しいですね。」
「僕は職業婦人を書く小説家だよ。」
「そうでした。」
「まあ、いろんな女性に取材してね。今度、行ってみる?」
「え?いいんですか?」
「ああ、津田くんに話しておいてもいいよ。」
「ならぜひ。」


この会話が櫻の人生を大きく変えることは二人ともまだ今は知らない。
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