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第十六章 最終学年

133、会いに行けば迎えに来る

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冨田カヨは迷っていた。

このまま大杉と恋愛を続けていいものか。

今日は特に約束もしていない。大杉がどこにいるのかもわからない。
でも、会いたいと思った。

編集部で仕事が終わった後、上野に行った。
もしかしたら演説しているかもしれない。

それは当たった。
瞬間、カヨは雷に打たれたような感触を得た。

しかし、たくさんの人がごった返していて、大杉を見ることはできても気が付いてくれるとは思えなかった。

カヨは演説の後半まで彼の発言を聞いていた。
決して間違っていない。
でも、この社会とは相反している。

もうすぐ終わると思った時、カヨは演説から背を向けて上野の街を目指した。

当て所もなく。
百貨店があったから、その中でフラフラした。
1時間くらい経ったのだろうか。

婦人の財布売り場位にいた。

「ああ、やっといた。」
「え?」
カヨが目を上げると、そこに大杉がいた。

「どうして?」
「だって、さっき演説聞いてくれていただろ?」
「え?」
「よく見えていたから。」
「だって、あんなに人がいたのに。」
「うん。でも、君の目は光っていたから。」
「キザなこと言うのね。」
「ここで話していても邪魔になるからどこかへいこう。」
「じゃあ、私の家に行きましょう。」


カヨの家は上野から歩いて行けるところにある。

「でもさ、君がこの秋の中に演説を聴きに来ると思わなかった。」
「秋だからよ。」
「ん?」
「秋は一人ではいたくないから。」
「てっきり君は読書の秋だと思ったよ。」
「読書なら毎日仕事でさせられてるわ。」
「君の転職だね。」
「あなたは今の活動は転職?」
「転職かどうかは誰かが決めることだろ?」
「え?」
「僕はしたいことをしてるだけさ。」
「したいことをしてるだけ?」
「そうだよ。君も違う?」
「仕事は。でも他は。。。」
「僕を独り占めしたい?」
「。。。。」
「じゃあ、今夜は僕は君だけの僕になろう。」
「え?本当に?」

「ああ。」

二人は腕を組んで歩いた。
まだコートは薄い。
それ肌の温もりを感じる。
それをとてもカヨは幸せに感じた。

「じゃあ、今日は私だけのあなたね。」
「ああ。」

夜道は暗い。
しかし、月明かりは二人を照らしていた。
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