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第十六章 最終学年

115、バイバイ プライド

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櫻は大杉への手紙をかけないでいた。
実際、受験勉強は佳境に入っていたし、自分の気持ちをまとめるのが中々難しかったのだ。

最近は仕事を休ませてもらっている。洋装店も出版社も。
10月に入ってからは勉強に入ったほうがいいと家庭教師に言われたからもある。

しかし、それが仕事とという櫻を支えていたものが失ってしまうことになってしまった。
幼い頃から、自分を支えていたもの。
仕事をしているということがプライドであった。

なんとなく、ふわふわしている自分を誇れないでいた。

集中できない、勉強中の中で家の自室でぼーっとしていた。

外は秋雨が降っている。

玄関でベルが鳴った。
夕方の時間に鳴るなんてどんな来訪者か気になった。

しばらくすると、部屋がノックされた。
「櫻お嬢様。」
「はい。」
ナカが声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「あの、望月アグリさんとお嬢さんがお見えで。」
「え?」
「お通ししていいですか?」
「はい、もちろん。リビングへ。」

そう言いながら、すぐに玄関へと櫻は向かった。
和子をおんぶして、傘を持ったアグリが立っていた。

「先生。。。」
「櫻さん、来ちゃったわ。」
「こちらだと、、リビングへ。」

そっと、傘を預かり、リビングへ案内した。

二人でソファへと座った。
「ああ、佐藤支店長がご不在で来るのも迷ったんだけど。」
「いいえ、先生は私のお姉さんですから。」
「そうね。でも、ここではあなたは弟子ではなくお嬢様だし。」
「そんなこと言わないでください。」
「ちょっと、やつれたわね。」
「え?」
「あのね、ヨウスケさんがいうの。櫻さんに必要なのは君だって。」
「望月さんが?」
「ありがとうね。あの人に仕事を与えてあげてくれて。」
「いえ、辻先生が。」
「でも、何もしてないと、あの人ダメになってしまうのよ。」
「そうなんですか?」
「人ってね、忙しいほうが幸せかもしれないわね。」
「先生も?」
「櫻さんも?」
「はい。考える時間が多くて。なんだかぐちゃぐちゃです。」
「恋に迷ってるって。」
「望月さんが?」
「それだけ。」
「そうです。実は、大杉さんと会う約束がご破産になって。」
「それは残念ね。」
「会うことより、自分の思いを整理したかったんです。」
「そうね。」
「でも、会わないと、自分の中で大きくなってしまって。」
「あなたってそういう人だったわね。」
「はい。」
「でも、あなたのプライドは失ってないわよ。」
「え?」
「プライドは積み重ねたもの。だから、急になくならない。」
「先生、どうしてわかるんですか?」
「恋は人を狂わせることがあるの。でも、辻さんにしても、大杉さんにしても、あなたが今まで築いてきたものとは何も関係ない。だから、佐藤櫻は自信持って生きて欲しいの。」
「。。。ううう。。」

また、アグリの前で泣いてしまった。
でも、同時に和子が笑った。
そのうちに3人で笑い合ったのだ。
変なプライドは捨てて、本当のプライドを持とうと思ったのだった。
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