392 / 419
第十六章 最終学年
113、コングラチュレーション
しおりを挟む
辻は出版社を訪れていた。
目的は望月だ。
学校のそばで望月と話しているのを見られると櫻のことを勘繰られかねない。
かといって、望月の家に行くことも憚られた。
「辻さん、今日は望月さん、来ないかもよ?」
カヨが応接セットで待つ辻に話しかけた。
「ごめんね。君は編集長で忙しいのに。」
「ううん。どうして、直接会わないの?」
「聞いてない?」
「うん。」
「今、櫻くんの運転手をしてもらってるんだ。」
「あら、だから出社もあまりしないのね。」
「あいつ、給料どうしてるの?」
「ああ、歩合よ。」
「月給じゃないんだ。」
「うん。だって、作家が忙しくなったらこっちも困るしね。」
辻はカヨが大杉と近い人物と知っていた。
だからこそ、もう櫻のことは知っているのだとも感じた。
「カヨくんも仕事やプライベイトで忙しいだろ?」
「うーん。その答えに関しては保留ね。」
「保留?」
「うん。あなたと私の関係、今微妙じゃないかしら?」
「やっぱり気が付いてる?」
「うん。だって、あの人堂々と言うんだもの。」
「そうなんだ。」
「辻さんらしくないわね。」
「うん。だから望月に会いに来た。」
「私がいると知っていても?」
「うん。」
そう聞くと、カヨは会釈をして、席に戻って行った。
そもそも学校が終わってからだから夕方に来たので、会えない可能性の方が高かったのだ。
そう、辻は思った。
「コングラーチュレーション!」
扉を開けて入ってきたのは、望月だった。
17時半である。
「やあ、みなさん!って言ってももうすぐ帰るか。」
と、あまり周りを見ず、スタスタと自分の席に望月は行ってしまった。
急いで辻はその席に行った。
「あれ?辻くん?」
「ああ、君に会いに。」
「伝言でもしてくれればよかったのに。」
「いや、急に思い立ってね。」
「ああ、辻くん、女難の相が出てるね。」
「わかってるんだろ。」
「ああ。でも、いい機会だよ。」
「いい機会?」
「そう、コングラチュレーション。」
「祝われるタイミングじゃないが。」
「違うよ。ボクが。」
「え?」
「和子の100日祝いしたんだよ。」
「そんな時期か。」
「ちょっと遅くなったけどね。」
「お祝い渡さないとな。」
「いいよ、辻くんからは今は給金だってもらってるし。」
「それは対価だよ。」
「ぼくさ、風船みたいな生活してただろ。だから、書けないけど、労働もいいもんだと持ってね。」
「どうして出社を?」
「今ならさ、サラリーの人の気持ちがわかる気がしてさ。」
「君はいつも書くことに真っ直ぐだな。」
「まあさ、櫻くん、株と同じで待つことだよ。」
「株とお同じ?」
「上がったり下がったり。下がった時見るとだめだよ。でも、長期運用すると計算上儲かる。」
「櫻くんは株じゃないよ。」
「人の気持ちもそう言うもんだってこと。」
望月の表現は独特だったが、辻の気持ちが少し落ち着いたのは確かであった。
目的は望月だ。
学校のそばで望月と話しているのを見られると櫻のことを勘繰られかねない。
かといって、望月の家に行くことも憚られた。
「辻さん、今日は望月さん、来ないかもよ?」
カヨが応接セットで待つ辻に話しかけた。
「ごめんね。君は編集長で忙しいのに。」
「ううん。どうして、直接会わないの?」
「聞いてない?」
「うん。」
「今、櫻くんの運転手をしてもらってるんだ。」
「あら、だから出社もあまりしないのね。」
「あいつ、給料どうしてるの?」
「ああ、歩合よ。」
「月給じゃないんだ。」
「うん。だって、作家が忙しくなったらこっちも困るしね。」
辻はカヨが大杉と近い人物と知っていた。
だからこそ、もう櫻のことは知っているのだとも感じた。
「カヨくんも仕事やプライベイトで忙しいだろ?」
「うーん。その答えに関しては保留ね。」
「保留?」
「うん。あなたと私の関係、今微妙じゃないかしら?」
「やっぱり気が付いてる?」
「うん。だって、あの人堂々と言うんだもの。」
「そうなんだ。」
「辻さんらしくないわね。」
「うん。だから望月に会いに来た。」
「私がいると知っていても?」
「うん。」
そう聞くと、カヨは会釈をして、席に戻って行った。
そもそも学校が終わってからだから夕方に来たので、会えない可能性の方が高かったのだ。
そう、辻は思った。
「コングラーチュレーション!」
扉を開けて入ってきたのは、望月だった。
17時半である。
「やあ、みなさん!って言ってももうすぐ帰るか。」
と、あまり周りを見ず、スタスタと自分の席に望月は行ってしまった。
急いで辻はその席に行った。
「あれ?辻くん?」
「ああ、君に会いに。」
「伝言でもしてくれればよかったのに。」
「いや、急に思い立ってね。」
「ああ、辻くん、女難の相が出てるね。」
「わかってるんだろ。」
「ああ。でも、いい機会だよ。」
「いい機会?」
「そう、コングラチュレーション。」
「祝われるタイミングじゃないが。」
「違うよ。ボクが。」
「え?」
「和子の100日祝いしたんだよ。」
「そんな時期か。」
「ちょっと遅くなったけどね。」
「お祝い渡さないとな。」
「いいよ、辻くんからは今は給金だってもらってるし。」
「それは対価だよ。」
「ぼくさ、風船みたいな生活してただろ。だから、書けないけど、労働もいいもんだと持ってね。」
「どうして出社を?」
「今ならさ、サラリーの人の気持ちがわかる気がしてさ。」
「君はいつも書くことに真っ直ぐだな。」
「まあさ、櫻くん、株と同じで待つことだよ。」
「株とお同じ?」
「上がったり下がったり。下がった時見るとだめだよ。でも、長期運用すると計算上儲かる。」
「櫻くんは株じゃないよ。」
「人の気持ちもそう言うもんだってこと。」
望月の表現は独特だったが、辻の気持ちが少し落ち着いたのは確かであった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる