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第十六章 最終学年

110、現代迷走百科

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櫻はベッドに横たわりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

「辻先生、私ちゃんと話さなくちゃいけなくて。」
「どうした?」
「私、体が半分こになっちゃったみたいで。」
「僕みたいな表現するね。」
「辻先生の影響かな。。。」
「気持ちだろ?」
「。。。。」
「薄々は感じていた。」
「あの、うまくまだ言えないんです。」
「わかってる。でも、僕は君に大杉にあわせると言って、結局まだ会わせていない。」
「会ったらどうなるかわからないです、私。」
「小手先で叶う恋じゃないからね。」
「え?」
「僕の問題だ。今まで女性とは軽くしか付き合ってこなかった。」
「でも?」
「櫻くんのことになると、どうしても束縛してしまっていた。」
「先生は全然束縛なんてしてないです。」
「どこかで、大杉くんが会えない状況ができた時安心したんだ。」
「え?」
「彼が今特高に追われて、それが大事になっているのが、少し。」
「ちょっと意地悪なんですね。」
「それが恋だよ。」
「私も、そう言う意味では意地悪ですね。」
「そうかな?」
「だって、口に出して、二人を両天秤にかけるようなことを言って。」
「それは僕を思って能登だろ?」
「私、先生のこと、本当に大事なんです。だから、嘘つきたくなくて。」
「素直は時に罪だね。」
「そう、私は罪を犯しているのかもしれません。」
「前にも言っただろ。自由を奪う権利は僕は持っていない。」
「でも、先生にこんなにいっぱいしてもらってるのに。」
「大杉くんのことは、直接会えなくても、手紙でも何かしら君と接触させておくべきだったね。」
「いえ。。。」
「実際ね、彼と会ってる女性たちは特高のマークがついてるんだ。」
「え?」
「その中には君の知ってる人もいる。」
「。。。。そんな。。」
「僕が言えたことじゃないけど、大杉くんは北欧式というか、自由恋愛はパートナーを決めないものを実践してるんだよ。」
「パートナーを決めない?」
「そう。その時いたい相手といる恋愛。」
「じゃあ、子供は?」
「今は離婚して離れてる。でも、彼らしいのは堂々と会いに行くんだ。」
「不思議な人なんですね。」
「僕は、君の気持ちをコントロールはできない。その代わり。」
「その代わり?」
「君から大杉に手紙を渡すことができるように手筈を整えるよ。」
「先生を傷つけてそんなことしていいんですか?」
「君が言い出したことだよ。」
「そうです。」
「女学生と言っても、君はもうすぐ大人だ。」
「。。。。」
「自立した女性になりたいんだろ?」
「はい。」
「そう。その真っすぐさが、佐藤櫻だよ。僕の好きな。」


最後の言葉が櫻には突き刺さった。
涙が溢れた。
愛おしいこの人を離したくない。
その一方で他の人が気になっている。
それは浮気者なのかもしれない。でも、櫻は大杉と向き合って、辻と歩んでいきたいと思った。
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