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第十六章 最終学年

107、尻軽女

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望月は朝、櫻を学校に車で送ったと、佐藤邸の車を使って、ドライブしていた。

まだ、書くことには前向きな気持ちになっていなかった。

銀行で働く和子の家に行くことにした。
なぜかというと、和子は火曜日は休みにしていたからだ。


「やあ。」
「いつも、望月さん、突然ね。」
「だって、通信手段がないじゃないか。」
「電報があるじゃない?」
「でも、僕への電報はどうするんだい?」
「それもそうね。」

和子は望月を家に迎え入れ、一通り男女の交わりをした。

布団の上で、和子がタバコを吸っていた。
「寝タバコすると危ないよ。」
「あなた、まともなこと言うのね。」
「まともかな?」
「望月ヨウスケって破天荒だと思ってたから。」
「和子さんだって真面目じゃないよ。」
「それって尻軽ってこと?」
「いや、そう言うことじゃないよ。」
「じゃあ何?」
「いや、君を表す言葉が出てこないな。」
「小説家なのに?」
「ああ、今書けないんだ。」
「だから、私の家にいるわけね。」
「そうともいう。」
「傷つくわよ。」
「そうなの?」
「あなた、時々、天然に生えてる草みたいに悪気なく言う。」
「天然に生えてる草って猫じゃらしみたいな?」
「そう。望月さんにはお似合いじゃない?」
「ははは。それはそうだ。猫じゃらしだね。」
「言われて笑うのはあなたくらいよ。」
「そう?」
「普通は機嫌悪くなる。」
「いろんな男を知ってるんだね。」
「そうね。数が多ければいいってことはないんだけど。」
「君は縛られたくないんだろ。」
「そう。」
「僕もだよ。」
「でも結婚してるじゃない?」
「始まりが結婚だっただけで、アグリとは縛られた関係じゃないよ。」
「不思議な結婚ね。」
「そうだね。アグリが自立してるし、僕はヒモだね。」
「ふふ。ヒモの遊び相手なんて、私も大概ね。」


二人で笑った。
和子はタバコを望月に勧めた。
「ああ、ごめん。今は吸ってないんだ。」
「どうして?」
「夕方、娘を風呂に入れるからさ。」
「赤ちゃんを?」
「うん。」
「天下の望月ヨウスケが子育てしてるなんてね。」
「いや、お風呂当番てだけさ。」
「でもタバコ?」
「ああ。ある日タバコを吸って娘をタライに入れようとしたら、偉く泣くんだ。」
「泣くの?」
「そう。タバコの刺激的な香りが赤ん坊にはダメみたいでね。」
「誰か研究でも?」
「いや、うちの娘だけかもしれない。」
「その日、たまたまだったかもしれないわよ。」
「いや、二、三回やったけど、タバコの日だけ泣いた。」
「あら、そう言うもんなの。」
「役目を終えたら、また吸うと思うけどね。」
「私は尻軽なのに、子供もいなくて、どうなるかしらね。」
「意外にいい亭主に恵まれるかもよ。」
「そんな持ち上げても、何も出ないわよ。」


望月はこの魅了的な女性が自分を尻軽といい、貶めているのがすこし悲しかった。
でも、大切な人間には変わりなかった。
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