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第十六章 最終学年

79、若葉守帰り道

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若葉守はバーから出て、旧友と別れを告げた。


少し、街を歩く。
女性が接待する飲屋街に来て、飲み直そうかと思い、考え直した。
ああ、俺には何人もいるじゃないか。
しかし、絶対というのはいない。


気を取り直して、ある女性の部屋へ向かおうと街を歩いた。
少し歩いた駅に向かおうと思ったのだ。
気分を取り直すために。


前方に辻らしき人を発見した。
すかさず、若葉は隠れた。
もしかしたら、女性と一緒かもしれない。
それをネタに辻に付け入れるかもしれない。
そんな風に考えた。

しかし、驚いた。
男としがない飲み屋から出てきた。

(あいつは、だれだ?)
若葉は頭の片隅に見覚えがある人物だと認識した。
ぐるぐる頭を回してその人物を抽出してみた。

「あ!」
心の声が出てしまった。

あれは、今特高が一番狙っているという大杉ではないか。
大杉と一緒にいることがわかったらそれは学校を追われる、そんな人物だ。


なぜ、大杉と一緒にいるのか?
辻が以前、ダダイズムに傾倒していたのは知っている。
しかし、ダダイズムは社会主義者ではない。

いそいそと、二人は車に乗り込んだのを若葉は見た。


これはどういうことだ。
話をするだけだったら、あんな安酒屋に行く必要がるのか?

これはいいものを見たと、気持ちを変え、最寄駅から女性の部屋へと向かった。


若葉は山手にある一人暮らしの女性の家をノックした。
「あら、守さん、久しぶりね。」
「ああ、仕事が忙しくてね。」
「そうなの。学校は忙しい?」
「うん。君は?」
「父がそろそろ腰掛けやめて田舎で見合いしろって。」

女性は宇都宮の富豪の娘だった。
娘に甘い父は2年の猶予を与え、都内で腰掛け仕事(簡単な書類整理)を与えた。


「私も、東京になれたから、もうこちらでずっといたいわ。」
「いや、でも君らしく生きるためにはお父上に従わなくては。」
「本当、守さん、先生みたいなこと言う。」


そう言って、女性は守に口付けした。
そうして、二人はなし崩しにことに及んだ。

守は女性を抱きしめながら、今日見かけた辻の弱点について心からワクワクしていた。
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