上 下
349 / 419
第十六章 最終学年

70、お嬢様、どうぞ

しおりを挟む
望月に促され、家の前に停まっている父の車へ向かった。

「お嬢様、どうぞ。」
「え?」
「だって、君、この家じゃお嬢様って呼ばれてるんだろう?」
「ですけど。。」
「さすがって感じだよね。僕は今、運転手だからね。」
「運転手の方が敬語を使われないんですか?」
「僕だって使えるよ。でも気を使わせるだろ。」

先ほど、父にも敬語を使っていないこの男はもう、なんでも許されると思っているのだろう。


「じゃあ、後ろの席に座ってもらって。僕は運転席に行くよ。」
櫻を乗せると、ドアを閉め、望月は運転席へ向かった。

「こういうこと、できる方だったんですね。」
「ん?何が?」
「ドアを閉めるとか。」
「棘があるなあ。」
「いえ、望月さんは自由な方だと思っていたので。」
「僕は西洋式だよ。」
「西洋式?」


そう櫻が尋ねると、車は緩やかに発車した。

「僕はさ、まだ顔が世間に知れ渡ったりしてないから、安心だね。」
「一部の方はご存知なんじゃないですか?」
「ダダの世界はまだ小さいよ。」
「小さい?」
「辻くんがフランスから取り入れて、徐々に仲間を増やしたけどね。」
「今、先生は書いてないですよね。」
「うーん。どうなのかな。書いてるけど世間に出してないだけかも。」
「どうして?」
「うん。それはね、仕方のないことなんだよ。」
「え?」
「ダダを貫くには教師は愚問だからね。」
「教師とダダは一緒じゃダメなんですか?」
「うーん。僕は編集者もしてるだろ?」
「フルタイムじゃないですけどね。」
「もう、棘があるなあ。まあ、いいけど。それでさ、ダダが世の中に普及してないないことが悔しいんだよ。」
「え?」
「だから、僕は書き続けた。でも、アグリが働いていないと書く気が起きないんだ。」
「それって収入に頼るってことですか?」
「違う、違う。彼女をモデルに書く作品が多いからだよ。」
「そうなんですか?」
「うん。どんな役でも彼女がいないことはない。」
「アグリ先生はご存知で?」
「言わないよ。」
「どうして?」
「僕がもし、死んだ時、アグリが知ってくれればいいんだ。」
「え?」
「もし、僕が何かの拍子でアグリより先に向こう側に行ってしまったら、その時彼女に書いているものから自分を感じて欲しいんだ。」
「私だったら生きている間に知りたいです。」
「そうだよね。でも、僕はアグリへの愛情はそういうことなんだ。」
「拗らせてますね。」
「そうかな?」
「辻先生もそうなのかな。」
「もしかしたら、まだ彼は筆は折っていないかもしれない。本当にいいんだよ。」
「え?読んでみたいです。」
「あ、じゃあ大学時代の同人誌を明日持ってくるよ。」


櫻は意外にも望月と辻の作品を読む機会を得た。
明日がワクワクする通学だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...