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第十六章 最終学年

41、初めての海水浴

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翌朝、朝食をとり、今日することを和枝と話した。

「ねえ、今日は何をするの?」
「まだ、お姉様たちが来ないから、海水浴にしましょう。」
「ああ、私水着を持ってないわ。」
「辻百貨店に沢山おいてあるわよ。」
「わかってたのに、忘れてたわ。」
「勉強の虫だもんね、櫻さんは。」
「褒め言葉?」
「うん、そう取って。ふふ。そう思ってね、私、いくつか持ってきたのよ。」
「水着、何個も持ってるの?」
「新しいデザインのが出たら欲しくなるじゃない?今年は二つ買ったから5つ持ってきたわ。」
「すごいのね。」
「櫻さんも、買い物をすることを楽しみにするといいわ。」
「どうして?」
「だって、もしお父様のお仕事を手伝うことになったら、売る側じゃなくて買う側の気持ちを知っておかなきゃでしょ。」
「時々、和枝さんってすごいこと言うわね。」
「どうして?」
「だって、それって的を得たことだから。」
「あら、褒めてくれた。」
「うん、褒めたわ。」
「私たち、補い合ってるわね。」
「そう?」
「うん。」
「じゃあ、海へと行きましょ。」


そう言って、上野家の車で海へ向かった。
海には海の家というものがあり、そこで着替えられるとのことだった。
「櫻さん、この水着、あなたに。」
和枝は桃色の水着をわたした。
「え?いいの?」
「桜色だからね。」
「え?」
「あなたの色。私は水が大好きだから、お揃いの柄で青にしたわ。」
「今年買った水着の一着は私のために?」
「うん。でも、前もっていうと、あなた恐縮するでしょ。」
「色々わかってるのね。」
「親友だから。」


水着を着替えた時、櫻は泣いてしまった。
和枝とは別の部屋であったから。
彼女があまりにも優しく、自分を理解してくれているから。
涙を拭って、海の家を出た。


「さあ。櫻さん泳ぎ方を教えるわ。」
「え!できるかしら?」
「いいの!」

二人は海に向かって走った。
それはそれははしゃいで。
それについても誰も見ていないが、櫻は広い海と青い空が心を開放してくれた。
そして、和枝と一緒にいることに本当に幸せを感じた。

実際、泳ぐことは1日目からは難しかったが、水を掛け合ったり、砂の城を作ったり、海を楽しんだのであった。
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