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第十六章 最終学年

35、お披露目会 続き

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和子を抱っこした望月の周りに弟子たちが賑やかに集まっていた。

そこに会話の終わった淳之介も加わって行った。

ふと、櫻の隣にアグリが来ていた。

「お久しぶりって言っても、顔は合わせてたわね。」
「そうですね。家庭教師できてたから。」
「もう、10年以上ぶりの赤ん坊でしょ。だからなかなか落ち着かなくてね。」
「先生でも?」
「やっぱり若い方が体力もあるし、いいわね。」
「先生は十分若いですよ。」
「あら、そんなこと言っても何も出ないわよ。」
「でも、先生、和子ちゃんが生まれてもデッサンも続けてたってさっき姉弟子さんから。」
「うん。だって、遅れられないしね。」
「でも、両立って。」
「まあ、2回目だしね。」
「でも、今回は弟子じゃなくてお店の主人ですし。」
「うーん。私の中では何も変わってないの。淳之介も和子も。」
「変わらない?」
「うん。櫻さんはどうおもう?」
「どうって?」
「私の生き方」
「憧れます。」
「そんなたいそうなことじゃないのよ。率直に。」
「あの、以前、電車で子供づれの職業婦人に会ったんです。」
「うん。」
「その方、他の乗客と揉めて、でも働かなきゃいけないから世の中が憎いって。」
「そうね。それは言える。」
「変わって欲しいですか?」
「うん。世の中が女性が働きやすくなってほしい。今は母がいるからいいけど、そうじゃない人だってたくさんいるでしょ。」
「そうですね。私も働きたいけど。」
「子供を持つのを躊躇っちゃう?」
「うーん。できればたくさん欲しいです。」
「世の中の女性連盟では女性は家庭で子供を育てて家事をすべきって言うのもあるのよね。」
「私もその記事、この前読みました。」
「確かに子供のためにはその方がいいかもしれない。でも、私は私らしく生きてる姿を子供に見せたいの。」
「そうするとみなさんで協力して育てていくんですね。」
「それでね、私、2号店をこの家の近くに建ててもいいのかなって思ってきたの。」
「え?」
「まだ、幸い土地は余ってるし、この辺りの方は電車や車に乗ってわざわざ仕立てに行くでしょ。それがこう言う街にあってもいいのかなってね。」
「てっきり、百貨店に入るのかと思ってました。」
「あら、そうね。そうしたらあなたのお父様に恩返しできたけど。」
「私ね、女の子を産んで、色々思うことがあったのよ。」
「何をですか?」
「この子を色々着飾りたいなってね。できれば、家の近くに仕立て屋があったらいいなってね。」
「自分の気持ちから出たものだったんですね。」
「幼い頃は一瞬よ。あなたはその大事な時を苦労した。だからこそ、私よりとてもいい親になると思う。」
「そうですか?」
「だって、こうしたかったって思い、強くあるでしょ?」
「確かに。。。」
「子供はそれをちゃんと受け取ってくれる。あとは、淳之介のお姉さんになってくれてありがとう。」
「え?」
「あの子、ずっとお姉さんに憧れてた。だから、あなたがいて。」
「それは私もです。あぐり先生のことお姉さんだと思ってるし、淳之介くんは弟のように、」
「不思議ね。」
「和子ちゃんがまた人の輪を繋いでくんですね。」

二人は微笑んだ。そして、この関係がずっと穏やかに続くことを願った。
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