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第十六章 最終学年

30、夏になって

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6月に入ると、忙しい日々になった。
淳之介の家庭教師、洋装店の経理、出版社への勤務、ノアの授業、空いている放課後は師範の勉強に充てた。

学校にいる間は前年のように勉強するのではなく上野とよくいた。
学生生活をきちんと味わいたかったのもある。

「櫻さん、忙しそうね。」
「うん、勉強も他の家に行ったりとかね。」
「いいお家のお嬢様になっても色々大変なんだね。」
「和枝さんだって。」
「そう、姪がねそれはやかましいわよ。」
「可愛くないの?」
「可愛いわよ。でも、みんなそこにかかりっきり。」
「じゃあ、和枝さんは放置なの?」
「その通り!」
「あら、でも、将来のこととか考えるといいんじゃない?」
「どうして?」
「だって、お見合いとかたくさん勧められても」
「それはね。でも、いい人がいたら私結婚してもいいのよ。」
「え?」
「ああ、もちろん、職業婦人にはなってみたいわよ。でも、結婚までの間。」
「そうだったのね。」
「結婚相手は親が決めるでしょ。だから、姉さんみたいに余計な体験をせずに気の合うフィアンセが欲しいわ。」
「お見合いって難しいんでしょ?」
「櫻さんはお父様から言われないの?」
「ああ、そうね。」
「なんだか、歯切れが悪いわ。」
「うーん。でもね、私師範に行きたい一心だし、ちょっと考えられないっていうか。」
「そうかあ。でも、私は落ち着きたいわ。お姉さんみたいに揉めたくないの。」
「恋愛は御法度?」
「うーん。職業婦人になって、余計な人と出会って恋に落ちてもなんだかね。」
「そうなのかあ。」
「それはそうと、夏休みの予定、決めた?」
「え?」
「最終学年だし、勉強ばっかりも?」
「考えてもなかった。」
「櫻さんてそういうとこ、抜けてるのよね。」
「うーん。でも、他にすることないし。」
「じゃあ、うちの別荘に行かない?」
「別荘?」
「館山に別荘があるの。花火大会は本当に綺麗よ。」
「私が行っていいの?」
「それはもちろんよ。でも、姉さん家族もいるかも?」
「それじゃおじゃまじゃ?」
「私は肩身が狭いのよ。友達と遊びたいわ。海岸もあるし。」
「私、まだ海水浴したことない。」
「櫻さん、本当、何も勉強づけだったのね。」
「うーん、そうかなあ」
「行こう!お父様に聞いてみて?」

その話を聞いた時、櫻は少しワクワクした。
実際、海水浴は雑誌でしかみたことがなかった。
東京でも大森まで行けばできると聞いたが、行くことも考えてなかった。
最終学年のいい思い出に行ければいいと、父に相談しようと思った。
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