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第十六章 最終学年

29、夏の香り

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櫻が佐藤家にやっていて、1ヶ月半が過ぎた。春というのに暑くなってきた。
5月というのはこんなに暑かったのか、そんなことを櫻は考えていた。
もうすぐ梅雨がやってくる。だから蒸し暑くもある。

スエが休日の櫻に話しかけてきた。
「お嬢様、夏用のお洋服などお買い物なさいますか?」
「え?」
「辻百貨店では色々ありますので。」
「私が汗だくなの気になさってくれたんですね。」
「それはもう。」
「あら。スエさんはなんでもお見通しですね。」
「どうなさいますか?」
「望月洋装店でお世話になってるから、お父さんのところで買いたい気持ちもあるんですが。」
「洋装店で売っていないお品になさったらどうですか?」
「え?」
「たとえば、最近入った舶来のブラウスとか。」
「ああ、考えたこともなかったです。」
「望月さんも櫻お嬢様が百貨店でお買い物しても大丈夫だとも思いますよ。」
「え?どうして?」
「私は、あぐりさんと少ないですがお付き合いがあります。」
「初めて聞きました。」
「そうですよね。アグリさんが、百貨店で開催される勉強会に来たときに知り合ったのです。」
「勉強会?」
「そう。経済の勉強です。」
「お二人ともすごいですね。」
「やっぱり知らないといけないことですからね。」
「でも、女性は少なかったんじゃないですか?」
「それが、ご主人様の宣伝は女性が学ぶ経済学だったんですよ。それで全員女性で。」
「お父さん、すごいですね。」
「ご主人様は女性が社会に出ることに賛成されています。でも、無知は恥という世の中です。女が馬鹿にされちゃいけないと、私はその講座に参加しました。」
「どうでした?」
「勉強会もためになりましたが、その後の交流会は本当に有意義でした。」
「そんなことまで。」
「そこで、望月あぐりさんと意気投合したのです。」
「知りませんでした。」
「彼女は勉強にたいして、とても前向きな方です。だから、話が合いました。」
「そこで、あぐり先生はなんと?」
「いろいろなお店が競合するのはいいことだけれども、それぞれが個性を持ってお客様もお店を選べるといいと言ってました。」
「そんなことを。」
「だから、今日、ナカと百貨店で夏服のお買い物してきてください。」
「いいんですか?」
「はい。車を運転できるものはいないので電車になりますが。」
「全然、私、電車好きですから。」
「では、楽しんできてください。」

櫻はその後、ナカと百貨店で買い物を楽しんだ。
今までは従業員としてしかみていなかったが、お客としてきた百貨店は本当に楽しかった。
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