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第十六章 最終学年

12、学友の反応

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最終学年が始まって一週間経った。
櫻がびっくりしたのは、自分が佐藤になったことによって学友の反応が変わったことである。
もちろん、上野和枝はそのままなのだが、その他の学友は全く違う対応だった。

「ねえ、佐藤さん?」
ある女学生、成田エリが話しかけてきた。
「はい?」
「そのお召し物、随分、可愛らしくてね。」
「ああ、望月洋装店で仕立てていただいて。」
「あら、素敵だわあ。」
「とてもいいお店なのでおすすめです。」
「私、いつも百貨店でお買い物しちゃうから、洋装店はまだ利用したことないのよね。」
「とてもいいものがたくさんありますし、私のお世話になった人のお店なので」
「え~!佐藤さん、そんなところにも繋がりあるの?」
「ああ、ええ。」

櫻はちょっと腹が立った。
見た目が変わるだけでこんなにも擦り寄ってくる感じが。

そこへ上野がやってきた。
「成田さん、どうしたの?」
「いえ、佐藤さんのお召し物可愛いってお話ししてたの。」
「櫻さんの着物は以前から望月さんのところを着てたのよ。どうして?」
「え?そうだったの?」
「はい、お世話になっていたので。」
「てっきり百貨店のお父様のお仕立てだと思ったから。」
「え?それ誰に聞いたの?」
「皆さん、佐藤支店長だって、噂しておりますよ。」
「成田さんが吹聴してるの?」
上野は少し強い口調で言った。
「いいえ、私、聞いただけですのよ。だから。」
「ならいいわ。でも、櫻さんは何も変わってない。以前から誠実よ。」

上野が誠実という言葉を使ったとき、父を思い出した。
櫻は誠実とかいてマサミツという父を持ったのだ。
その父に擦り寄ってくるものがる。

「ね、成田さん、普通の友達になりましょうよ。」
「え?」
上野が提案をした。

「あのね、最終学年どう過ごすかによって一生がきまるのよ。」
「それが?私は許嫁もいるし。」
「すぐに結婚?」
「いえ、家事見習いしてから。」
「じゃあ職業婦人をお勧めするわ。」
「どうして働くなんて?」
「これからは男女同権の時代よ。女性も働いてみて、結婚すべきよ。」

上野と成田が少し険悪な空気を出した。

戸惑った櫻はこんな切り出しをした。
「あのお」
「え!」
2人、怒っている。
「私、最終学年、大切にしたいし、いろんな夢を皆さんと語り合いたいです。もちろん、お嫁入りだって素敵だと思います。」
「櫻さん、それでいいの」
「十人十色じゃない?だから。」

櫻の一言で馬が和んだ。

「あら、櫻さんもお嫁いりにご興味が?」
成田が言う。
「私、師範も、職業婦人も、お嫁入りもしたいんです。」
「え!」
「随分、背伸びしたお願いとはわかってるんですが。でも、大切にしたいんです。夢は無料ですから。」

はははと櫻が笑って、3人は打ち解けた。
みな、自分の進路に確信は本当はない。
最終学年が始まったばかりとはいえ、櫻は運命がそれぞれで動いていると感じた。
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