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第十六章 最終学年

5、若葉守の思惑

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若葉守は出勤初日、ある二つの目的について考えていた。

若葉の家はいわゆる中流と上流の中間の家庭で、頭の出来もそこそこだったので難なく早稲田まで行った。
父は財閥系の企業の役職付きだったし、それを望んでいた。
学生時代から早くいい企業のお嬢様との見合いを何度も何度もさせられた。

嫌ではなかった。
むしろ、自分に上昇志向があって、今より高い地位につくという野望に似た目的もあった。
しかし、会う女性、会う女性、みなつまらないものだった。
だから、大学生時代はいつかは出会うだろう見合いを繰り返しつつ、女給とデートして泊まったりもした。

女給は守のことを本気にして、嫁にしてくれと言うものもいたが、遠回しに親が厳しいと断った。
そう言った時、自分の冷たさも感じていた。

なぜ、教師というものになったかというと、たまたま大学で資格を取ったということと、就職活動をしていく上で、友人が言った一言だった。

「なあ、知ってるか?」
「ん?」
「あの辻財閥の坊ちゃんが、銀上で教師やってるらしいぜ。」
「え?」
「若葉は知らなかった?」
「うん。」
「まあ、財閥を継ぐまでのお遊び期間だろうな。」
「どうして、女学校の教師なんて。」
「なあ、わからないだろ?」
「まあ語学に堪能らしいし、大学院の研究も続けてるらしいしな。」
「研究者になるのか?」
「いや、ゆくゆくは財閥系の企業に入って、役職つけて上に行くんだろうな。」
「じゃあ、辻財閥への早道は銀上ってことかもしれないな。」
「若葉も悪いやつだな。」
「いや、思っただけだよ。」

そんなやりとりをした時に、守はもう銀上を受けてみようと思った。
辻が辞めていたら、来年、どこかの財閥系の企業に入れば良い。

受かって、学校に赴任したら、神様の巡り合わせか辻の下になった。
「初めまして、若葉守です。」
「若葉くん、僕は辻です。」
知らないふりをした。
「辻先生は教師は?」
「去年からでね。だから、君とあまり変わらないんだけど、勉強も含めて君を指導させてもらうよ。」
「ぜひ。」
「でも、教師は大変でしょう?」
「僕はね、人に物を伝えるのが好きなんだ。だから、学校が楽しいよ。女学生たちも熱心だよ。」

守は熱心なのは辻の婚約者になりたい一心では?と思ったが言わなかった。

「僕は、何を担当すれば?」
「表向きは生活指導だけど、進路指導してほしい。」
「え?」
「君が、去年まさに就職活動しただろう。女性と男性じゃ違うけど、そこはね。」

まさかそのような担当になるとは思わなかった。
しかし、これこそまた神様は見ている。
自分は令嬢がいたら、そっと近づき、その家に入り込む算段だ。

辻はニコニコしている。
守の野望は知らないだろうと思っていた。
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