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第十五章 佐藤櫻として

22、辻に話して

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櫻の話は続く

「ああ、出版社が見えましたね。」
「うん、あえて通ってるんだ。」
「え?」
「この一週間、君は家の中にいただろ?だから。」
「だから、連れ出してくれたんですか?」
「それもあるけど、今の東京を君の目に焼き付けておきたくて。」
「目に焼き付ける?」
「今、僕はさ、大学でカラクリの研究をしているだろ?きっと、未来の帝都は全く違っている。」
「そうですね。私が上京してからも随分と。」
「そう。僕たちが考えてる以上に変わっていくんだ。街も。」
「でも、東京に出てきてよかったです。」
「うん。君には東京があってるよ。」
「そうかしら?」
「君はね、僕を超えるかもしれない。」
「先生を超える?」
「君には人にはない強い力があるんだよ。」
「強い力?」
「普通の子供だったら耐えきれない生活を送ったのに、諦めずに掴み取ってきた。その経験は誰にも負けない。」
「そうでしょうか。」
「今はお嬢様という身分も手に入れたしね。」
「それは先生がお膳立てしてもので。」
「でも、君らしいお嬢様になっているだろ?」
「先生が、家族を選んでくれたんです。」
「うん。だから、僕は将来君を家族にしたいよ。」
「こんな車内で。」
「ああ、変な意味じゃないから、軽く受け止めてくれ。今、日本の女性には勉強ができない、企業ができないなんてとても狭い世の中じゃないかな?」
「そうですね。」
「君が人に教えを乞う立場ではなくて、人を引っ張っていく人だと思っているんだよ。」
「そうでしょうか?」
「現に、世間に向けて文章を書くことがとても充実してるだろ?」
「そうですね。」
「だから、その序盤として師範学校に行くといいと思う。」
「でも、本音を言うと、私も帝都大に入りたいです。」
「おお、君らしいことを言うね。」
「だって、男性ばかりずるい。」
「そう。いつか、帝都大が女性を受け入れるようになった時、君が教授になったらいいじゃないか。」
「教授?」
「大学の先生さ。」
「私が?」
「君の論分や言論が世間を動かす。それは僕も望んでいる。」

そういうと、辻は少し黙って、窓を開けた。
「ほら、上野の景色を見れごらん。」
「ああ、変わったところがありますね。」
「そうだよ。この前まで君が住んでいたのに。」
「うかうかしれられませんね。」
「そう、君は街に負けちゃいけない。」
「街に?」
「そう。だから、君らしく。」
「私らしく?」
「うん。だから、」
「だから?」
「受験に前向きでいいと思う。何か迷ったら、この辻に何なりと。」

にこやかな笑顔で辻が言った。
太陽の光がさして、彼は逆光だった。
でも、薄い中から彼が満遍の笑みを含んでいるのを感じ取った。
この人は、何て素晴らしいんだろうと改めて櫻は思った。
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