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第十五章 佐藤櫻として

19、ノアとの続き

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ノアとの話は続く

「ノア先生、私、正直いうと、仕事をするのが好きなんです。」
「そうですね。あなたはいろんなところで働いてきましたね。」
「その中でも、辻先生が導いてくれた職業婦人の職業はとても魅力的でした。」
「それをしたいと?」
「はい。今の所。」
「それは今じゃなければいけないですか?」
「ノア先生、どういう意味ですか?」
「勉強するタイミングは若い時ほどいいということです。」
「それって?」
「私は一度、勉強するのを逃しました。」
「え?」
「イタリアで進学できず、そのまま販売員になりました。」
「楽しくなかったですか?」
「いいえ。でも、私はある職場のパーティーで今の主人に出会いました。」
「あ、てっきりフランスでだと思ってました。」
「フランスに行くべきだといったのは主人です。」
「え?」
「宴会の時、ノアがピアノを弾いたのです。それを主人が聞きました。それで、進学するべきだと。」
「どう思いました?」
「変な東洋人だと思いました。思いつきで軽々しいことを言うと思いました。」
「でも、どうして?」
「学費を出すといったのです。」
「え?」
「主人がノアの学費を出すからフランスに行こうといったのです。」
「それって?」
「はい。私をパートナーとして連れて行きたいと言われました。」
「どう言う気持ちになりました?」
「正直、父をイタリアに置いて、フランスに行くことを躊躇いました。しかし、主人は父の世話もすると言いました。」
「よっぽど大切だったんですね。」
「大切?」
「ご主人様にとってノアさんが」
「いいえ。主人は私に恋はしておりませんでした。私のピアノに恋したのです。」
「そんな。いいんですか?」
「私にとってピアノは心臓です。だから、そう言われた時、本当に嬉しかったです。」
「不思議な縁ですね。」
「その後、フランスで勉強をした時、ノアは思いました。」
「何をですか?」
「勉強は若い時にしたほうがいいと。いつでも遅くはありません。でも吸収する力が違うのです。」
「それで。。」
「そう、だから、せっかく佐藤櫻になったのだから勉強続けるべきです。」
「いい体験を聞きました。辻先生に相談してみます。」
「あと、父とも相談すべきですよ。」
「ああ、そうですね。」
「あなたは一人で生きてきた。だから、無理してきた。遠慮すべきではないのです。素敵な人生を。」

その後、ノアとは雑談をして、別れた。辻に話す前に父に話すべきか迷った櫻であった。
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