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第十五章 佐藤櫻として

12、父の書斎

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朝食の後、父を女中たちと見送って、櫻はサキに話しかけた。

「サキさん、父から書斎に入っていいって言われて。」
「はい、ご主人様からも櫻さんが入りたくなったら案内するように言われてます。」
「じゃあ、早速いいですか?」
「もちろんです。」

ナカとスエは掃除をはじめて、サキは櫻を先導して一階の奥の書斎へと向かった。
「奥にあるんですね。」
「そうですね。お客様をお通ししないので。」

その時、自分が客人、いや他人でないことを改めて思った。

扉を開けると、シックな雰囲気の書庫のような書斎が広がっていた。

「わあ、素敵ですね。」
「そうですね。ご主人様は常に新しい販売する家具などを試してから売られるので、まずはご自身で使われるのです。外国で作られた本棚ですよ。」

佐藤家の家具は全体的に日本的なものが少ないと思っていたが、そこまで考えられていることにまた感動した。

「えっと、本を選んでいいそうなんですが。」
「ああ、サキは仕事がありますから、櫻お嬢様がゆっくりなさっていいですよ。この部屋で読んでいただいても。」
「え?」
「ご主人様はご家族にこの書斎を解放していました。だから、櫻お嬢様に入っていただきたいと思います。」
「でも、前のご家族の思い出が。。」
「櫻お嬢様との思い出がご主人様には必要なのです。」
「思い出?」
「櫻お嬢様もじきにはお嫁にいかれてしまうかもしれない。だから、1日1日を大切になさりたいとご主人様は思ってらっしゃるのです。」
「私にできるでしょうか」
「サキが保証します。」
「え?」
「櫻お嬢様は本当の心の持ち主ですからね。」
「でも。。」
「いいのですよ。ではごゆっくり。」

そういって、サキは書斎を出て行った。
一人残った書斎でたくさんの魅力的な本を見つけた。
どれから選んで良いのか迷った。
その中で、政治の本があった。
今まで政治についてあまり勉強してこなかった櫻は興味を持った。

そして、その本を書斎の椅子に腰掛けて読み始めてみた。
集中している時間、櫻は我を忘れて、お昼の食事の用意ができる知らせが来るまでずっとそこにいた。
本はまだ途中だったが、大切な時間だった。
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