夢は職業婦人〜カラクリ御曹司と偽お嬢様の恋

第十五章 佐藤櫻として

５、辻の訪問

お昼ご飯を和やかに食べた後、櫻は女中３人と談笑していた。

ふと、気がつくと1時をまわっている。
玄関の方からリーンとベルが鳴った。

「はーい」
サキが玄関へ向かった。

どうやら知った人が来たようで、家に迎え入れたようだった。

「櫻お嬢様、お客様ですよ。」
「え？辻先生！」
「やあ。」

櫻はどうしていいのかわからなかった。
この家でどう言うふうに接していいのかわからなかったからだ。

「ほら、ぼっちゃま、ちゃんと櫻お嬢様にお話しなさらないから戸惑ってらっしゃるじゃないですか。」
サキが辻を嗜めた。
「ああ、ごめんね。櫻くん。」

サキが話し始めた。
「実は、私たち３人の女中はご主人様から櫻お嬢様が辻のおぼっちゃまとはそう言う仲ということを聞いております。でも、安心してください。」
「え？」
「私たちは他言しません。これは約束できます。安心してこの家でぼっちゃまとお過ごしください。」

「あの。。。」
「櫻くん、驚かせちゃったね。でも、そういうことなんだ。この家の女中さんたちは本当に優秀だし、本当に口が硬いから安心して。坂本も知ってる通りだよ。」

すぐに飲み込めなかった櫻だが、サキに促された。
「ということで、櫻お嬢様、テラスに紅茶を運びますので、ぼっちゃまとゆっくりなさってください。」

辻に導かれて、テラスへと向かった。
春の日差しが心地よい場所である。
「さあ、腰掛けて。」
櫻はソファへ腰掛けた。向かいのソファへ辻も腰掛けた。

「驚かせちゃったね。」
「そうですよ。」
「怒ってる？」
「はい。」
「素直だね。」
「褒められてる気がしません。」
「ああ、本当に怒ってるね。でも、なかなか言うタイミングがなくてね。」
「私が忙しかったのもありますね。」
「まあ、君が君らしい時間を過ごしてほしいと思っていたのも僕の願いだったからね。だから僕と話すタイミングが減ってしまっていたからね。」
「ごめんなさい。」
「いや、謝るのは僕の方さ。」
「ちょっと感情的になって。」
「君が素直に生きるのが一番だよ。」
「でも。」
「まあ、もう仲直りしたし、気にしないで。今日はお話のお土産を持ってきたんだ。」
「お土産？」
「養女になる手続きが役所で明日完了するそうだよ。」
「それって？」
「明日から、佐藤櫻になるんだよ。」
「明日から？」
「そう、明日から。」
「私、まだお嬢様にも慣れていません。」
「いいんだ。徐々にで。君らしく生きることが一番だ。」
「先生って、自由とか自分らしくってよく言いますね。」
「うん。僕はこれは人からも奪いたくないし、自分でも大切にしたいんだ。」
「私、先生との未来のために、自分らしくいきます。」
「うん。ありがとう。」

すると、見計らったのか、スエが紅茶を運んできた。
さすが、とても香りの良い紅茶だった。
二人はテラスでのんびりとした午後を過ごしたのだった。